フラッシュメモリもSRAMもFRAMも同一パッケージ/ピン互換に! 総合メモリメーカーCypressこその製品戦略とは:「1+1」は「2」ではなく「3」だ!!
SRAMのCypressと組み込みフラッシュメモリのSpansionが統合して誕生した新生Cypress Semiconductor。フラッシュメモリからSRAM、FRAMとさまざまな組み込みメモリをカバーする唯一の組み込みメモリの総合メーカーとして、革新的なメモリソリューションを生み出しつつある。そこで、新生Cypressのメモリ事業における新製品/新ソリューション開発戦略を紹介する。
フラッシュメモリとSRAM/不揮発RAMのトップベンダーが融合
2015年3月、Cypress Semiconductor(サイプレス セミコンダクタ)とSpansion(スパンション)が合併し、「新生Cypress Semiconductor」が発足した。
メモリ、マイコン、アナログ/パワーと、組み込み機器に必要なキーデバイスを全て網羅する半導体業界でも数少ない総合力を備えた半導体メーカーへと生まれ変わった。総合力が増すとともに、各製品分野においても、ポートフォリオが充実。あらゆるニーズに対応できる製品構成が整った点も、新生Cypressの大きな特長だ。とりわけ、メモリ分野の充実ぶりは目を見張るものがある。
合併した両社は、ともに組み込み用メモリ業界の雄だ。旧Cypressは、1982年の創業から常にSRAMを中心としたメモリ事業を中心に成長を続け、近年は常に「SRAM市場で世界トップシェアを維持している」という。SRAM以外にも、EEPROMとSRAMを組み合わせた独自不揮発性SRAM「nvSRAM」を展開し、2012年には、FRAM(強誘電体メモリ)をいち早く商用化したRamtron(ラムトロン)を買収。nvSRAM、FRAMでも業界をリードしてきた。
一方のSpansionは、言わずと知れたNOR型フラッシュメモリのトップメーカーだ。2012年の富士通のマイコン/アナログ半導体事業買収前はメモリ専業メーカーであり、NOR型だけでなく、プログラムコード格納用の高信頼NAND型フラッシュメモリも手掛け、「組み込み用フラッシュのトップベンダー」を自負してきた。
完全な補完関係
メモリ業界の雄といえる2社が統合したわけだが、メモリ事業に関しても、全くといってよいほど、両社の扱ってきた製品に重複がない。すなわち、“1+1”が“2”になる完全な補完関係にあったわけだ。
新生Cypressでは、全社売上高約20億米ドルのおおよそ半分を占めるメモリ事業を主力事業の1つに据えて、積極投資を行い継続的に強化していくことを明言。強化方針も明確で、自動車をはじめウェアラブル機器、IoT機器などの組み込み機器に必要なメモリに焦点を絞って強化を進めるとする。
組み込み機器に必要なメモリとは、主に4種類ある。DRAM、SRAM、フラッシュメモリ、不揮発RAMの4つだ。このうち、Cypressは、DRAMを除く、SRAM、フラッシュメモリ、不揮発RAM(nvSRAM、FRAM)をカバーする。「競合他社も複数種のメモリを扱うが、ここまでの品ぞろえを持つメーカーは、Cypressが唯一だ」と断言する。
しかも、前述の通り、SRAM、フラッシュメモリ、不揮発RAMそれぞれで業界トップクラスのシェアを誇っている。メモリ製品担当マーケティング本部長の伊藤和志氏は「2社の合併に伴い、圧倒的な製品群と実績を持つ組み込み用メモリメーカーになった。この強みを生かし、“1+1=2”ではなく、“1+1=3”にするべく相乗効果を発揮することが、新生Cypressのメモリ事業の目標だ」と語る。
技術融合でさらに進化
“1+1”を“3”にする相乗効果が発揮される部分が、事業規模拡大に伴う製品開発投資規模の増大であり、合併両社それぞれの技術ノウハウの相互利用だ。
例えば、NOR型フラッシュメモリ。旧Spansionは、大容量化に利点を持つチャージトラップ技術をベースにした「MirrorBitテクノロジ」を武器に、大容量のパラレル/シリアル(SPI)インタフェースNOR型フラッシュを得意にしてきた。昨今でも、最先端の45nmプロセスを使用した8Gビット容量のカスタム製品を展開するなど、他社を先行している状況だ。
