SiCパワーMOSFETのスイッチング特性、大電流/高電圧領域の測定で解析精度が向上:SiC採用のための電源回路シミュレーション(2)(4/4 ページ)
SiCパワーMOSFETのデバイスモデルの精度向上には、「大電流/高電圧領域のId-Vd特性」および「オン抵抗の温度依存性」を考慮しデバイスモデルに反映させることも重要となる。今回はこの2点に関する解説を行う。
オン抵抗の温度依存性の考慮も必須
このようにSiCパワーMOSFETのデバイスモデルの精度はすでに、十分に実用レベルに達したと断言できるだろう。
しかし、1つだけ注意すべき点がある。それは本稿の冒頭で述べたように、SiCは材料の基本性能が優れており、耐熱性が極めて高いため、高温環境で使われる可能性が高いことだ。電源回路設計者の中には、「SiCパワーMOSFETにとっては、100℃ぐらいが常温である」と指摘する人もいるくらいだ。従って、SiCパワーMOSFETのデバイスモデルでは、温度依存性を考慮することが必須である。
キーサイトでは、すでにSiCパワーMOSFETの各種特性の温度依存性を実際に測定して、そのデバイスモデルに反映させている。具体例を1つ挙げよう。それは、ドレイン-ソース間のオン抵抗(Rds(on))である。オン抵抗は、SiCパワーMOSFETがオンのときに発生する電力損失、すなわち導通損失の大きさを決める極めて重要な特性だ。一般に、オン抵抗は、周囲温度が上昇するほど高くなる。つまり、温度上昇に伴って導通損失は増え、その結果として発熱量が増大する。そのため電源回路設計時に、オン抵抗による導通損失や発熱量を正確に見積もっておく必要がある。
キーサイトでは、実際にSiCパワーMOSFETのオン抵抗を測定して、デバイスモデルのパラメータを最適化した。そうして作成したデバイスモデルを使ってオン抵抗の温度依存性をシミュレーションしたところ、測定結果と高い精度で一致した(図7)。つまり、SiCパワーMOSFETを採用した電源回路が実際に使用される環境を想定したシミュレーションが実行できるわけだ。
図7:オン抵抗の温度依存性の測定結果とシミュレーション結果
SiCパワーMOSFETのオン抵抗を実際に測定して、デバイスモデルのパラメータを最適化。そうして作成したデバイスモデルを使って、オン抵抗の温度依存性をシミュレーションしたところ、測定結果と高い精度で一致した。[クリックで拡大] 出所:キーサイト・テクノロジー
本稿では、SiCパワーMOSFETのデバイスモデルの精度を高める2つの取り組みを解説した。1つは、大電流/高電圧領域のId-Vd特性を測定し、それをデバイスモデルに反映させるという取り組み。もう1つは、オン抵抗の温度依存性をデバイスモデルに取り込むという取り組みである。いずれもSiCパワーMOSFETのデバイスモデルを高精度化する上で欠かせない取り組みであり、間接的ではあるがSiCパワーMOSFETの普及を後押しすることになるだろう。
【著】
・谷川博章(キーサイト・テクノロジー株式会社PathWave ソフトウエア ソリューション事業部Customer Success Acceleration Foundry Solution)
・橋本憲良(キーサイト・テクノロジー株式会社グローバルソフトウェア&サービス営業本部EDAアプリケーションエンジニアリング部)
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