*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
【ビデオ講座】第3回 DC-DCコンバータの詳細な解析が可能に、ナショナル セミコンダクターがシミュレータ機能を拡充 (クリックで動画再生)
マイクロプロセッサやASIC、FPGAといったLSIを搭載する電子機器では、中間バス・アーキテクチャとPOL(Point of Load)コンバータを組み合わせた電源回路構成を採用することが当たり前になってきた。プリント基板の端部に実装した降圧型DC-DCコンバータで入力電圧を7Vや5V、3.3Vといった比較的高い電圧に下げてから配電し、LSIの近くに置いたDC-DCコンバータ(POLコンバータ)でそのLSIが必要とする電圧に降圧して供給するという構成である。
米National Semiconductor社では、こうした電源回路構成における配電トポロジーを、BOM(Bill of Materials)コストや変換効率、実装面積の観点から最適化するオンライン設計支援ツール「WEBENCH® Power Architect」を実用化している。パソコン上で必要な情報を入力するだけで、最適な配電トポロジーが分かるわけだ。
数多くの検討項目がある電源回路設計
ただし、電子機器の電源回路設計において配電トポロジーの選択は「始まり」にすぎない。この後に検討しなければならない設計項目が数多くあるからだ。具体的には、定常動作時の出力電圧に含まれるリップル成分の大きさ、負荷変動が起こったときの出力電圧の挙動、フィードバック・ループの安定度、変換効率、発熱量などである。
いずれの設計項目とも、検討には技術的に高い専門性を必要とする。従来であれば、経験豊富な電源技術者がこの検討作業を行っていたが、最近こうした技術者は減少する傾向にある。開発期間の短縮が顕著な電子機器設計の現場において、経験豊富な電源技術者の作業時間を十分に確保することが難しくなっているのが実情だ。
こうした問題に対処するために、National Semiconductor社では、「WEBENCH Power Designer」と呼ぶオンライン設計支援ツールの中で、DC-DCコンバータの電気的特性と熱的特性をシミュレーションする機能を用意している。この機能が実用化されたのは11年前の1999年のことである。その後、数々の改良や機能拡張を重ねることで、設計有用性や使いやすさを高めている。最近では、2010年1月末に同社が発表したDC-DCコンバータ・モジュール「SIMPLE SWITCHER® Power Module」に対応する改良を加えた。
Power Architectからシームレスに動作
図1 WEBENCH Power Architectで配電トポロジーを選択
BOMコストと変換効率、実装面積の三つの項目について、高いレベルでバランスが取れているプロジェクト番号「300」を選択した。BOMコストは32.23米ドル、総合変換効率は81.84%、実装面積は1770m2である。
前回ではPower Architectを使用し顧客の要求に応じた配電トポロジーを簡単に設計出来ることを紹介したが、今回ご紹介するWEBENCH Power Designerのシミュレーション機能は、個々のDC-DCコンバータ(SIMPLE SWITCHERパワー・モジュールを含む)に対して実行可能である。つまり、WEBENCH Power Architectで選択した配電トポロジーを構成するすべてのDC-DCコンバータそれぞれに対してシミュレーションを実行できる。
それではWEBENCH Power Designerのシミュレーション機能の使い方について、今回も前回に引き続き、通信インフラ装置を例に説明しよう。まずは、この通信インフラ装置の負荷構成をおさらいする。プリント基板には、FPGAやASIC、メモリー、アナログ・フロントエンドといった負荷が搭載されている。入力電圧は最小10V、最大14V、入力電流は最大20A、動作環境の温度は30℃。各負荷の電源電圧と供給電流は、FPGAのI/Oインタフェースが3.3V/3A、FPGAのコアが1.2V/4A、メモリーが1.8V/2A、ASICが1.1V/3A、アナログ・フロントエンドが2.5V/1Aである。
図2 選択した配電トポロジー
電源電圧が低いFPGAのコアとASICに対しては、3.3Vの中間バスを使ってDC-DCコンバータまで配電し、そこで必要な電圧に降圧して電力を供給する。それ以外の負荷については、入力電圧を直接、DC-DCコンバータで変換して供給している。
WEBENCH Power Architectを使って、配電トポロジーを選択する。ここでは、BOMコストと変換効率、実装面積のバランスが最も高いレベルで取れているプロジェクト番号「300」の配電トポロジーを選ぶ(図1)。この配電トポロジーは、電源電圧が低いFPGAのコアとASICに対しては3.3Vの中間バスを介して、それぞれのPOLコンバータで電圧変換して供給し、残る三つの負荷には入力電圧を直接DC-DCコンバータで変換して供給する構成である(図2)。BOMコストは32.23米ドル、総合変換効率は81.9%、全実装面積は1770m2である。
「View Project Details」のボタンをクリックし、次の画面で「Create Project Designs」のボタンを押すと、各DC-DCコンバータ(SIMPLE SWITCHERパワー・モジュールを含むの検討画面が表示される。今回は、電源電圧が1.2Vと低く、出力電流が4Aと大きいFPGAのコアに電力を供給するPOLコンバータについて検証する。
このPOLコンバータは、同社の電源モジュール「LMZ10504」を中心に、コンデンサや抵抗などの外付け部品から構成されている。画面左端の配電トポロジー図で、LMZ10504をクリックすると入力電圧や出力電圧/電流などの電源回路仕様や、変換効率、熱分布などの情報が表示される(図3)。
