性能/信頼性を一切犠牲にしない!! 電源モジュールの決定版「ポケットコイル“micro DC/DC”コンバータ」:実は電源モジュールにはさまざまな種類があるんです!
電源設計が複雑化する中で、電源ICと受動部品を1パッケージに内蔵した“パッケージ型電源モジュール”が登場し、利用されるケースが増えてきた。多くの利点があるパッケージ型電源モジュールだが、その一方で性能/信頼性が犠牲になっているケースが実は多い。そこで、性能/信頼性を犠牲にせずコイル内蔵型電源モジュールを実現している「ポケットコイルタイプ“micro DC/DC”コンバータ」を紹介しよう。
電源設計ニーズに応えるパッケージ型電源モジュール
電源回路設計は複雑化する一方だ。電子機器に搭載される機能は増え続け、それとともに電源回路に許されるスペースは、小さくなる。にもかかわらず、電源回路はより大きな電力を高効率に変換し、負荷に対し安定供給しなければならない。
こうしたさまざまな要件を満たさなければならない昨今の電源回路設計の難しさを解消する1つの解決策として、パッケージ型電源モジュールが注目を集めている。
パッケージ型電源モジュールとは、見た目は、一般的なDC-DCコンバータモジュールと変わりないが、DC-DCコンバータICの他、コイルやコンデンサーといった電源回路に必要な受動部品の一部、ないし全てを内蔵したデバイスのことを指す。
小型で高効率な電源回路を容易に開発できる
パッケージ型電源モジュールは、多くの利点を持つ。1つは、電源回路を省スペースで形成できることだ。これまで、基板上に並んだ受動部品をDC-DCコンバータICパッケージ内に取り込むことで大幅に回路が縮小される。電源モジュールにもよるが、個別実装した場合よりも回路サイズを4分の1程度まで削減できる場合が多い。
電源モジュール2つ目の利点は、開発の手間が大きく削減されることだ。電源回路設計で大きな時間を割かなければならない工程の1つが、DC-DCコンバータICとコイルのマッチングだ。このマッチングは、電源回路としての性能自体を決定してしまうと言っても過言ではないほど、電源回路設計の重要な工程であり、その分、時間も掛かってくる。しかもマッチングは、机上計算だけではうまくいかず、DC-DCコンバータとコイルを実際に実装して検証し、複数のコイルの中から最も相性の良いコイルを見つけだしていかなければならない。
その点、コイルを内蔵している電源モジュールであれば、こうしたマッチングは一切、不要だ。しかも、電源モジュールメーカー側で、DC-DCコンバータICに最も適したコイルを選び抜いた上で内蔵されている。そのため、ユーザー側は、時間を要さず手軽に、DC-DCコンバータの性能をフルに生かした電源回路を実現できるのだ。
不要輻射ノイズを抑えられる!
そして電源モジュールの利点の3つ目が、EMI(Electro-Magnetic Interference:電磁妨害)ノイズを抑えられる点だ。省スペース、開発の容易さという大きな利点に隠れ、忘れられがちだが、無線機能などノイズ対策が必須の回路ブロックと隣接して電源を高密度実装しなければならない昨今では、ノイズ抑制効果がパッケージ型電源モジュールの最大の魅力となりつつある。
パッケージ型電源モジュールがノイズを抑えられる理由は、大きなノイズ発生源であるDC-DCコンバータICとコイル/コンデンサーを結ぶ配線を短く、かつ、最適化されている点が最も大きい。スイッチング方式のDC-DCコンバータICから生じたノイズは、配線がアンテナのような働きを果たし、外部へ流出してしまう。そのため、配線が短ければ短いほど、ノイズを抑制できる。パッケージ内にDC-DCコンバータIC、コイルを内蔵する電源モジュールであれば、おのずと両デバイスの配線長は短くなり、ノイズをかなり抑えることができる。加えて、配線などのノイズ発生源をパッケージ(樹脂など)で覆ってしまうことによりシールド効果も生じる。個別部品で構成した電源回路よりも、大幅にノイズを抑えられるわけだ。
こうした昨今の電源回路ニーズに合致した多くの利点を持つパッケージ型電源モジュールは、複数の電源ICメーカーなどが製品化し、モバイル機器/ウェアラブル機器から家電、産業機器、車載機器など幅広い分野で普及しつつある。
実は、モジュール構造で一長一短が……
ただ、「パッケージ型電源モジュール」と一口に言っても、実はその構造からさまざまな種類が存在する。構造によって、一長一短があるのだ。
