産業用途向けのイーサネット・ソリューションが求められる理由、その活用形態:オートメーション分野で活用されるイーサネット PART 1
産業用イーサネットが製造分野にもたらすメリットについて解説します。最初に解説するのは、プラントのオートメーション・システムに適用される技術としてイーサネットが有用な選択肢になった理由についてです。
世界中の製造プラントで、イーサネットをベースとするソリューションが利用されるようになりました。その理由は、産業用のアプリケーションに求められるリアルタイム性能や堅牢性を実現したいからです。従来のフィールドバスと比較すると、イーサネットは高速であり、大量のデータ処理に適しています。また、卓越したエネルギー効率が得られることから、より効率的な装置の運用が可能になります。結果として、エネルギーやコストの節減が実現されます。さらに、イーサネットは、工場の製造フロアで稼働するオートメーション機器を、そのフロアを制御するエンタープライズ ITにつなぐ単一のネットワーク技術として利用することも可能です。そのため、ネットワーク全体の設計を簡素化したり、性能を高めたりすることができます。
イーサネットが製造分野に適しているのはなぜでしょうか。また、それはどのように利用されるのでしょうか。その普及の背景には多くの要因があります。以下、その一部を挙げてみます。
- 現在、ほとんどの産業用イーサネットは、競合を回避するために全二重で動作します。半二重では競合が生じる可能性があるからです。ただし、半二重でも、フレームに対する競合の割合が一定の値を超えなければ、問題は生じないかもしれません。一方、全二重であれば競合を完全に回避することができます1)。
- 風力発電所や、石油/天然ガスの精製所など、産業用イーサネットは工場以外の一般的な施設にも敷設されます。その場合にも言えることですが、工場の製造フロアは、厳しい環境条件や動作条件にさらされることが少なくありません。そのため、オペレータは、振動や、粒子状の物質、過度な温度などに気を配る必要があります。オートメーション・システムや制御システムに産業用イーサネットのケーブルやコネクタを使用することによって、そうした条件にも対応しやすくなります。
- 産業用イーサネットは、多様なトポロジやプロトコルに対応します。例えば、何らかのプラントにおいて、商用イーサネットでは主流のスター型トポロジの代わりに、リング型トポロジを採用したとします。そうすると、問題が生じたときに素早く復旧できるように、冗長構成を採用することが可能になります。また、EtherNet/IP®やEtherCAT®などのプロトコルは、広範な用途やシステム設計に対応します。
- 本シリーズでは、産業用イーサネットが製造分野にもたらすメリットについて解説します。最初に解説するのは、プラントのオートメーション・システムに適用される技術としてイーサネットが有用な選択肢になった理由についてです。また、現在は、IoT(Internet of Things)の活用に向かって工場も進化している状況にあります。その中で、イーサネットとWi-Fiがどのような役割を担うのかということも検討します。さらに、EtherNet/IPなどを軸としてプラント全体にネットワークを実装する方法について解説します。
オートメーション分野におけるイーサネットの過去と未来―標準化と性能が大きな鍵に
イーサネットの開発が始まったのは数十年も前のことです。この技術は、メーカーが製品のエコシステムを迅速に進化させるための強力な基盤になりました。イーサネットは、その性能が向上するに従い、速度と成熟度を兼ね備えるようになりました。現在では、シリアル・インターフェース向けに開発されたプロトコルの代替技術として、ますます有用な選択肢になっています。
例として、イーサネット・ベースのオートメーション・システムを支えるコントローラやスイッチの進歩について考えてみましょう。今日のIC製品は、確定的な処理に対応するためにリアルタイムOSに対応するようになっているものが少なくありません。一方で、そのI/Oコントローラは、EtherNet/IPからModbusTCP2)に至るまで、産業オートメーション用の任意のプロトコルに対応できるように構成されていることがあります。
そうした製品は、現代の製造プラントにおいて産業用イーサネットが果たし得る役割を表していると言えます。つまり、産業用イーサネットを採用することで、サイクル応答時間を最適化しつつ、望ましくないネットワークの遮断を防ぐことが可能になるということです。また、オートメーション向けのイーサネット・ソリューションによって課題を解決しようとする際には、イーサネットに関連するベンダーや標準化団体の継続的なサポートを受けられることもメリットの1つです。
ARC Advisory Groupのバイス・プレジデントを務めるChantalPolsonetti氏は、2013年に「Automation World」に掲載された記事の中で「イーサネット技術とワイヤレス技術の多くは、オートメーション向けの専用ネットワーク技術を超える帯域幅を提供します。また、それらの技術は、標準化団体や大規模なサプライヤによる継続的な開発作業によって支えられています」3)と述べています。
そのうえで同氏は「特に、イーサネットは、正しい場所、正しい時間に、正しいデータを高い信頼性で届ける能力を備えています。メーカーは、ビジネス上の数多くの課題を解決しなければなりません。例えば、プロセスの能力、信頼性、効率の向上を図ったり、政府によって義務付けられる規制に準拠したりする必要に迫られているということです。そのための策として、ケーブルが不要なワイヤレス機器も広く採用されています」と説明しています。
イーサネットは特有の性能を備えていることから、IoTを活用したオートメーション・システムの基礎技術としても有用です。IoTの基盤には次のような概念があります。すなわち、履歴情報ではなく、リアルタイムに取得したデータやアクティビティに関する情報を基に意思決定が行えるというものです。このことが理由となってIoTは大きな注目を集めています。Polsonetti氏が著作物の中で指摘していることですが、機械やデバイスのレベルの制約を克服し、システムのレベルで改善を図ることができます。
本シリーズのPART 2以降では、EtherNet/IPやPROFINET®などの産業用イーサネット・プロトコルについて解説します。基本的な特徴を紹介するのではなく、工場において、特にプラント規模のオートメーションを対象とした実装方法について説明することにします。加えて、技術者の観点、またITの観点から、コンバージド・ネットワークの構築方法についても説明します。
【参考資料】
1)「How to Avoid Collision in Ethernet Port(イーサネットのポートにおける競合を回避する方法)」Cisco Support Community、2008年7月
2)「Industrial Networking ICs(産業分野向けのネットワーク用IC)」Innovasic
3)Chantal Polsonetti「Ethernet and Wireless Enable ManufacturingInternet of Things(イーサネットとワイヤレス技術により、製造向けのIoTを実現)」Automation World、2013年7月
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アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年7月18日