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半導体の基礎知識(3)――IoTに見るマイコンとアナログの周辺津田建二の技術解説コラム【入門編】

最近は、IoT(Internet of Things)という言葉をよく耳にします。IoTは、インターネットにつながるモノを指したり、あるいはその技術やシステム体系を指したりします。要は、モノがインターネットにつながる時代に入ったと認識することがこれからのビジネスや成長を考えるうえで重要なのです。今回は、IoTのセンサー部分を担うモノの基礎技術を紹介します。

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変わってきたセンサーの定義

 今、世の中で言われているセンサーという言葉には2種類あります。広義のセンサーと狭義のセンサーです。狭義のセンサーとは、昔から言われているように、機械的な状態を表す物理量を電気量(電圧や電流)に変換する素子を指します。温度や、湿度、力、加速度、角速度、光などを電流や電圧に変換します。最近IoTで言われている広義のセンサーとは、センサーやアナログ、マイコン、送信回路を含む装置やモジュールを指します。

 いわゆるIoTでは、広義のセンサーを指すことが多いようです。図1に示したように、センサーネットワークからゲートウェイを通してインターネットにデータを上げる場合、左側のアンテナ付き小型モジュールがセンサーになります。クラウドを通してデータをサーバやストレージに送ります。


【図1】センサーネットワークからゲートウェイを経てデータをクラウドに上げる 個々のセンサーがIoT端末となる (MEMSICのセンサーネットワーク図に津田建二が加工、作成)

 図1のセンサーモジュールの中身は、図2のようになっています。これはワイヤレスシステムの基本回路ブロックです。狭義の意味でのセンサーはMEMSのような機械式もあれば、CMOSイメージセンサーのように光センサーもあります。そのセンサーからの信号を増幅しA-D変換して、デジタル処理(図2の組み込みシステム)します。このデジタル処理がシステム制御を主目的とするならマイコンが使われます。この後、マイコンから処理したデータをモデムの変復調方式によって、アナログへ変換したり、デジタルのまま送ったりします。図2の回路を動かすのに必要な電源はパワーマネジメント回路から供給されます。


【図2】広義のセンサーの基本的な内部回路 組み込みシステムは多くの場合マイコンである (津田建二作成)

センサーネットワークの事例

 では、IoTに必要な基本的な要求条件は何でしょうか?それを知るため、たくさん使われるようなセンサーネットワークを見てみましょう。センサーネットワークでは、基本的に広義のセンサーを多数ちりばめて、観測地点を増やし信頼のあるデータを得ます。センサーは時には人間の手が届きにくい場所に設置されることが多くなります。例えば、図3のように橋に取り付け、橋の劣化状況を観測します。橋を支えるワイヤーや橋の床にセンサーを多数取り付け、橋が振動する状況を24時間観測します。センサーの電源は、ソーラーセルとキャパシタ、PM(power management)ICです。


【図3】韓国のJindo大橋にセンサーを張り巡らせて橋の状態を管理する 韓国のKAIST、東京大学、イリノイ大学が参加した 出典:MEMSIC

 この他にも、センサーネットワークでは、火山の噴火予測のために火山のふもとにセンサーをまき散らして、観測している事例もあります。また、化学プラントではパイプの機械的劣化状況、温度計測、圧力計測などを行い、常に安全管理に心掛けている工場もあります。農業では、土壌の湿度やpH濃度、植物の葉の温度と湿度、大気の温度と湿度などを観測し肥料や水の供給時期の最適化や収穫時期の最適化などに生かすことができます(図4)。交通では貨物列車に取り付け、ブレーキや車輪の状態を24時間観測している例もあります。


【図4】IoTあるいはセンサーネットワークの応用例 出典:MEMSIC

 常に発電している輸送機械では電源は確保されていますが、電力の届かない広大な場所や巨大なシステムにセンサーを設置している場合には電源はあまり期待できません。このため、自然界のエネルギーだけで電源を起こすエネルギーハーベスティング技術や、長持ちする電池などが必要となります。さらに図2の電子回路にはできるだけ少ない電力で動作できる低消費電力技術は欠かせません。図2の広義のセンサーは、超低消費電力技術で組む必要があります。

プロセスからシステムまで電力削減技術

 ではどのような低消費電力があるでしょうか。マイコンやセンサー、アナログ、送受信回路などに使われるCMOSチップでは、プロセス、トランジスタ、CMOS、周波数、電圧、ゲーティング技術、デューティなど、あらゆる低消費電力技術を駆使します。

 プロセスやトランジスタのレベルでは、サブスレッショルド電流の傾き(ドレイン電流が1桁高くなる時のゲート電圧の比)を急峻にしたり、ゲート閾値電圧を上げたりする手を使います。最近ではFINFETと呼ばれる3次元構造にしてドレイン空乏層でしっかりドレイン電流を低く抑えます。

 周波数と電圧は下げれば下げるほど性能は落ちますが、消費電力はそれ以上に落ちます。性能は比例関係、電力は2乗で減少するからです。CMOS技術は、静止時には原理的に電流が流れません。スイッチング時のみ電流が流れますので、周波数、すなわちスイッチングの頻度を減らせば消費電力は減るわけです。

 ゲーティング技術は電圧や周波数を動作状況に応じて減らしていく技術です。インテルやAMDのプロセッサのように10Wを超えるようなチップでは、温度センサーを集積し、温度が高くなりすぎると、自動的に電圧や周波数を落とす回路を集積しています。また、使用するプロセッサの機能に応じて、回路ごとの電源をオフにしてしまう技術も使います。例えば、nVidiaのプロセッサでは、ウェブブラウジングする場合にはグラフィックス回路を止め、ゲームやグラフィックス機能を使っている時にはCPUコアを止めるというやり方を使っています。

 デューティとは、パルスの周期に対するオン期間の比です。例えばセンサーネットワークのように低消費電力が必須の場合には、センサーデータを送る時に数十mA以上の電流を消費しますので、送るパルスの時間を短くし、それ以外の期間をオフにしておきます。例えば、パルス幅10msの時間内にデータを送り、990msの間オフにすれば、デューティ比は10/1000すなわち1%しかありません。つまり、1秒おきにデータを送る場合でも消費電力はパルス時の1/100に減らせるのです。見かけ上は1秒おきにデータを送っていることになります。もし、センサーデータを1分おきに送るなら、ピーク時の1/6000に減らすことができます。

 こういった調整はマイコンを使って行います。広義のセンサーモジュールでは、マイコン、アナログ回路などで消費電力を減らすように工夫します。センサーの消費電力を大きく減らすことは感度との兼ね合いで難しいからです。マイコンはシステム全体の制御の他に電力を減らすデューティを調整することもできます。

 IoTに向いた超低消費電力のマイコンには、ルネサスエレクトロニクスのRL78シリーズなど各社さまざまなものがあります。こうしたマイコンのメモリには不揮発性のフラッシュメモリを使っていることも消費電力を下げるのに役立っています。不揮発性とは電源をオフにしても1、0が保持されるメモリです。マイコンが停止中でもしっかり記憶されていますので、起動時に電力を減らしてくれます。

 さらにセンサーからの信号処理にはルネサスのSmart Analogシリーズや、アナログデバイセズが得意な低消費電力のA-Dコンバータなどを使えます。しかも、両社とも開発ツールをそろえていることもIoTデバイスを作りやすくしています。

Profile

津田建二(つだ けんじ)

現在、フリー技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長。

30数年間、半導体産業をフォローしてきた経験を生かし、ブログや独自記事において半導体産業にさまざまな提言をしている。





提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年5月31日

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