図3 DC-DCコンバータの詳細情報画面
各DC-DCコンバータを構成する電源制御ICや電源モジュールの詳細情報を表示する画面である。入力電圧や出力電圧/電流などの電源回路仕様や、変換効率、熱分布などの情報が表示される。
定常動作と過渡応答の両方に対応可能
POLコンバータのさらに詳細な特性を検討する際には、画面上部のツール・バーにある「Sim」ボタンを押す。するとシミュレーション画面が表示され、ここではフィードバック・ループの安定度を示すボード線図(Bode Plot)と、負荷応答特性、起動特性、定常動作時の特性を解析できる。
最初に、定常動作時の出力リップル電圧の大きさを確認しよう。画面中央上のSTEP1の「Select Simulation Type」で「Steady State」を選択し、STEP2の「Start New Simulation」ボタンを押すとシミュレーションが始まる。このシミュレーションは、米国にあるサーバーでリアルタイムに実行される。実際に計算しているため、シミュレーション内容によっては時間が若干かかるが、長くても5分以内で結果が表示される。
定常動作時の出力リップル電圧を解析した結果が図4である。リップル成分の大きさは3mV程度である。この結果に対して、ナショナルセミコンダクタージャパンの山田浩二氏は「FPGAのコアの電源電圧範囲は±10%の場合が多い。1.2Vの10%は120mV。従って、リップル成分の大きさはまったく問題ないレベルである。これは、電源モジュール品を採用したメリットだと言える。電源制御ICの製造元である当社がモジュール内部の配線を最適化したため、リップル成分を極めて小さなレベルに抑え込めた」と説明する。
次に、負荷変動時の出力電圧の挙動を確認しよう。STEP1の「Select Simulation Type」で「Load Transient」を選び、STEP2の「Start New Simulation」ボタンを押すとシミュレーションが始まる。解析結果が図5である。出力電流を0.4〜4Aに変化させた際、出力電圧が約60mVの幅で過渡的に変動するという結果が得られた。「FPGAのコアの電源電圧範囲は±10%なので60mVの変動幅であれば問題ない。ただし、最新のFPGAの中には±5%という品種もある。この場合の許容範囲は60mVとなり、解析で得られた変動幅とほぼ同じになる。しかし、想定した負荷変動(0.4A〜4A)は実使用に対しかなり厳しい条件とも考えられるので、実用上ではこの値以下と考えられ、要求仕様を満足するレベルだと考えられます」(山田浩二氏)。
外付け部品を変えた解析も可能
DC-DCコンバータの外付け部品を変更して、シミュレーションすることも可能だ。ここでは出力コンデンサの容量を変えて、負荷変動時の出力電圧の挙動がどのように変化するかを見てみよう。
シミュレーション画面の中央に表示されているPOLコンバータの回路図の出力コンデンサCoutをクリックする。すると、出力コンデンサのさまざまな選択肢が表示される。当初は、定格電圧が6.3Vで容量が100μFの積層セラミック・コンデンサを使っていた。ここでは敢えて、選択肢の中で容量が最も小さい39μF(定格電圧は16V)の導電性高分子アルミ電解コンデンサを選択する。「Select」ボタンを押すと、回路図内の出力コンデンサの容量が変更される。
図6 出力コンデンサを変更して負荷変動時の特性を確認
出力コンデンサを100μFから39μFに変更して、負荷変動時の出力電圧の挙動を確認した。変動幅は約60mVで、100μF品を使った場合(図5)とほぼ同じ結果になった。
図7出力コンデンサを非常に小さくして負荷変動時の特性を解析
Customize機能を使用し、出力コンデンサを1μF品に変更して、負荷変動時の出力電圧の挙動を解析した。大きな振動成分が現れており、実設計には適用できないことが分かった。
ここで再び「Sim」ボタンをクリックし、STEP1の「Select Simulation Type」で「Load Transient」を選び、STEP2の「Start New Simulation」ボタンを押すとシミュレーションが始まる。解析結果が図6である。出力電流を0.4〜4Aに変化させた際の出力電圧の変動幅は約60mVだった。これは、出力コンデンサの容量を変える前とほぼ同じ値である。この結果について山田浩二氏は「変更可能な外付け部品には、実用上問題のない範囲の選択肢が表示される。従って、電源回路設計のビギナーの方でも安心して作業を進められる」と説明する。
ただし、「Create Custom Parts」機能を利用すれば、実用上問題のない範囲を逸脱した外付け部品選択が可能になる。前述の部品選択画面で中央下にある「Create Custom Parts」ボタンをクリックする。ここで容量を1μFに設定し(budgetの欄に適当に数字を入力しなければならない)、前述と同じ手順で負荷変動時の出力電圧の挙動を解析する。その結果が図7だ。出力電圧が発振してしまっており、Customizeで入力したコンデンサは実際の設計には適用できないという事である。
評価用ボードを直ちに購入できる
解析結果は、画面上の「Print」ボタンをクリックするとプリンタを介して紙に出力できるほか、PDF形式で保存することができる。従って、報告書などにそのまま貼り付けることも可能だ。
さらに、評価ボードを購入することもできる。シミュレーションではなく、実際の電源回路で動作を検証することが可能なわけだ。購入方法はシンプルだ。画面上の「Built it」のボタンを押すと購入画面に進み、そこで必要な情報を入力するだけである(図8)。ただし、部品はプリント基板に取り付けられていないので、ユーザーが自ら実装する必要がある。
提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.