高速過渡応答DC-DCコンバータの決定版! COT制御の弱点を克服した「HiSAT-COT」とは:6MHz動作で小型!
過渡応答特性に優れるCOT制御。しかし、負荷や入力電圧により発振周波数が大きく変動するため、敬遠されることも多かった。しかし、弱点を克服した新たな制御技術「HiSAT-COT」が登場した。高速過渡応答性はそのままに、発振周波数の変動を大幅削減できる「HiSAT-COT」を紹介していこう。
COT(Constant On Time)制御方式
スイッチング・レギュレータ(DC-DCコンバータ)の制御方式の1つとして、Constant On Time(コンスタントオンタイム/以下、COT)制御方式がある。その名の通り、スイッチングのオン時間を常に一定にした制御方式だ。
最大の特長は、過渡応答が高速ということだ。
COT制御の仕組みはこうだ。出力電圧を常に監視する。そして出力電圧が、あらかじめ決められた下限電圧を下回った際に、パワースイッチをオンにする。コンパレータを使ったボトム制御によるフィードバック回路で実現されるヒステリシス制御の1種だ。
出力電圧が下がれば、瞬時にオンするため、COTは負荷変動に高速応答し安定した電圧で出力を継続できるわけだ。
PWM(パルス幅変調)方式で多く用いられるオンするタイミングが一定の固定周波数制御方式では、こうした高速応答を実現しにくい。
マイコンやFPGA、SoCなどあらゆるデバイスは、負荷が大きく変動するが出力電圧の変動が少ない特性が求められる。そうしたデバイスを使用するアプリケーション、ストレージやディスプレイ機器、検査装置などで、高速過渡応答のDC-DCコンバータへの要求が拡大している。そこで、COT制御を採用したDC-DCコンバータICの採用が広がっている。
ただ、COT制御は良いことばかりではない。多数の課題を抱える。
高速応答だけど、リップル大きく、電源回路も……
例えば、肝となるコンパレータの高速化が難しい。コンパレータを高速化できないとスイッチング周波数は高められない。スイッチング周波数は、DC-DCコンバータ後段のコイル、コンデンサのサイズを左右する。高速化しない限り、電源回路自体の小型化は望めない。
仮に、コンパレータを高速化でき、スイッチング周波数を高速化できても問題は残る。COTは、負荷や入力電圧によりスイッチング周波数が可変する。それにより、ノイズ対策を施す必要のある周波数帯が、固定周波数制御に比べ、格段に広くなる。スイッチング周波数の最大値が高まれば、その分、周波数の揺れは大きくなりノイズ対策は難しくなる。
そして、もう一つがリップルの大きさだ。PFM(パルス周波数)制御はリップルが大きいというイメージを持っている読者は多いだろう。PFMと同じく可変周波数制御となるCOTも同様だ。PWM制御に比べ、スイッチング1回当たりのオン時間が長くなるため、リップル電圧も大きくなる。そのため、ESR(等価直列抵抗)の低いセラミックコンデンサなどでの対策が必要になってしまう。
しかし、リップルを小さくすると、ボトム制御のフィードバック回路に入力される信号が小さくなるので、結果的にセラミックコンデンサの恩恵が得られない。
弱点を克服した「HiSAT-COT」
しかし、高速過渡応答性能はそのままに、COT制御の欠点を克服した新たな制御技術が登場した。その名は「High Speed Circuit Architecture for Transient with Constant On Time」、略して『HiSAT-COT』だ。国内電源半導体メーカーであるトレックス・セミコンダクターが開発した独自電源制御技術だ。
HiSAT-COTとオン時間が固定されたPFMモードで動作する一般的なCOT制御との違いは、オン時間が変動する点にある。
HiSAT-COTのON時間(ONDuty)
入力電圧と出力電圧の条件によって決まります。
fOSC≒6.0MHz *)連続モード時は、周波数は固定される=PWMモード
tON(ns)=VOUT/VIN×167
HiSAT-COTでのオン時間は、入力電圧と出力電圧の条件で決まる。出力電流の変動に対しては、オン時間は一定でスイッチング周波数を変動させる。一方で、入力電圧が変動した場合には、オン時間を調節する。
周波数変動が小さい!
