「O-RAN」の相互運用性がもたらすテストの課題:キーサイトが解説(2/2 ページ)
Open RANは、モバイルネットワーク事業者に大きな可能性をもたらします。ただし、そのオープン性はテスト面で新たな課題を生んでいます。
O-DUテストの課題
全てのO-RANコンポーネントに相互運用性テストが必要ですが、この観点からDUには大きな課題があります。まず、管理プレーン(M-plane)の実装が引き起こす問題が挙げられます。DUはM-planeの実装時に特定のパラメーターを予期し、条件が満たされないと動作を停止するためです。無線ユニットの管理に役立つYANGモデルには、6000を超えるパラメーターがありますが、そのうち必須なのは3%以下であり、ネットワークベンダーもカスタムプロトコルを実装しているため、これは重大な課題になり得ます。
ブリングアップシーケンス(起動シーケンス)のO-RAN仕様には、大きな柔軟性があります。RUの動作が予想と異なる場合、一部のDUは取得プロセスをスキップするか動作を停止します。
DUユニットは、特定のプロトコルオプションがない場合にも、動作を停止できます。例えば、一部のDUはダイナミックホスト構成プロトコル(DHCP)オプションが予期したものと正確に一致しない場合に動作を停止します。
O-RAN仕様には、コントロールプレーン(C-plane)やユーザープレーン(U-plane)の多くの実装が含まれていて、これらのプレーンのマッピングは、使用するRUのタイプによって異なります。DUは、特定のRUタイプ、ビームフォーミング、モデルおよび圧縮率で動作するよう設計されています。DUは通常、非プリコーディング無線ユニットである「カテゴリA」のO-RU、または変調圧縮をサポートするプリコーディングユニットである「カテゴリB」のO-RUのいずれかをサポートしています。また、通常は1つのビームフォーミングモデル(事前定義、重量ベース、属性またはチャネルなど)のみをサポートし、各モデルには特定の方法とオプションがあります。
こうしたオプションは、イノベーションのためには素晴らしいものですが、テストの観点から見れば、プロトコル実装の多様性は大きな課題となるのも事実です。
さらに、フロントホールのタイミング検証も重要です。O-RUは、TDD(時分割複信)、MIMO、マルチRUキャリアアグリゲーションなどの機能で、DUとの厳密な同期が必要になります。
マルチユーザーMIMO(MU-MIMO)では、O-DUベンダーとの密接な協力体制が不可欠です。O-RAN Allianceでは、O-RANインタフェース全体で通信を標準化していますが、SRS(Sounding Reference Signal)とビームウェイトの使用はベンダーごとに異なります。
O-RANテストソリューションとユースケース
これらの課題を解決するためには、さまざまなベンダーのRUをカバーできる幅広い機能を備えたテストソリューションが必要となります。M-planeが柔軟性を備えていることから、異なるRUからの複数の動作のシミュレーションが必要です。テストソリューションでは、フロントホールの同期を検証できるように、「O-RAN.WG4.CUS.0-v05.00」仕様に従い、カテゴリAとB両方のO-RUと同期プレーン(S-plane)機能もサポートする必要があります。特定の実装に合わせるためには、ビームフォーミングとMU-MIMOのサポートが必要となります。
図2に、実際のEPC(Evolved Packet Core)ネットワークを使った、5G NSA(Non-Stand Alone) O-DUテストの構成例を示します。
この構成では、RUシミュレーターはフロントホールeCPRI(Evolved CPRI)インタフェースを介してO-DUに接続され、X2インタフェース上のLTEアンカーを使用してO-CUに接続されています。さらに、S1-APインタフェースでコアネットワークに接続されています。トラフィックジェネレータは、ネットワークの負荷を提供します。
5G SA(Stand Alone)のテストでは、RUシミュレーターはeNBをエミュレートする必要がないため、構成ははるかにシンプルになります(図3)。RUシミュレーターを、eCPRIインタフェースでO-DUに接続するだけです。
ただし、完全なO-DUテストにはラップアラウンドテストが必要です。図4に、5G NSAコンテキストでEPCをシミュレートしたO-DUラップアラウンドテストの構成例を示します。
RUシミュレーターは、eCPRIインタフェースを介してO-DUに、X2インタフェース上のLTEアンカーを介してO-CUに接続し、S1-APインタフェースを使用してコアネットワークシミュレーターに接続します。
図5は、シミュレートされた5Gコアネットワークを使用した、5G SAのセットアップを示しています。図2のように、RUシミュレーターはeCPRIインタフェースでO-DUに接続しますが、シミュレーターは、5Gコアネットワークをシミュレートします。
O-RANの動きは勢いを増しています。O-RANでは、異なるベンダーから提供されたコンポーネントがシームレスに連携することが最優先事項になっています。相互運用性テストは、特にDUの場合、プロトコルの実装における柔軟性が高く、RUとの緊密な同期が必要なため、困難な場合もあります。複数のベンダーのRUをカバーする幅広い機能を提供するテストソリューションは、O-DUの相互運用性テストを正しく行うために、重要になるのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 5Gをさらに強化する「Release 16」、その新たな機能とは
2020年7月に最終版が公開された3GPPの「Release 16」。同規格について、追加あるいは強化された機能を解説する。 - 知っておきたい「O-RAN」の機能分割とテストの課題
5G(第5世代移動通信)における無線アクセスネットワーク(RAN)の変革と仮想化は、オープン化されたRAN(Open RAN)によって可能となる。ネットワーク事業者に大きなチャンスをもたらす一方で、テストエンジニアには新たな課題も生じ、また無線エンジニアはOpen RANに関して多くの疑問を抱えている。本稿では、無線通信業界でOpen RANが必要とされる理由、機能の仕組み、そしてどのような課題があるのかを説明する。 - O-RAN準拠のASICベース5G無線プラットフォーム
アナログ・デバイセズは、O-RAN準拠の5G無線ユニット向けASICベース無線プラットフォームを発表した。ベースバンドASICや次世代トランシーバー、信号処理、電源などが組み込まれており、5G O-RANエコシステムの開発に貢献する。 - 屋内測位向けエクスプローラーキット
ユーブロックスは、AoAによるBluetooth方向検知を活用した屋内測位向けエクスプローラーキット「XPLR-AOA-1」「XPLR-AOA-2」を発表した。モバイルデバイスやタグの位置をサブメートル級の精度で計算できる。 - 5Gマクロセル基地局向けRFデバイス
ルネサス エレクトロニクスは、5Gマクロセル基地局向けのRFデバイスとして、VGA、LNA、RFドライバアンプ、RFスイッチの4製品群を発売し、量産を開始した。同社のRFアンプや可変ゲインアンプと組み合わせて使用できる。 - 5Gセルラー基地局向けRF MCM
NXPセミコンダクターズは、5Gセルラー基地局向けのRFパワーマルチチップモジュール10種を発表した。同社最新のLDMOS技術と統合設計技術を採用しており、前世代品と同じフットプリントで、より高い出力や効率、より広い周波数帯を提供する。