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半導体の温故知新(1)――スマホの源流から未来を探る津田建二の技術解説コラム【歴史編】

急速に普及してきたスマートフォン。スマホは、コンピュータと通信、半導体の三位一体となった製品です。くしくもこれら3つの技術はほぼ60年ごろ前に生まれました。これらの発展から、未来を照らす技術を探しましょう。

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 「2012年にスマートフォンの出荷数はPCの出荷数の2倍に達しました。スマホは今や、コンピューティングのプラットフォームになりました」。これは、Mobile World Congress(MWC) 2013でクアルコムのポール・ジェイコブスCEO(最高経営責任者)が述べた言葉です。スマホは、コンピュータと通信、半導体の三位一体となった製品です。くしくもこれら3つの技術はほぼ60年ごろ前に生まれました。これらの発展から、未来を照らす技術を探しましょう。


Mobile World Congress 2013で講演するクアルコムのポール・ジェイコブスCEO

1946〜1948年に生まれた3つの技術

 コンピュータは1946年にペンシルバニア大学で誕生したENIACが今日の商用コンピュータの先駆けになっています。通信では、ベル電話研究所にいたクロード・シャノンが情報理論を1948年に発表したデジタル通信の考え方が、今日の通信技術を発展させました。半導体トランジスタもベル研から1947年暮れに生まれました。3つの技術は全て同じような時期に生まれ、今日の礎を築きました。


AT&T Labsの玄関にあるクロード・シャノンの像

「コンピュータ/半導体」と「通信」は別個に発展

 コンピュータと半導体トランジスタは、当初から商用製品としての位置付けで開発が進んできたのに対して、電話通信は国のインフラと深く係わっていたため国営企業主導で進んできました。このため、コンピュータや半導体の発展と比べると、通信の発展は大きく遅れていました。1988年にIBMがクライアント・サーバ向けのAS/400を発表、半導体は1MビットのDRAMが量産を開始していたころ、通信のデータレートはまだ1200bpsとか2400bpsといった遅いアナログモデムやカプラーが使われていました。通信技術は、民営化したことで大きく発展してきました。それも携帯通信技術が民間企業を中心に爆発的に発展したおかげで、大きく発展しコンピュータと半導体に追い付き、3つの技術が融合して、今日のスマホを作れるようになりました。

 3つの技術の中でも、コンピュータと半導体トランジスタは当初から、お互いに密接に関係を保ってきました。ベル研で生まれたゲルマニウムのpnpトランジスタは、シリコンのnpnトランジスタに代わりました。世界初の商用コンピュータUNIVAC-Iはユニバック社が開発しましたが、ビジネスではIBMが力を伸ばしてきました。1956年にはIBMはディスク・ストレージを搭載したコンピュータIBM350を開発、リアルタイムアクセスを可能にしました*)

 コンピュータのCPUは、半導体トランジスタTTLロジックで組んでいました。やがて、npnバイポーラトランジスタからMOSFETへと集積回路は変わり、1971年にインテルがシリコンゲートの4004マイクロプロセッサを世に出して初めてMOS ICが半導体産業を引っ張ることになりました。このプロセッサが生まれたとき、日本のコンピュータ技術者は「おもちゃ」としか見ていませんでした。しかし、今日の組み込みシステムの源流はこの4004にあります。半導体の中にソフトウェアを組み込むことができるようになったからです。

 半導体がトランジスタから、ICへ、さらにTTLへ、マイクロプロセッサ・メモリへと発展すると、コンピュータは半導体を使って、メインフレームに加え、ミニコンやオフコンなどへと広げてきました。

“ムーアの法則”


ゴードン・ムーア氏 出典:Intel

 半導体技術は1965年に当時フェアチャイルド社にいたゴードン・ムーア氏が「コスト的に見合う半導体の集積度は毎年2倍の集積度で進展する」という論文を発表、その10年後、IEDM(国際電子デバイス会議)において、同氏の予言した経済法則は1975年になっても成り立つことを講演で述べ、ムーアの法則という言葉が雑誌上でも登場するようになりました。半導体チップは、その後も集積度を上げ、マイクロプロセッサは「おもちゃ」から「キーデバイス」へと発展しました。半導体ICは、集積度向上により高機能・高集積・低消費電力を果たしてきました。ついに1988年には、これまでゲートアレイなどで構成していたCPUボードよりも、インテルのチップを使う方が高性能で低価格なCPUができるとコンピュータ技術者は考え始めました。1990年代に入りインテルはPentiumを発表、今日の不動の地位を築いてきました。

