前回(第2回)は電流と磁界の関係をテーマに、「アンペールの法則」や「電磁誘導」、「変位電流」などをご説明しました。今回(第3回)は電磁気(電流と磁界)と力(運動)の関係をテーマに取り上げます。
電流ケーブルが外部の磁界から受ける力
まず始めは、1本のケーブルを想像しましょう。ケーブルには直流電流が流れています。次に、この電流ケーブルが磁界中に存在すると仮定します。磁界の大きさは時間的に変化しない、静磁界です。すると何が起こるでしょうか。
前回に説明した「アンペールの法則」を思い出してください。電流ケーブルの周囲には磁界が発生しています。このため、ケーブルが発生させた磁界(ここでは単に「磁界」と呼びます)と、先ほどの静磁界(ここでは「外部磁界」と呼びます)が干渉します。
2個の永久磁石を近付けると、引き寄せ合ったり、反発したりする様子を想像してください。違う極が近付くと引き寄せ合い、同じ極同士が近付くと反発しましたね。それと同じことが電流ケーブルと外部磁界の間でも起こります。二つの磁界の向きが同じ場合は引き寄せ合い、完全に逆向きの場合は反発します。このようにして電流ケーブルは、外部磁界によって力を受けるのです。
例えば電流ケーブルがまっすぐ垂直に伸びており、電流が下に向かって流れているとします。そして外部磁界は左から右へ水平方向に加わっているとします。このとき、ケーブルは手前の方向に移動しようとする力を受けます。左手の指に当てはめると、直角に折り曲げた中指が電流の方向、まっすぐ伸ばした人差し指が磁界の方向です。ケーブルが受ける力の方向は、立てた親指の方向になります。この法則は「フレミング左手の法則」と呼ばれています。
モーター(電動機)の誕生
次に外部磁界を永久磁石で作り、永久磁石の間に細いケーブルを置いた状態を考えます。永久磁石は左側がN極、右側がS極です。これで先ほどの説明と同じように、左から右へ水平方向の外部磁界が発生している状態になります。永久磁石の間に垂直に細いケーブルをまっすぐに置いて電流を下方向に流すと、ケーブルは手前に動かそうとする力を受けます。ケーブルが完全に自由に動けるのであれば、永久磁石による外部磁界を抜け出すまで、ケーブルは手前の方向に動いて行きます。
ここで永久磁石とケーブルの組み合わせをもう一組、作っておきます。ただし永久磁石による磁界の向きは反対で、左側がS極、右側がN極です。するとケーブルは奥行き方向へ移動します。
さらに、永久磁石とケーブルの組み合わせを2つ(組み合わせAと組み合わせB)作り、近くに置くことを考えます。しかも2本のケーブルをつなげて平面状の閉回路を作り、電流を流しっぱなしにします(ケーブルのつなぎかたとしては途中で交差する、8の字形になります)。8の字形ケーブルの交差点は固定します。すると組み合わせAではケーブルが手前方向に送られ、組み合わせBではケーブルが奥行き方向に送られて行きます。電流を流し続ける限り、ケーブルはこのようにして回転運動を続けます。
これはモーター(電動機)の基本的な原理でもあります。実際のモーターはずっと複雑で多種多様な原理と構造があるのですが、本稿の趣旨とは外れるのでここでは説明しません。重要なのは永久磁石と細長いケーブルがあり、ケーブルに電流を流すとモーターを作れるということです。
ジェネレーター(発電機)の誕生
それでは、これまでの逆を考えたら、どうなるのでしょうか。8の字形の回転可能なケーブルを作り、二組の永久磁石をケーブルを挟むように配置し、ケーブルに力を加えて回転させてみるのです。
すると回転が続く限り、ケーブルには電流が流れ続けるという現象が発生します。先ほどのモーターでは電流(電気エネルギー)が回転(運動エネルギー)に変換されていました。今度は回転(運動エネルギー)が電流(電気エネルギー)に変換されています。これはジェネレーター(発電機)の基本的な原理でもあります。
先ほどと同じように、1本の電流ケーブルに戻って考えましょう。まっすぐなケーブルが垂直に立っており、外部磁界が左から右の方向に加わっている状態でケーブルを手前に動かします。するとケーブルには、下から上に電流が流れます。右手の親指を立て、人差し指をまっすぐ伸ばし、中指を直角に折り曲げた状態で指を当てはめると、親指がケーブルを動かす方向になります。外部磁界の向きが人差し指が示す方向です。そして発生する電流の方向が中指の方向となります。この法則は「フレミング右手の法則」と呼ばれています。
モーターを発電機に利用する回生ブレーキ
これらのことから、モーター(電動機)とジェネレーター(発電機)は、基本的な構造が全く同一であることが分かります。そこで回転中のモーターを停止させるときにジェネレーターとして利用し、回転に制動(ブレーキ)をかけるという方法があります。
モーターを発電機としても利用する技術は電気鉄道では古くから商用化されており、このブレーキ技術を回生ブレーキと呼んでいます。電気鉄道では同時に何本もの電車が走っています。加速中の電車、一定走行中の電車、停止中の電車、減速中の電車といろいろな走行状態の電車が同時に存在することになります。回生ブレーキ技術では、減速中の電車から取り出した電気エネルギーを、パンタグラフを通じて架線に戻しています。このため、減速中の電車が多くなると、電気エネルギーが余ってきます。そこで余剰の電気エネルギーを貯めておく、蓄電装置を設けている電鉄会社もあります。
提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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