一方、低容量領域はあまり注力していなかった。市場の大部分が大容量化していく流れの中で当然といえば当然だが、「接続線数が少なく済むSPIに限っては、低容量品への需要は依然として根強い」という。そうした背景をうけ、旧Spansionでは、低容量のシリアル品の拡充に着手。MirrorBitテクノロジは、大容量品に向く技術であり、コスト要求の高い低容量品では、「どちらかと言えばオーバースペックだった」(伊藤氏)という中で今回の統合により、旧CypressがnvSRAMなどで培ってきたフローティングゲート技術ベースのSONOSテクノロジの活用を決定。2016年には、SONOSテクノロジを利用した低容量でコスト競争力の高いSPIのNOR型フラッシュを複数投入する予定だ。
フラッシュ以外にも超高速IF「HyperBus」
SRAM、FRAMなどでは、フラッシュメモリで培ってきた技術の応用に着手している。
組み込みメモリのインタフェースは、パラレルからより信号数が少ないシリアルインタフェースへの移行が進んでいる。パラレルに比較して、低速なシリアルインターフェイスも高速化が図られ、SPI、さらにその高速版であるクアッドSPI、デュアルクアッドSPIと、より高速なインタフェースに移行しており、旧Cypress、旧Spansionそれぞれ対応製品を投入してきた。その中で、SPIシリアルインターフェイス高速化は限界に達しており、旧Spansionは、より高速起動が求められる車載情報機器用途を念頭に、デュアルクアッドSPIを上回る333Mバイト/秒の転送速度を誇る高速メモリインタフェース「HyperBus」を開発し、HyperBus対応フラッシュ「HyperFlashメモリ」を製品化してきた。
HyperFlashメモリを利用できる環境も整ってきている。「Traveoファミリ」などCypressのマイコン製品はもちろんのこと、HyperBusメモリコントローラ搭載マイコン/SoCが続々と製品化されている。「HyperBusメモリコントローラIPは、各種FPGA用IPが提供されている他、既にフリースケール セミコンダクタ など20社を超えるマイコン/SoCメーカーにライセンスされており、さらに対応製品が増える見込み」(メモリ製品担当マーケティングの吉田真大氏)と新しいメモリインタフェースとして業界標準の地位を固めつつある状況だ。
そうした中で新生Cypressでは、HyperBusの適用範囲を、フラッシュメモリにとどめず、SRAM、FRAM、nvSRAMへと広げるべく、開発に着手し、「近く製品化を発表できる見込み」とする。
製品開発も加速
対応インタフェースの拡充以外にも、各メモリで多彩な製品投入を予定している。
FRAMでは大容量品の投入を進めている。FRAMは次世代メモリとされる揮発性RAM同様の書き換え速度を誇る不揮発性RAMの一種で、最大の特長は、書き込み電流が少ないことにある。40MHzの書き換え周波数時の書き換え電流は2.5mA、同1MHzであれば0.6mAと格段に消費電流が少ないのだ。そのため、バッテリー駆動機器や“電費”が問われる自動車用途などで、EEPROMを置き換えるメモリとして採用が増えている。
FRAMには、揮発性メモリには存在しない書き込み回数制限が存在するが、CypressのFRAM製品は、100兆回と競合製品を10倍以上上回る性能を誇る。この100兆回という回数は、10マイクロ秒に1回の読み書きを行っても、31年間動作し続けられるという回数であり、実質的には読み書き回数無制限を実現しているといえるレベル。「競合よりも、1〜2世代進んだ微細プロセスを使用していることで、各種性能を高めることができている」(吉田氏)という。また、微細プロセスの利点を生かし、いち早くSPIインターフェース4Mビットの大容量品を製品化し出荷を行っている。
シリアルインタフェース主体のFRAMに対し、パラレルインタフェース主体で4Mビット以上の大容量領域もカバーするnvSRAMですが、クアッドSPIに対応した品をこのほど投入した。