1995年からPCの時代へ

 一方、通信速度は、Windows 95が発売された1995年頃のアナログモデムで33.6kbps程度でしたが、2000年頃からADSL(有線)が提供され、ようやく1Mbps台に乗るようになりました。しばらく有線のADSL、さらに光ファイバー(Fiber To The Home)の時代になり、10Mbps、100Mbpsのサービスが提供されるようになりました。

 コンピュータはミニコンやオフコン、ワークステーションからさらに進んでWindows 95に象徴されるように1995年からPCの時代へと入っていきました。ダウンサイジングです。メインフレームはコンピュータの主役ではなくなりました。その頃、米イリノイ大学の学生だったマーク・アンドリーセン氏がMosaicと呼ぶブラウザーを発明、エンジェルのジム・クラークが出資し、ネットスケープ社を設立、ブラウザーの草分けとなりました。

1985年「ショルダーフォン」が登場


写真はイメージです

 そして、いよいよ携帯電話の登場です。1985年に電電公社を民営化しNTTが電池を肩から下げる「ショルダーフォン」を商品化した後、1990年頃から2つ折りの携帯電話機が登場しました。当初はアナログ方式でしたが、1993年にNTTドコモがデジタル方式の携帯電話サービスを始めました。99年にはiモードのサービスをスタートし、2001年に世界に先駆けて第3世代(3G)のFomaサービスを開始しました。デジタルの第2世代からデジタル高速の第3世代へと進化しました。これにより、無線で384kbpsを達成し、年ごとに進化することで1Mbpsを超えるようになりました。

 そしてiPhoneが登場したのが2007年1月。まず米国から始まり、それまで米国でサービスしていたカナダのBlackBerryを含めてスマートフォンと呼ぶようになりました。同年、グーグルがスマートフォンのOSとしてアンドロイドの仕様を公開、翌2008年のMWCにおいてTexas Instruments社が早くもアンドロイド開発ボードを展示、提供し始めました。この頃、日本の携帯電話機メーカーの動きは全く遅かったため、スマホで世界から大きく取り残される今日の状態を招いてしまいました。通信中心の携帯電話機から、コンピューティング中心のスマホへと大きく変わっていくことに、気が付かなかったのです。やはり、コンピュータ、通信、半導体と互いに進んでいる様子に注目しなかったからでしょう。

スマホの歴史に学ぶ

 この反省から私たちが学ぶことは、何でしょうか。半導体だけを見ずにコンピュータや通信技術の進展にも注目していなかったことでしょう。これを現代に当てはめてみましょう。今は、スマホを使う応用が圧倒的に増えている状況です。だから半導体、コンピュータ、通信に限らず、スマホを使うさまざまな産業動向を捉えることが重要です。例えばスマホは、スマートハウスのHEMSや、体温・心拍・血圧などヘルスケアのモニターとして使えます。また、クルマの情報を家からも操作できるリモコンや、テレビ・DVD/BluRay、エアコンなど家電製品の万能リモコンとしても使えるでしょう。アプリをダウンロードすればよいのです。同時に、ハードウェアでもプログラム可能なICで新機能だけを実現できるようにしておくことも大切です。だからこそ、世界の技術トレンドが今どこに向かっているかをしっかり捉え、それとスマホとの連動を想像し、他社に先んずる技術を開発することを経営陣に訴求しましょう。あなたの提案した技術が世界を変えるという未来を想像するとワクワクするはずです。

*)参考資料:「EDN誌50年における主な出来事」、エレクトロニクスの50年と将来展望、EDN Japan別冊、2007年1月

Profile

津田建二(つだ けんじ)

現在、フリー技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長。

30数年間、半導体産業をフォローしてきた経験を生かし、ブログや独自記事において半導体産業にさまざまな提言をしている。





提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年5月31日

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