電磁制動作用でアナログメーターの表示を安定化:Design Ideas 計測とテスト
可動コイル型メーターは、工場出荷前に端子間を導線で短絡し、電磁制動作用を持たせ、輸送中の機械的振動や衝撃に耐えるようにしている。これと基本的に同じ原理を通常動作状態で利用する回路を紹介しよう。
電磁制動作用によって衝撃と振動への耐性を高める
可動コイル型メーターは、工場出荷前に端子間を導線で短絡し、電磁制動作用を持たせ、輸送中の機械的振動や衝撃に耐えるようにしている。これと基本的に同じ原理を通常動作状態で利用する回路を紹介しよう。メーターを内部抵抗が小さい電圧源に接続すると、電磁制動作用によって表示が安定する。モバイルシステムや自動車用装置では、外部からの振動や衝撃に対する耐性を高めることが不可欠になっている。
例えば、0〜10V電源の測定が必要なアプリケーションを考えてみよう(図1)。
フルスケール電圧VFS50mV、同電流1mAの一般的なメーターを使うとする。フルスケール電圧を10Vにするには、抵抗RSをメーターと直列に接続する。まず、メーターの内部抵抗RCOILを計算する。
次に、以下のようにして倍率抵抗RSを求める。
RSは一般に、RCOILよりずっと大きいので、メーターの電磁制動効果は著しく低下する。キャパシターをメーターと並列に接続して制動作用を向上させることもできるが、メーターのセトリング時間が長くなってしまう。
図2は、その解決策である。可動コイル型メーターが、完全な負電圧帰還ループ付きオペアンプIC1の出力に接続されている。オペアンプは極めて低い等価出力抵抗を示すので、メーターの両端子は仮想的に短絡され、効果的な電磁制動作用によって表示が安定し、衝撃と振動への耐性が高まる。図2では、オペアンプの正相入力に接続されているR1、R2による分圧回路によって、メーターのフルスケール値が決まる。RFとCFによるハイパスフィルターを追加すると、メーターのセトリング時間をさらに改善できる。トランジスタQ1、Q2を追加すると、過電圧保護が可能になる。なお、通常動作の場合、トランジスタのベースエミッタ電圧VBEは、メーターのフルスケール電圧VFS(通常、50mV〜100mV)よりも数倍以上大きくなければならない。
図2:課題を解決する回路(クリックで拡大)
オペアンプの等価出力抵抗は低く、電磁制動作用によって、可動コイル型メーターの表示安定化と機械的ショックや振動に対する優れた耐性を実現する。オペアンプの電源VCCは、外部電源に接続するか、VINがIC1の最小電源電圧より高ければ入力端子に接続する。
レールツーレール出力が可能な単一電源型の低消費電力オペアンプは、この目的に適している。入力電圧VINがオペアンプの最小電源電圧より高ければ、図2の点線のように、オペアンプのVCCピンを直接、入力端子に接続できる。この回路は、衝撃と振動に対する優れた耐性と、外部電源を必要としない従来の可動コイル型メーターの利点とを兼ね備えているのである。オペアンプは、一般的な可動コイル型メーターのフルスケール消費電流IFS以下で動作する、入手しやすい市販のレールツーレール出力の低電力製品でよい。例えば、米Maxim Integrated Products社の「MAX4289A」では1V/9μAの、また「MAX4470」では1.8V/750nAの電源でよい。
ここまでの説明は、直流電圧の測定に限っているが、交直両用に拡張することもできる(図3)。レールツーレール出力のオペアンプ1個と抵抗R3、R4、R5からなる、ダイオードなしの精密型全波整流回路を追加してある*1)。抵抗R1、R2によって、フルスケール値が決まる。この回路は、オペアンプIC1、IC2を駆動する外部直流電源を必要とし、電圧制限トランジスタQ1、Q2はオプションである。*1)Bell, Alexander“, Simple FullWave Rectifier,”ElectronicDesign, April 4, 1994, p.78.
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※本記事は、2008年7月29日にEDN Japan臨時増刊として発刊した「珠玉の電気回路200選」に掲載されたものです。著者の所属や社名、部品の品番などは掲載当時の情報ですので、あらかじめご了承ください。
「珠玉の電気回路200選」:EDN Japanの回路アイデア寄稿コラム「Design Ideas」を1冊にまとめたもの。2001〜2008年に掲載された記事から200本を厳選し、5つのカテゴリーに分けて収録した。
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