IoTの世界で、次に何が起きるのか?:アナログ回路設計講座(19)
IoTがありふれた存在になろうとしている中で、これからは、極めて効果的なIoTシステムの実現を目指し、信頼性の高いセンサーを採用したり、システムの稼働時間といった主要な性能を高めたりといったことが重視されるようになる。そうした“これからのIoT”を前進させる要因は、高精度のセンサーやアナログ・シグナル・チェーンになるだろう――。
当初、IoT(Internet of Things)のハイプ曲線は、配備済みのセンサーや利用可能なセンサーの数が増加しているという事実のみに基づいて描かれていました。それが、現在では、将来を予測していくつかの重要な成功要因について議論できる段階にまで進んでいます。将来、IoTについては、顧客に対して明らかな経済的メリットをもたらすアプリケーションを提供することがトレンドになるでしょう。また、バッテリの持続時間を複数年のレベルにまで延長しようという取り組みもトレンドとなるはずです。IoTベースのワイヤレス監視システムでは、データを送信するために電力を消費します。したがって、センシングと処理をエッジで行い、ローカルで意思決定を行うことで送信するデータ量を抑えるスマートなパーティショニングを採用することが1つのポイントになります。つまり、送信をより散発的にするか、より短期間に行うようにするということです。それにより、かなりの付加価値をIoTベースのシステムに追加することが可能になります。
さらに、将来的に重要な要素になるのが、セキュリティを確保しつつ、高い信頼性でシステムを動作させる能力です。今後は、極めて効果的なIoTシステムの実現を目指し、信頼性の高いセンサーを採用したり、システムの稼働時間といった主要な性能を高めたりといったことが重視されるはずです。そのようなことを実現できるように、設計の重点は移行していくと考えられます。アナリストらは、低コストのシステムに対する過度な期待は現在がピークだと分析しています。筆者は、そうしたIoT向けのプラットフォームが1年以内に一般的な市場にあふれ返るようになると予想しています。また、今後2〜5年の間に、IoTの市場を前進させる要因は、高精度のセンサーやアナログ・シグナル・チェーンであると考えています。何らかの用途に特化していたり、差別化要因が盛り込まれたりする、優れた特徴を備えるセンサーやコンポーネントが重要になるということです。
より良いデータの重要性
IoTシステムでは、アナログ信号からデジタル・データへの変換が主要な処理の1つとなります。端的に言えば、この処理を高い精度で実行するほど有用なデータが得られます。ICの世界のイノベーションにより、そのような変換が可能になりました。検出、測定、解釈、接続の技術により、現実の世界とデジタルの世界の間が架橋されました。つまり、私たちを取り巻く現実の世界で起きていることをデジタルの力を使って解釈することが可能になったのです。
そのようにして取得したデータを使用して何らかの変更を行う必要があると決断することができるのであれば、最も効果的なIoTの実装が行えていると言えるでしょう。最良の変更は、効率や安全性の向上といった卓越した価値を顧客にもたらします。例えば、工場においては、機械学習(マシン・ラーニング)を利用した予知保全により、機器の保守が今後いつ必要になるのかという判断を行うことができます。それだけでなく、どのような処置が必要か(モーターの摩損の具合から問題のあるボール・ベアリングを特定するなど)といった判断も行える、はるかに優れた洞察をもたらす情報も取得できるようになるかもしれません。
どのようなIoTシステムにおいても、最初のステージでは、信号をリアルタイムに検出/測定し、分析に使用できるデータに変換するということが行われます。この一連の処理をどれだけうまく実施できるかが、その後の処理の成否を左右します。無意味なデータを入力したのでは、どれだけ優れたIoT対応の分析用クラウド・プラットフォームを使っても、無意味な結果しか得ることができません。最大限の効果をもたらすIoTシステムとは、他のシステムでは不可能なレベルで測定と報告が行えるものだと言うことができます。
測定/報告について高い能力が求められることから、高度なハードウェアが非常に重要な要素になります。Gartnerが最近発表したレポートでも、このことが指摘されています。同社のレポートによれば、「低コストのIoT向け開発用ボードは、『幻滅の谷』に急速に近づきつつある」と言います。低コストの開発用プラットフォームが多数提供されていることが、その一因かもしれません。ただ、開発用ボードに対する需要が減少しているより大きな要因が存在すると筆者は考えています。というのも、現在は、真の意味で経済的な価値をもたらす、より複雑なIoTアプリケーションに対して、これまで以上に多くの力が注がれているからです。そうしたアプリケーションでは、大雑把な測定では得ることのできない高精度の結果が必要になります。
ノード‐クラウド間の適切なパーティショニング