パッケージ型電源モジュールで最も分かりやすい構造のものが、パッケージ基板上に、ICとコイル、コンデンサーを水平方向で並べて実装するタイプのものだ。単純構造で低コスト化しやすく、水平にデバイスを並べるため低背化を図りやすいという利点がある一方で、パッケージサイズはどうしても大きくなってしまう。最大出力数アンペア程度の小型電源クラスでは、特にフットプリントの大きさはネックになる。
これに対し、デバイスを垂直方向に重ねるスタックタイプの電源モジュールも存在する。その1つが、ICを内蔵したプリント基板上にコイル、コンデンサーを実装するタイプのものだ。この構造であれば、ほぼICと同等のフットプリントのモジュールを実現できる。しかし、この構造では、ICの上に、コイル、コンデンサーを実装するため、コイルのサイズが小さくならざるを得ない。コイルが小さくなれば、インダクタンスも小さくなるため、DC-DCコンバータのスイッチング速度を高めるなどの対策が必要で、軽負荷時の効率悪化を招くなど電源としての性能も落とさざるを得なくなる。
ICと受動部品を重ねると生じる無理
そこで、コイルの大きさを確保するため、コイル上にICとコンデンサーを配置する構造のスタックタイプモジュールも存在する。この構造であれば、一定のコイルサイズを確保できる。しかし、熱源であるICと基板の接続は、ICほどではないが多少熱を発するコイルに空けたビア経由で行うことになる。そうしたビアは熱抵抗が高く、ICの熱を基板に効率的に放熱できなくなり、パッケージ内に熱がこもってしまうわけだ。
熱は、パッケージ型電源モジュールにとって最大の敵といえる。モジュール内部で熱を持ってしまうと、コイルのインダクタンス特性が劣化する。そのため熱を抑えるために、一時的に出力電流を抑えるディレーティングなどを実施せざるを得なくなるのだ。
また、熱はコンデンサーにも大きな悪影響を及ぼす。モジュールに使用されるセラミックコンデンサーは、熱が高くなれば急激に寿命が短くなる。常時室温環境にある場合に比べ、50〜60℃環境では寿命は10分の1から100分の1程度に縮むといわれる。信頼性が重視される産業機器用途では、モジュールに内蔵される出入力コンデンサーの寿命不安がネックで採用できない場合も多いという。かといって、出入力コンデンサーを熱から逃すために、外付けするのも簡単ではない。DC-DCコンバータとコンデンサー間の配線を長くしてしまえば、発振などの問題を起こし、電源として機能しなくなる。出入力コンデンサーを内蔵すると電源回路の省スペース化には貢献するものの、内蔵せざるを得ず、信頼性を大きく犠牲にしている――。このことは、コンデンサーを内蔵するスタックタイプのパッケージ型電源モジュールが共通に抱える問題でもある。
性能/信頼性を損ねないモジュール構造
性能、信頼性を損なわず、モジュールの利点を享受できる小型電源モジュール構造が存在する。ポケットコイルタイプの電源モジュールだ。
ポケットコイルタイプの構造は実に明快だ。樹脂封止された通常のICパッケージ上に、逆凹型のコイル「ポケットコイル」を覆いかぶせ一体化しただけの構造だ。コイルとICは、個別実装しているのと同様に、それぞれ基板と直接接続される。そのため、それぞれ基板に直接放熱でき、熱の集中を軽減できるのだ。
同時に、コンデンサーは個別実装同様、IC近傍に外付け実装できるようになっていて、他の構造の電源モジュールでは、避けられない信頼性問題はない。
逆凹型コイルがノイズを遮断
一方で、マッチング済みのコイルが一体になっているため、開発の簡便性は保たれている。サイズに関しては、コンデンサー内蔵タイプに比べフットプリントは多少大きいものの、電源回路に占める割合の大きいICとコイルを縦積みしているため、従来比で大幅なサイズ縮小が図れる。
そして、パッケージ型電源モジュールの最大の利点ともいえるノイズ抑制効果は、コイルとICの互いの接続端子が密接する配置になっており、ノイズ源となる配線を最大限短くできる。さらに配線部分とDC-DCコンバータ自体というノイズ発生源を樹脂、さらには逆凹型構造のコイルが結果的にシールドする構造で、他の構造の電源モジュールよりも不要輻射(ふくしゃ)ノイズを大きくカットできるメリットを発揮する。
2009年、トレックスが製品化
このポケットコイルタイプパッケージ型電源モジュールは、国内電源IC専業メーカーであるトレックス・セミコンダクターが独自に開発したもの。「“micro DC/DC”コンバータ」という名称で2009年に製品化し販売してきた。
最新の“micro DC/DC”コンバータ製品である「XCL219/XCL220シリーズ」は、2.5×2.0×1.0mmサイズながら、最大1.0A出力を誇る降圧型のポケットコイルタイプ“micro DC/DC”コンバータだ。従来世代よりも、コイルのインダクタンスを下げるなどの改良を行い、効率改善と大電流対応化を実施。4.2V入力1.8V出力の降圧動作で、負荷1mA時の効率は83.5%、負荷300mA時の効率は89.2%と軽負荷から重負荷まで高い効率を誇る。さらにトレックス独自技術「HiSAT-COT」*)を採用したICを用いており、高速過渡応答特性にも優れるという利点を備える。
