半導体(8)―― MOSFETのアバランシェ耐量の使い方(I):中堅技術者に贈る電子部品“徹底”活用講座(67)(3/3 ページ)
今回からはMOSFETの構造に起因するアバランシェ耐量と呼ばれるサージ耐量を使う上での注意点について説明します。この特性を使うには半導体メーカーでの作り込みと正しい検査、そしてユーザーの正しい使い方、の3点が全て満たされることが必要です。この耐量を上手く使いこなすことができれば効率を上げ(損失低減)ながら信頼性を確保できます。
ゲート配線デザインの対応
アバランシェ耐量を保証する基本セルはこのようにデザインされるのですが残る課題としてはチップ全体として全てのセルが同一タイミングでブレークする必要があります。
MOSFETは多数のセルを接続するためにチップには図4に示すようにポリシリコン(多結晶シリコン)によるゲート配線が施されていますがこのポリシリコンの抵抗とセルの入力容量(Ciss)とによって時定数が形成されます。
図5(a)のアバランシェ耐量を保証しない従来品のゲートパターンは整然としていますがこのパターンではゲートボンディングパッド近くのセルと遠く離れたセルではポリシコンの抵抗値が大きく異なり時定数に差が生まれます。
このようにしてR成分が小さく高速応答が可能なパッド近くのセルと、抵抗が大きく遅れて動作するパッドから遠く離れたセルではブレークするタイミングがそろわなくなります。
結局、最初にブレークするパッド近傍のセルにのみブレーク電流が集中してアバランシェ耐量を保証することができません。
図5(b)のアバランシェ対応品のゲート配線のパターンはこのような現象を防止するためにパッドから離れたセルへの配線インピーダンスを考慮してデザインされています。またどうしても遠方のセルは抵抗が増大してしまうのでゲート配線の1ライン当たりの駆動セル数を減らして時定数(CR積)を一定に保つようにゲート配線はデザインされています。このようにできる限り全セルが同時にブレークするようにすることでアバランシェ耐量を保証するようになっています。
実際に評価試験で破壊させたMOSFETを開封してアバランシェの破壊痕を確認すると図5(a)の従来品のデザインではパッド近傍から破壊がスタートすることが確認できます。
一方の図5(b)のアバランシェ対応品ではゲート配線の対応が進むにつれて破壊のスタート痕はチップ全体にランダムに分布していきます。
今回は冒頭で説明したアバランシェ耐量を使いこなす3つの必須条件の中の1つである「半導体メーカーでの作り込み」について説明しました。
残る2つの条件「半導体メーカーでの正しい検査」、「ユーザーの正しい使い方」については次回説明したいと思います。
執筆者プロフィール
加藤 博二(かとう ひろじ)
1951年生まれ。1972年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し、電子部品の市場品質担当を経た後、電源装置の開発・設計業務を担当。1979年からSPICEを独力で習得し、後日その経験を生かして、SPICE、有限要素法、熱流体解析ツールなどの数値解析ツールを活用した電源装置の設計手法の開発・導入に従事した。現在は、CAEコンサルタントSifoenのプロジェクト代表として、NPO法人「CAE懇話会」の解析塾のSPICEコースを担当するとともに、Webサイト「Sifoen」において、在職中の経験を基に、電子部品の構造とその使用方法、SPICE用モデルのモデリング手法、電源装置の設計手法、熱設計入門、有限要素法のキーポイントなどを、“分かって設計する”シリーズとして公開している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 半導体(7) ―― MOSFETのゲート駆動回路の注意点(2)
今回はパワーMOSFETの構造とそれに起因する寄生容量について説明するとともに、引き続きゲート駆動回路を中心にした使い方の注意事項を説明します。前回の記事と併せて読んでいただければ理解も深まると思います。 - 半導体(1) ―― 半導体の製造工程
今回からは電子回路に欠かせない半導体について説明します。本シリーズでは半導体の市場不良および、その原因を説明するための製造工程の問題を主眼に説明をしていきます。 - 共振子(1) ―― 水晶デバイスとは
今回からはマイコンや各種発振器、フィルターに使われる共振子について説明していきます。これらの共振子は回路的には完成度が高く、指定された使い方を間違えなければ正しく動作します。発振器として市販されている部品もありますので適材適所で使い分けることが肝心になります。 - 電気二重層キャパシター(1) ―― 概要と原理
今回からはキャパシターの一種である電気二重層キャパシター(EDLC)について説明していきます。EDLCは、耐圧は低い(数ボルト以下)のですがその容量はファラド(F)単位になり、大容量と言われるアルミ電解コンデンサーの数百倍から数千倍のエネルギー密度になります。 - サーミスタ(1) ―― NTCサーミスタとPTCサーミスタ
今回から「サーミスタ」を取り上げます。サーミスタの分類について簡単に説明するとともに、サーミスタを使用した回路動作の概要について解説していきます。第1回は、NTCサーミスタとPTCサーミスタの違いとともに、NTCサーミスタによる突入電流制限回路について考察します。 - フェライト(1) ―― 磁性
“電子部品をより正しく使いこなす”をテーマに、これからさまざまな電子部品を取り上げ、電子部品の“より詳しいところ”を紹介していきます。まずは「フェライト」について解説していきます。