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【ビデオ講座】センサから始まるシグナルパス(2) 最適なA-D変換器の選択方法 (クリックで動画再生)
電子機器に搭載することで、新しい魅力的な機能を付加できるセンサ。しかし、このセンサを電子機器に組み込む作業はそう簡単なことではない。センサから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するまでのシグナルパス(信号経路)を注意深く設計しなければ、希望する結果は得られない。
前回、センサから始まるシグナルパスには大きく三つの回路要素があることを説明した。オペアンプとフィルタ、A-Dコンバータである。今回は、フィルタの後段に接続するA-Dコンバータを選択、もしくは設計する場合に注意すべき点などを解説する。
SARとΔΣが最適
A-Dコンバータは、アナログ信号をデジタル信号に変換する半導体チップである。さまざまな半導体メーカーから製品が市場に投入されており、その実現技術は数多くある。例えば、パイプライン型やΔΣ(デルタ・シグマ)型、逐次比較(SAR:Successive Approximation Register)型、フラッシュ型などである。
これらの方式はいずれも長所と短所があり、それによってアプリケーションの守備範囲が決まっている(図1)。ΔΣ型は、20ビットや24ビットといった高い分解能が得られる点が特徴である。しかし、変換速度はあまり高くない。このため、信号の速度は高くないものの、高い精度が求められるアプリケーションに向く。SAR型は、ΔΣ型に比べると分解能が低いが、それでも16ビットや18ビットといった高い精度が得られる。しかも、変換速度は数Msps(サンプル/秒)と比較的高い値が得られる。
一方、パイプライン型とフラッシュ型は、高い変換速度が得られる点が特徴である。パイプライン型は、数10M〜数百Mspsと高い変換速度が得られる上に、12ビットや14ビット、16ビットといった高い分解能を同時に実現できる。フラッシュ型は、さらに高い変換速度が得られる。数Gspsと極めて高い変換速度を実現したA-Dコンバータを入手できる。ただし、分解能は8〜10ビット程度しか得られない。パイプライン型とフラッシュ型の主な用途は、高い変換速度が生かせる通信機器やネットワーク機器などである。
今回主題として取り上げている「センサから始まるシグナルパス」が想定するアプリケーションでは、高い精度が求められる。一方、変換速度はそれほど高くなくても構わない。センサを使って極めて高い頻度でデータを取得するケースは少ないからだ。従って、SAR型、もしくはΔΣ型が最適なA-Dコンバータということになる。
高ければよいわけではない
SAR型、もしくはΔΣ型のA-Dコンバータを選択する場合、注意すべき特性は大きく分けて四つある。一つめは分解能、二つめは変換速度、三つめは積分非直線性誤差(INL)とDNL(微分非直線性誤差)、四つめはSN比(信号対雑音比)である。
一つめの分解能については、「高ければ高いほどよい」(ナショナル セミコンダクター ジャパンでシグナルパス関連製品のマーケティングを担当する原田佳樹氏)という。ただし、分解能が高い製品を闇雲に選べばよいというわけではない。分解能が高いA-Dコンバータは価格が高く、消費電力が大きいという傾向にあるからだ。従って、対象となるアプリケーションに求められる精度を考慮して、必要最低限の分解能を備えるA-Dコンバータを選択すべきである。
二つめの変換速度についても、分解能と同様のことがいえる。変換速度も高ければ高いほど、元のアナログ信号を忠実に再現できるようになる(図2)。しかし、変換速度が高いA-Dコンバータは、分解能と同様に価格が高く、消費電力が大きい傾向にある。従って、アプリケーションに求められる必要最低限の変換速度を備えるA-Dコンバータを選ばなければならない。必要最低限の変換速度とは、どの程度なのか。原田氏は、「少なくとも、センサから出力されるアナログ信号の周波数の2倍は必要になる。できれば、5倍程度あれば好ましい。すなわち、アナログ信号の周波数が50kHzであれば、変換速度は250ksps程度あればよいことになる」と指摘する。
DNLとINLに注意