*)関連記事:高速過渡応答DC-DCコンバータの決定版! COT制御の弱点を克服した「HiSAT-COT」とは
スイッチング速度3MHzのXCL219/XCL220シリーズよりも、ノイズ性能を重視し、スイッチング速度を1.2MHzにした「XCL221/XCL222シリーズ」(500mA品)も用意。「“micro DC/DC”コンバータは、実装面積に余裕が少ないモバイル機器などに適した製品だ。だが、産業機器など比較的、面積的に余裕のある用途でも“ノイズが低い”“設計が楽”という点が好まれ、数多くの採用事例がある。動作温度範囲は−45〜+105℃の産業機器対応で、現状、車載用途での使用は推奨していないが、他に低ノイズ電源が見当たらないとの理由から“micro DC/DC”コンバータを車載情報機器に採用しているユーザーもいるほどだ」(トレックス)。
さまざまな用途/ニーズに応じた製品構成
トレックスではXCL219/XCL220シリーズ以外にも、特色ある“micro DC/DC”コンバータをラインアップしている。その1つ「XCL210シリーズ」は、ウェアラブル機器やモバイル機器の用途に向けて、軽負荷時の効率を追求した製品だ。
スタンバイ時間の長いウェアラブル機器などでは、マイクロアンペアオーダーの軽負荷時の効率が電池寿命に直結するため、重負荷時の効率を犠牲にして、LDOレギュレーターを使用する場合も多々ある。これに対し、XCL210シリーズは、軽負荷時の効率に優れるPFM(パルス周波数変調)制御方式を採用。負荷100μAで84%(4.2V入力1.8V出力時)、負荷10mAで88.6%(同)と、軽負荷から重負荷まで全ての負荷範囲でLDOレギュレーターを上回る効率を達成している。
また、“micro DC/DC”コンバータとしては、逆凹型コイルを用いたポケットコイルタイプ以外にも、低抵抗の金ワイヤボンディング技術を用いて高い放熱性とコンデンサーの外付け化を実現したスタックタイプとマルチプルタイプの製品を展開している。
コイルとICを水平方向に並べて実装するマルチプルタイプでは、このほど、コイル内蔵DC-DCコンバータとして「世界最小クラス」(トレックス)とうたう「XCL223/XCL224シリーズ」を製品化した。XCL223/XCL224シリーズのサイズは、2.25×1.5×0.7mmと小型、低背を実現している。トレックスでは、「ノイズ性能は、ポケットコイルタイプには劣るものの、低背化しやすい構造で、高さ0.8mm以下が要求される一部のウェアラブル機器/スマートフォン用途に向けて開発した」とする。従来製品よりもコンバータのオン抵抗を下げた上で、コイルのインダクタンス値も抑えるなどし、小型化を実現したという。
ポケットコイルタイプの低背化など新製品を続々開発中!
「ポケットコイルタイプは、その構造から、他のタイプに比べて低背化が難しい。しかし、ポケットコイルタイプ特有の低ノイズ性能の製品が欲しいという要求は高く、現在、1mmを下回るポケットコイルタイプの製品をコイルメーカーと連携して開発している」と今後の開発方針を明かす。
低背版ポケットコイルタイプ“micro DC/DC”コンバータ以外にも、最大6A出力対応の製品や現行最大100mA出力(3.3V入力1.8V出力時)となっている昇圧“micro DC/DC”コンバータとして350mA対応品なども開発中で、2016年中にも量産ないしサンプル出荷を開始する予定だという。
「“micro DC/DC”コンバータ、特にポケットコイルタイプは、性能や信頼性で一切妥協せずに、コイルを内蔵した電源モジュール製品としての位置付けを今後も貫いていく。製品化からしばらくは新しい電源アーキテクチャのため採用までに時間を要したが、電源モジュールへの理解も深まり、いよいよ“micro DC/DC”コンバータの累計出荷数は2500万個を突破した。2015年度の出荷額は、前年度比約1.5倍増となる見込み。さらに2016年度は昨今のデザインイン数の増加により、2015年度比2倍程度の出荷額が見込まれている。市場から高い評価を得ている製品であり、さまざまな電源のニーズに応えられるようラインアップの強化を積極的に進めていく」としている。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年4月6日