一般に、負荷が重くなるほど、MOSFETのオン抵抗の損失が大きくなる。そのため、損失分を補うようにデューティー比を上げる必要が出てくる。この時、出力電圧と入力電圧の関係性だけでオン時間を決定しまうと、重負荷になるに従い、スイッチング周波数を上げなければならない。通常のCOTがそうだ。
これに対し、HiSAT-COTは、MOSFETのオン抵抗による損失分を考慮して、オン時間を調整する。オン抵抗の影響の大きい重負荷時には、オン時間を長くしてディーティ比を高めるのだ。これにより、スイッチング周波数の上昇が抑えられる。結果として、周波数変動を小さくなるのだ。その変動幅は100〜200KHz程度であり、PWM制御のDC-DCコンバータ並みのノイズ対策で済ませられる。なおかつ、過渡応答時間はPWM制御DC-DCコンバータの1/8程度であり、高速応答性も両立しているのだ。
リップル対策として、コンパレータにリップル相当の信号を注入し、リップル分の出力を抑える技術を採用。これにより、一般的なCOT制御DC-DCコンバータに比べ、HiSAT-COT制御はリップルを1/2以下に低減。低ESRの小型セラミックコンデンサを出力コンデンサに使用できる水準にリップルを抑えた。
高速過渡応答ながら、低リップルで周波数変動が小さいというHiSAT-COT制御技術を開発したトレックスでは、2014年から同技術を採用した降圧同期整流DC-DCコンバータ「XC9260/XC9261シリーズ」を量産してきた。そしてこのほど、HiSAT-COT制御技術を採用した新DC-DCコンバータシリーズとして、「XC9259/XC9262シリーズ」を製品化した。
「HiSAT-COT」がさらにパワーアップ!
新しいXC9257/XC9258/XC9259シリーズは、従来シリーズでは1.2MHzだった発振周波数を、最大6MHzまで高速化させた製品だ(発振周波数1.2MHz品もラインアップ)。難しいとされてきたコンパレータの動作遅延を回路技術/プロセス技術により克服。電流/電圧モード制御を用いたDC-DCコンバータでも高速と分類される発振周波数6MHzをHiSAT-COT制御で実現した。
HiSAT-COT制御DC-DCコンバータはもともと、低リップルのため低ESRのセラミックコンデンサが使用できた。これに加え、6MHz動作に伴って小型コイルも使用可能になり、電源回路を大幅縮小できるようになった。
0.3mmの薄さで低オン抵抗のLGA-8B01パッケージ
XC9259シリーズは、最大出力電流1.0Aながら、1.4×1.2×0.3mmの小型低背パッケージ「LGA-8B01」で実現。従来の降圧同期整流DC-DCコンバータ「XC9223」(発振周波数1MHz/出力電流1.0A)に比べ、電源回路の実装面積を80%縮小できる。
LGA-8B01は、ウエハーレベルチップサイズパッケージ(WLCSP)同様、フリップチップ構造の低オン抵抗パッケージ。ただ、WLCSPのようにダイが露出していない完全樹脂封止型パッケージであり、扱いやすいという特長も兼ね備えている。
XC9262シリーズは、XC9259シリーズ同様のLGA-8B01パッケージを採用した製品で、最大出力電流1.5Aに対応する。発振周波数は、1.2MHzと3.0MHzの2種がある。特にLGA-8B01の低オン抵抗特性を生かし、3.0MHz品の消費電流は25μAを実現。3.7V入力、1.8V/200mA出力時の効率は90%となっている。
XC9259/XC9262シリーズの入力電圧範囲は2.5〜5.5V(XC9259)、2.7〜5.5V(XC9262)、出力電圧範囲は0.8〜3.6V(0.05Vステップで内部設定可能)。出力電圧精度は±2.0%となっている。
また、発振周波数最大6MHzを実現する新世代HiSAT-COT制御を適用した製品としては、従来製品と同じパッケージ(USP-6CないしSOT-25)を採用したXC9257/XC9258シリーズもラインアップ。いずれの製品も既に量産済みだ。
「HiSAT-COT」はさらに進化する
トレックスでは、XC9259/XC9262シリーズなどに適用した新世代HiSAT-COTをベースに新たなDC-DCコンバータの開発を行っていく方針。さらに大きな出力電流に対応する製品を投入する予定だ。さらにHiSAT-COTの進化にも取り組み、より高速な過渡応答を実現するDC-DCコンバータの開発を進めていく。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年7月28日