クラウドは、ビッグ・データの処理や分析の処理を行えるように拡張された複数のシグナル・チェーンに対応可能です。大半のIoTアプリケーションでは、エッジ・ノードにかなりの処理能力(インテリジェンス)を配分することが必要になります。その理由としては、すべてのデータをクラウドに送信できるだけの帯域幅が得られないこと(より正確には、誤りのない伝送を実現するためには、データ転送レートに制約が加わること)や、遅延の問題が存在すること(ノードには迅速な動作が求められ、システムとしては、クラウドからの応答を待っていられない)など、複数の要因が挙げられます。結果として、複数の制御ループがノード、中間に位置するゲートウェイ、クラウドのそれぞれで実行されることになります。クラウドは、多数のセンサーからのデータを集約することを可能にします。それらのデータを基にして、エッジに対する調整が行われます。ただ、McKinseyによると「実際に使用されるのはクラウド上のデータの1%に過ぎない」と言います。同社は、「セキュリティ上のリスクが加わることを考えると、データをローカルに保持することにもメリットがある」としています。
スマートなパーティショニングを実施し、センサーにアルゴリズムを組み込むことで、最も重要なデータをその発生源でリアルタイムに解釈することが可能になります。また、インテリジェントなセンサーとクラウドにアルゴリズムを組み込むことによって、ICだけでは実現できないレベルの解釈を行えるようになります。実際、それは将来のシステムの動作を予測/予期できるようにすることにつながります。ミッション・クリティカルなアプリケーションでIoTソリューションの採用が加速するか否かは、セキュリティの高いシステムを構築できるかどうかに依存します。それを可能にするのがインテリジェントなパーティショニングです。
クラウド・コンピューティングは、多数の原始的なセンサーによる測定値をつなぎ合わせつつ、個々のセンサーの測定値を時間や場所、他のセンサーに関連付けることにより、洞察を導出することを可能にします。この一連の流れは2つの要素によって実現されます。1つは、データの変化(機器の性能のドリフトなど)を検出する能力です。もう1つは、物理的なモノ(モーターなど)またはシステムのソフトウェア・モデルとなるデジタル・ツインを作成する能力です。デジタル・ツインは、先を見越した装置の保守や、製造プロセスの計画立案に利用できます。今後数年の間にセンサーは爆発的に増加すると考えられます。デジタル・ツインは、その状況に対応し、ソフトウェアとサービスによって収益を得るための手段の1つだと見なされています。
IoTシステムを産業オートメーションに適用すれば、機器の監視をアクティブに行うことで稼働時間を大幅に改善し、工場に変革をもたらすことができます。ローカルで監視を行うことによって、リアルタイムの最適化と介入が可能になります。一方、クラウドを利用した監視により、複数の工場にわたる複数のシステムからの情報を集約し、分析/実行することで生産性を向上することができます。
つまり、IoTシステムのスマートなパーティショニングは、クラウドの有効活用につながるということです。
信頼できるデータが鍵に
IoTにおいて重要な最後の要素は、ワイヤレス・ネットワークを構築することです。ネットワークに接続される機器の大多数は、RF/マイクロ波を使用してワイヤレスでクラウドに接続されます。稼働時間が短いものもあれば長いものもあるし、データ・レートが低いものもあれば高いものもあるといった具合に、動作の形態は多種多様です。数ヵ月から数年にわたり、実際に通信を実施することなく過ごすデバイスもあれば、ミッション・クリティカルでセキュリティの高いネットワークを介して動作させる必要のあるデバイスもあります。センサー・ノードの多くは、バッテリによる給電やエナジー・ハーベスティングによる自己給電を利用します。そのため、効率的に動作させることが重要です。通信ネットワークは、さまざまな要件に応じてセンサーからクラウドに情報を伝送するために不可欠な要素です。
効果的なIoTシステムを実現するための最も重要な要素は何でしょうか。それは、信頼性の高い動作を実現することです。多種多様なすべての要件に対応して、センサーからクラウドに情報を伝送するために必要な通信ネットワークこそが、最も重要な要素となります。信頼性の高い動作を実現するのは、至るところに金属やコンクリートが使われている工場などの過酷な環境では特に難しくなります。顧客は、コスト、消費電力、遅延の少ない技術が理想的だと考えます。また、センサーを制約なく配置できる拡張性を求めます。重要なのは、ワイヤレス・プロトコルに依存しない信頼性の高いネットワークを構築する能力です。それこそが、代替の経路やチャンネルを使用して干渉を克服し、高い信頼性を維持するための能力につながります。
アナログ・デバイセズは消費電力が少なくセキュアなワイヤレス・ネットワークを実現するための製品を提供しています。詳細については、http://www.analog.com/jp/applications/technology/smartmesh-pavilion-home.htmlをご覧ください。
【参考資料】
・Casey Panetta「Technologies Underpin the Hype Cycle for the Internet of Things, 2016(IoT のハイプ・サイクル:2016 年を支える技術)」Gartner、2016年11月
・Patel Shangkuan、Mark Shangkuan、Jason Shangkuan, ChristopherThomas「What’s New with the Internet of Things?(IoTの新たな展開)」McKinsey & Company、2017年5月
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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年8月10日