検索
連載

32年ぶりの新製品も 波乱万丈だったMotorola「MC6800」マイクロプロセッサ懐古録(7)(1/4 ページ)

今回はMotorolaのプロセッサ「MC6800」を紹介しよう。開発から市場投入に至るまで波乱万丈な経緯を持つMC6800は、派生品も多く、一時代を築いた息の長いプロセッサである。

Share
Tweet
LINE
Hatena

⇒「マイクロプロセッサ懐古録」連載バックナンバー一覧

Motorolaを混乱に陥れた7人の幹部

「MC6800」の外観
「MC6800」の外観 Swtpc6800 en:User:Swtpc6800 Michael Holley - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン,

 先月は「MOS 6502」をご紹介したが(「ファミコンにも採用された「MOS 6502」、その末路をたどる」)、その基(?)になった「MC6800」については軽く触れただけである。とはいえこちらも一時代を築いたプロセッサであり、振り返っておくのは悪くないだろう。

 Motorolaの前身であるGalvin Manufacturing Corporationは1928年に設立された。当初のビジネスはカーラジオの製造販売であり、その後はさまざまなラジオ関連製品の製造販売に手を広げた。同社がMotorolaに社名変更したのは1947年の事であり、その4年前の1943年にはIPO(新規株式公開)も果たしている。1950年代には半導体製造事業にも乗り出し、RTL/DTL/TTL/ECLのロジックチップを多数そろえたところまでは良かったが、同社はPMOSプロセスの製造方法確立に失敗した。おまけに、1968年には半導体部門のVP兼GMを務めていたClarence Lester Hogan博士がFairchild Semiconductorの会長兼CEOとして引き抜かれる。この時Hogan博士は7人の上級幹部(8人という説もある)を引き連れて移籍しており(この7人はHogan's Heroesと呼ばれた)、結果としてMotorolaの半導体部門は大混乱に陥る。余談だが、この引き抜きを行ったのはまだ当時Fairchildに在籍していたRobert Noyce博士であるが、そのNoyce博士は引き抜き後に同僚のGordon Moore博士と連れ立ってFairchildを辞職し、Intelを設立した。

立て直しを経てリリースにたどり着く

 さてこの混乱のせいでMotorolaの半導体部門の遅れは悪化したし、PMOSプロセスの製造方法確立も遅々として進まなかった。この状況が解決に向かったのは1971年にThomas Bennett氏が加わってからである。彼はまず電卓向け半導体に携わる。CHM(Computer History Museum)の"Oral History Panel on the Development and Promotion of the Motorola 6800 Microprocessor"によれば、この当時4種類の電卓向けチップの開発が同時に進んでおり、しかもどれも大量生産には至らなかったらしい。ただその後Olivettiからカスタムチップ製造の依頼が舞い込み、これを受注する。ちなみにこのチップ、設計はMotorola内で行ったが、製造はPMOSプロセスを既に実用化していたMostekに委託したそうだ。

 それとCollins RadioでC8500コンピュータの開発に携わったJeff LaVell氏や、Motorolaに入社後にMOSプロセスやCADツールの開発に携わっていたBill Lattin氏の3人は、当時未開発だったNMOSプロセスを利用した、新しいマイクロプロセッサおよびその周辺のサポートチップの定義作業を始める。この時定義されたのは

  • MC6800 MPU
  • MC6810 1Kbit RAM
  • MC6830 2Kbyte ROM
  • MC6820 PIA (Parallel Interface Adapter)
  • MC6850 ACIA (Asynchronous Communications Interface Adapter)
  • MC6852 SSDA (Synchronous Serial Data Adapter)
  • MC6860 600-bps Digital Modem

などである。この定義書というか企画書を持って、チームはさまざまな企業に売り込みをかける。最終的にCDCから20万個の確定発注を受けたことでプロジェクトは正式にスタート。1972年に論理設計が始まり、1973年に最初の5つのチップ(MPU/RAM/ROM/PIA/ACIA)の物理設計も開始される。実はこの5つのチップのうち、ACIAとSSDA/ModemはPMOSを使って製造するというプランだったらしいのだが、これらも全てNMOSで製造される事になった。恐らく1973年頃にはそのNMOSプロセス(ウエハーサイズは3ないし4inchでメタル1層、プロセスルールは6μmほど)もMPUの量産に耐える程度まで性能が向上したらしい(NMOSプロセスそのものは1971年後半に一応完成した。つまりMotorolaはPMOSをいったんスキップした訳だ。いったん、というのはこの後CMOSに移行するためにはPMOSも絶対に必要になるからだ)。最初のチップは1974年2月に完成するものの幾つかバグがあり、それが修正されたバージョンは1974年6月までにリリースされ、顧客の手元に贈られた。MC6800を利用した最初の幾つかの製品の一つが、1975年にリリースされた「HP 9815A」である。

 ちなみに1974年に発売されたMC6800は動作周波数が1MHzだったが、これは同社のNMOSがEnhanced Modeでの動作になっていた事も関係している。この後同社はあらためてDepression ModeのNMOSでMC6800を作り直した結果、歩留まりも向上したほか動作周波数も2MHzまで引き上げられた(1976年発売のMC68B00。これに先立ち1.5MHz動作のMC68A00も発売されている)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る