消費電力とはどんなもの
Q:スマートフォンやパソコンでは、しばらく触らずにいると画面が暗くなったりする省電力モードが使われています。マイコンにも省電力のものがあるようですが、それはどんなものですか。
A:電気を使って仕事をしている装置には、ランプのように光を出すもの、ヒーターのように熱を出すもの、モーターのように力を出して動くものがあります。それぞれ、光エネルギー、熱エネルギー、力学的エネルギーを発生すると言ってもよいでしょう。ただし、何もないところからエネルギーが発生するわけではなく、電気的エネルギーを使ってこれらの別のエネルギーを発生(変換)しています。電力とは、電気的エネルギーのことです。別のエネルギーを発生した分だけ電力が減少することを、電力を消費したと言います。
マイコンやメモリのような論理LSIは、データを演算したり記憶することが目的であり、電力の消費はいわば副作用です。消費電力はゼロが理想ですが、実際にはある程度の電力を消費して、その分だけ熱を発生します。高性能パソコンで使われているCPUやグラフィックス・コントローラは特に発熱が大きいので、ファンなどで常時冷却していないとすぐに高温になって壊れてしまいます。
スマートフォンやノートパソコンなどの機器では、バッテリ動作時間をなるべく長くするために省電力モードを用いています。ディスプレイの液晶自体の消費電力はとても小さいのですが、バックライトの消費電力が大きいので、一定時間操作しないときこまめに消灯しています。ノートパソコンの場合は、HDDのモーターの消費電力が大きいので、やはりこまめにモーターを停止したりしています。
ファンで冷却すると電力を消費しますし、小型・薄型化が難しいので、CPUの消費電力をなるべく抑えてファンなしでも動作可能にしています。そのために、必要に応じてCPU自体も動作クロックを下げたりスタンバイ状態に移行して省電力を図っています。
Q:動作クロックは低い方がよいのですか。
A:一般に同じCPUなら動作クロックを下げるほど処理速度は遅くなり、消費電力が減ります(図1)。LSIの場合、消費電力をスタティック電力とダイナミック電力に大別できます。スタティック電力は動作クロックと関係なくほぼ一定ですが、ダイナミック電力は動作クロックにほぼ比例します。LSIの内部には数万個から数千万個に及ぶ膨大な数のトランジスタがあって、クロックに同期してスイッチング動作をします。その分がダイナミック電力になります。
図1 消費電力は動作クロックで大きく変わる
ダイナミック電力(図下段)は動作クロック(図上段)に比例した電力を消費する。クロックが高くなると、時間当たりの「縦棒の本数」が増える。スタティック電力(図中段)は動作クロックとは関係がない。
マイコンの省電力モード
Q:スタンバイ状態というのは何ですか。
A:スマートフォンのようにユーザーがアプリケーションを実行するコンピュータは、実行していないとき、ユーザーからの入力を受け付けられる状態で待っています。定期的にキー入力をスキャンするプログラムを無限ループで実行するような待ち方を、昔はしていました。その間CPUは無駄に動いていることになります。
そこで、省電力が強く求められるようになると、CPUそのものはなるべく動かさずにキー入力を待つような仕組みが考えられるようになりました。最初のころは、単にCPUが命令実行する機能を停止させるだけで、クロックなどは止めていませんでした。最近では、クロックを停止したり、部分的に電源の供給を停止するなど、より省電力の効果を高めたモードを持つCPUもあります。
さらに、最近IoT(モノのインターネット)で話題になっているように、人が操作するのではなく、小型のマイコンとセンサを組み合わせて周囲の状態を監視してサーバに送信する無人デバイスに向けては、タイマだけを動かしておいて必要な時だけ間欠的にマイコンを動作させるなど、より徹底した省電力モードを持つマイコンが作られています(図2)。例えば、テキサス・インスツルメンツ(TI)のMSP430™マイコンやMSP432™マイコンがその一例です(表1)。
図2 高速処理と省電力を両立する低消費電力モード
低消費電力モード(a)から、瞬間的に通常の動作モード(b)に移行し、短時間で処理を終えると即座に低消費電力モードに戻る。このようにして消費電力を引き下げている。
これらの超低消費電力マイコンでは、動作時の消費電力を極小に抑えている上に、スタンバイ時の待機電力も極めて小さくしています。ボタン電池1個で長期間無人デバイスを動かせるようにしたものや、太陽電池など交換不要の電源で動作できるようにしたものも増えています。
Q:具体的には、どうやって消費電力を抑えているのですか。
A:マイコンメーカーは、さまざまな手法を駆使して、いろいろな場所で少しずつ消費電力を抑えるようにしています。例えば、LSIの内部アーキテクチャを簡潔にして、トランジスタ数をなるべく減らすことも重要です。
電力は電圧×電流で計算できます。電源電圧を下げると電流も減るので、電圧の2乗に比例して消費電力を減らす効果があります。待機時の電流を減らすには、半導体の製造プロセスを改良して、無駄なリーク電流を減らすことも重要です。もちろん、クロックや電源のきめ細かい停止や、停止から高速に復帰させる技術も重要です。TIのようにアーキテクチャ設計から製造プロセスまですべて自社内に高い技術と豊富な経験を持っているマイコンメーカーは、総合力で大きな利点があると言えますね。
【関連リンク】
- ハードウェアIP CapTIvateテクノロジーの詳細
- 『MSP430FR2633』の詳細
- MSP432 低消費+高性能マイコン
- MSP430 超低消費電力マイコン・ファミリ
- MSP430 LaunchPadバリュー・ライン開発キット
- 新FRAMマイコン:「MSP430FR6972」
- 産業用マイコン:「MSP430I2040」
- TIのマイコン製品の詳細
- 便利なツールの購入はこちらから:TI store
※CapTIvate、MSP430およびMSP432はTexas Instruments Incorporatedの商標です。その他すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。
提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年3月31日
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.