nvSRAMは、SRAMと不揮発性メモリであるEEPROMを組み合わせた独自メモリ。通常時はSRAMを、電源遮断時のみEEPROMにデータを書き込む。そのため、書き換え回数はSRAMと同じように無限だ。EEPROMに書き込むための8ミリ秒間の電源を維持するためのキャパシタは必要になるが、ボタン電池などのバッテリーの必要はなく、低コスト、省サイズで不揮発RAMを実現できるソリューションとして、産業機器やサーバ/通信機器、アミューズメント機器で採用実績が伸びる。このほど、投入した1.8Vの低電圧駆動版は、こうした用途での低消費電力化ニーズに応えたものだ。
SRAMについても「投資を継続する(伊藤氏)」と断言する。SRAMは、DRAMに押され市場規模が縮小傾向にあり、SRAMの生産から撤退するメーカーも相次いでいる。しかし、「SRAM市場の縮小は昨今、一段落し、SRAMでなければならないという用途は根強く残っており、今後もSRAM市場がなくなることはない」とする。そうした中で、「当社にとって、SRAMは主力製品であり、トップベンダーとして、これまでと変わらず新製品開発を行い、製品を長期的に、安定的に供給していく」とする。新製品としては、65nmプロセス採用品を展開中で、放射線などに起因するエラーに備えたECC(誤り訂正符号)回路を搭載した製品のカバー領域も広げている。
多彩なメモリがより使いやすく
このように、フラッシュメモリからFRAM、nvSRAM、SRAMまでの多様な組み込み向けメモリをカバーする新生Cypressでは、この豊富な製品群だからこそできる新たな試みを実施している。それが、「ピンコンパチブル シリアルメモリ ポートフォリオ」の構築だ。
組み込みメモリといっても多彩な種類があり、インタフェース1つとっても、シリアルだけでクアッドSPI、デュアルクアッドSPI、そしてHyperBUSと多彩だ。容量、パッケージを含めると数限りなく存在する。Cypressでは、メモリをより使いやすくするために、あらゆるメモリのパッケージ、ピン配置を共通化してしまおうという試みを行っている。これが、ピンコンパチブル シリアルメモリ ポートフォリオだ。
具体的には、フラッシュメモリ、FRAM、nvSRAM、SRAMという全てのメモリで5mm角のFBGAパッケージを用いて、低容量から大容量までをそろえていく方針。さらに、ピン配置も共通化し、自由自在に置き換えが可能な環境を作るということだ。つまり、基板の設計変更なく、デュアルクアッドSPIの16MビットFRAMからクアッドSPIの32MビットnvSRAMに置き換えるといった利用が可能になる。「パッケージ、ピン配置が一本化できるため、設計やテストも容易になるだろう。さらに、同一パッケージ化にってさまざまな量産効果が発揮できるようになるため、高い信頼性、コスト競争力を提供できるようになると見ている」(伊藤氏)という。
そして伊藤氏は「こうしたコンパチブル シリアルメモリ ポートフォリオも、幅広い製品群を扱う新生Cypressだからこそ実現できる取り組みだ。“1+1”を“3”にすべく、従来にない価値を備えた組み込み用メモリを提供していく」としている。
販売代理店(順不同)
富士通エレクトロニクス株式会社
TEL:045-415-5828
URL:http://www.fujitsu.com/jp/fei/
株式会社マクニカ ブリリアント テクノロジー カンパニー
TEL:045-470-9835
URL:http://www.btc.macnica.co.jp/
東京エレクトロン デバイス株式会社
TEL:045-443-4035
URL:http://www.teldevice.co.jp/
伯東株式会社
TEL:03-3355-7607
URL:http://www.hakuto.co.jp/
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提供:日本サイプレス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年11月14日