三つめのINLとDNLは、精度に関する特性である。INLとDNLを解説する前に、LSB (Least Significant Bit)という基本概念をおさらいしておこう。LSBはA-Dコンバータにおける量子化単位であり、検出可能な最小の電圧値である。1LSBは、基準電圧値(Vref)を2n(nは分解能)で割ることで求められる(図3)。
DNLは、A-Dコンバータのアナログ入力信号とデジタル出力信号(コード)の関係から求められる実際のステップが、理想のステップからどの程度離れているかを示す特性である(図4)。実際のステップが理想のステップから1LSBずれてしまうと、つまりDNL=-1LSBの場合は、アナログ入力信号に対応するデジタル出力信号が出力されないミッシング・コードという現象が発生する。この現象が発生すると、精度が大きく劣化してしまうことになる。一方のINLは、A-Dコンバータのアナログ入力とデジタル出力の関係全体において、理想的な直線に対する実際の入出力特性のズレを示したものである(図5)。「A-Dコンバータを選択する場合は、DNLとINLともに1LSB以下の製品を選ぶべきだ。最近は、ミッシング・コードが発生しないこと(ノー・ミッシング・コード)を保証する製品が数多く投入されている。こうした製品を選べば安心である」(原田氏)という。
四つめのSN比は、アナログ入力信号の実効値電力と、雑音(ノイズ)成分の実効値電力の比である(図6)。従って、この値が高い方が、精度が高いデジタル値が得られることになる。
シグナルパスを短時間で設計できる
センサから始まるシグナルパスを設計する際には、三つの回路要素それぞれについて数多くの特性に注意を払う必要がある。さもなければ、十分に満足できる成果は得られない。このため、シグナルパスの設計にはアナログ回路設計の知識や経験が不可欠だといえるだろう。
ただし、ナショナル セミコンダクターでは、アナログ回路設計の知識や経験が十分ではない技術者などに向けて、オンライン設計支援ツール「WEBENCH Sensor Designer」を用意している。原田氏によると、「このツールを使えば、センサから始まるシグナルパスを短時間で設計できるようになる。しかし、回路構成が固定されてしまうので、さまざまなチューニングを行いたい上級者には物足りないかもしれない」という。
WEBENCH Sensor Designerは、ナショナル セミコンダクターのホームページの右端にある「WEBENCH Designer」の中から「Sensors」のタブを選ぶことで利用できる。今回は「圧力センサ(Pressure Sensor)」を使ったシグナルパスを実際に設計してみる。「Start Design」をクリックするとさまざまな圧力センサが表示される。この中から最適なものを選ぶのだが、最適なものが存在しない場合はユーザーがモデルを作ることも可能である。今回は、ハネウェル・センシング・アンド・コントロール社の「19C200PA4K」を選ぶ(図7)。そして、画面右端の「Start Design」をクリックすると即座に設計結果が表示される(図8)。
回路図は、画面の中央上部に表示される。オペアンプには入力オフセット電圧が10μVと小さいデュアル品「LMP2016」、A-Dコンバータには分解能が10ビットで変換速度が最大1Mspsの「ADC101S101」が使われている。今回採用した圧力センサはブリッジ構成なので出力インピーダンスが低い。このため計装アンプ構成を採用している。周辺に接続する受動部品の特性値は、画面の中央下部に表示されている。
画面の左端に表示されているのは、シグナルパス全体の誤差(エラー)に対する寄与率だ。25℃においては、センサとシグナルパスの寄与率はいずれも0.11%である。この値は、A-Dコンバータの分解能を変えると変化する。画面の右上部をクリックすると分解能の設定画面が表示される(図9)。ここで、分解能を8ビットに変更すると寄与率は0.45%に高まり、12ビットに高めると0.03%に低下することが分かる。こうして、アプリケーションに最適な分解能が選べるわけだ。
提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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