前回(第9回)では、バイポーラ・トランジスタの構造と動作について簡単に説明しました。今回(第10回)はMOS(モス)トランジスタの構造と動作を解説します。
MOSトランジスタの「MOS」は、金属(M)、酸化膜(O)、半導体(S)の3層構造を意味します。酸化膜(O)は絶縁膜ですので、金属(M)に電圧を加えると金属(M)と半導体(S)の間に電流は流れません。電圧による電界が、半導体(S)に加わります。半導体内の電荷(キャリヤ)は、電界によって移動します。この性質をMOSトランジスタでは利用しています。
MOSトランジスタは厳密には、「MOS FET(モスフェット)」と呼びます。FETは電界効果トランジスタ(Field Effect Transitor)の略号です。電界を利用することに由来した呼び名となっていることが分かります。
MOS FETの構造は、バイポーラ・トランジスタとは大きく違います。トランジスタの中央にMOS構造を配置してあり、その両側にMOS構造とは極性の違う領域をシリコン半導体の表面付近に局所的に形成した構造となっています。例えばMOS構造ではシリコン半導体の極性がp型だとします。その両側には、n型の半導体領域を形成するのです。
n型MOSトランジスタ
ここで、シリコン半導体だけに眼を向けましょう。p型シリコンの両側を、n型シリコンが囲む形になっています。このような構造のMOSトランジスタを「n型(えぬがた)MOSトランジスタ」あるいは「nチャンネルMOSトランジスタ」と呼びます。
そして右側のn型シリコン領域を「ドレイン」、左側のn型シリコン領域を「ソース」と呼びます。ドレインとソースの位置関係は、回路構成によっては逆になることもあります。ただし1個のMOSトランジスタが描かれている場合は、左がソース、右がドレインとなるように表記するのが通例ですので、覚えておくと良いでしょう。
中央のMOS構造で「金属(M)」の部分は「ゲート」と呼びます。ゲートに加える電圧の高低で、MOSトランジスタのドレインとソースの間を流れる電流の量を制御します。
MOSトランジスタの電極はゲート、ドレイン、ソースの三つです。ここでソースを接地(グランド)電位に接続し、ドレインにプラスの電圧を加えます。
ゲートの電圧をゼロボルト、すなわち接地したときは、ソースとドレインの間に電流は流れません。トランジスタとしてはオフ状態になっています。
ゲートにプラスの電圧を印加すると、ドレインからソースに向かって電流が流れます。この電流を「ドレイン電流」と呼びます。トランジスタとしてはオン状態に変わりました。
ゲートに加えるプラスの電圧を大きくすると、ドレイン電流が増加します。つまり、MOSトランジスタではゲート電圧を入力、ドレイン電流を出力としています。ゲート電圧の小さな変化を、ドレイン電流の大きな変化に変換することで、増幅作用を実現しているのです。
n型MOSトランジスタでは、電子がキャリヤです。ソースからドレインへと電子が移動することによって、ドレインからソースに向かって電流が流れます。電子が移動する領域は、トランジスタがオン状態になると一時的にn型半導体に変化します。この領域を「チャンネル」または「チャネル」と呼びます。
p型MOSトランジスタ
n型MOSトランジスタと極性を逆にしたトランジスタは、p型MOSトランジスタとなります。n型MOSトランジスタでn型シリコン領域だったソースとドレインが、p型MOSトランジスタではp型シリコン領域に変わります。MOS構造の半導体はn型半導体です。キャリヤは電子ではなく、正孔となります。
p型MOSトランジスタを動かすための印加電圧は、n型MOSトランジスタと極性が逆になります。正孔がソースからドレインに向かって移動し、チャンネルを形成します。
バイポーラとユニポーラ
MOSトランジスタがバイポーラ・トランジスタと大きく違うのは、キャリヤが電子あるいは正孔の1種類しか登場しないことです。このため、MOSトランジスタは「ユニポーラ・トランジスタ」とも呼ばれます。バイポーラは双極性、ユニポーラは単極性という意味です。
トランジスタにはいくつかの分類方法があります。その中で、キャリヤの極性に注目したのが、バイポーラ、ユニポーラという分類です。FET(電界効果トランジスタ)はすべて、ユニポーラ・トランジスタでもあります。
このほかには、MOS型、接合型という分類があります。接合型とはpn接合だけで構成されていることを意味します。その代表がバイポーラ・トランジスタです。
当然ですが、接合型FETも存在します。ただし接合型FETはFETの主流ではありません。このため本稿では、接合型FETの説明を省いています。
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