電源の損失解析が大幅進化! 「純国産」の高速回路シミュレーター:GaN/SiCに対応した最新バージョンが登場
電源/パワーエレクトロニクス分野では、GaN/SiCパワーデバイスの採用が進んでいる。そこで課題になっているのが、回路設計時のシミュレーションだ。スマートエナジー研究所が手掛ける高速回路シミュレーターは損失解析の機能などを拡充し、GaN/SiCパワーデバイスを用いた高効率電源の回路設計を支援する。
次世代パワーデバイスの登場で、回路シミュレーションには新たな課題が
電気自動車(EV)や再生可能エネルギーといった分野の進展により、電源/パワーエレクトロニクス市場は堅調な成長が見込まれている。Fortune Business Insightsが2023年5月に発行したレポートによると、パワーエレクトロニクスの世界市場は2023年から2030年まで年平均成長率13.8%で増加すると予測されている。
一方で、電源設計の難易度は一段と高まる。エンジニアは回路設計や基板設計、ノイズ対策、熱設計など複合領域の技術を理解し、これらの課題を解決しなければならない。多くの回路方式の原理を理解し、用途に最適な方式を選択する必要もある。
電源の仕様が固まると、エンジニアは回路設計や試作、実機テスト/評価を行う。実際の開発では、要求仕様を満足させる結果が得られるまでこれらの工程を5回以上も繰り返すことがある。従来の開発プロセスだと、不具合の原因解明にこれまで以上に時間を要し、開発期間が長期化することも多い。
こうした課題を解決する方法の一つが、上流設計の段階でシステムの不具合を取り除ける「モデルベース開発(MBD)」だ。制御部や回路部のモデルを用意し、これらのモデルを用いて開発を始める。開発の工程ごとにモデルで動作検証を行い、問題がなければ実機に置き換える。最終的に、実回路とモデルから自動生成されたソフトウェアを統合する。これによって、開発途中で不具合が生じたとしても手戻りを大幅に減らせる。
ここでカギを握るのが回路シミュレーターの性能だ。電源開発では、小型で高効率の製品を実現するためにGaN/SiCパワーデバイスの採用が本格化してきた。だが、GaNやSiCの半導体特性はSiとは大きく異なる。そのため、シミュレーターでは「スイッチングが急峻(きゅうしゅん)になり従来の回路シミュレーターでは結果が収束せず、複雑な回路を解析できない」「小さな寄生容量が高速スイッチングに及ぼす影響を確認したい」「スイッチング周波数が数メガヘルツに高周波化し、解析に要する時間が従来の10〜100倍に増えた」といった課題が出てきた。
25年以上の歴史を持つ純国産の高速回路シミュレーター
こうした電源回路設計者の悩みを解決する、電源/パワーエレクトロニクス向けの高速回路シミュレーターがある。スマートエナジー研究所の「Scideam(サイディーム)」だ。
Scideamは、25年以上の歴史を持つ純国産の高速回路シミュレーターだ。崇城大学 名誉教授でスマートエナジー研究所の技術顧問を務める中原正俊氏が、1994年にスイッチング電源高速回路シミュレーター「SCAT」として開発した。2009年には、Simulinkとの接続などを可能にした後継製品「SCALE」を発表。2019年にはGUIを強化するなどして「Scideam」に進化させた。2022年には損失解析オプションを追加し、高速で安定したシミュレーション環境を実現した。
Scideamはアナログ回路設計を行うための基本パッケージで、回路エディタや波形ビューワーが含まれている。また、C言語に似た独自スクリプトで回路図のパラメーターを変更できる「Digital Palette」、SimulinkとScideamを接続する「SL Palette」、損失解析を行う「Power Palette」というオプション製品が用意されている。
Scideamの特徴は、大きく分けて3つある。まず、独自の解析アルゴリズムによって「解析時間」と「収束性」という課題を解決し、スイッチングコンバーターを高速かつ安定して解析できる。2つ目は、全自動で高速に損失解析とスイッチング損失の計測が可能なことだ。3つ目はMBDができること。MATLAB/Simulinkと接続して連成解析することで、両ツールの特徴を最大限に生かせる。
名古屋大学未来材料・システム研究所の研究員である米澤遊氏は、「MATLAB/Simulinkとの連成解析において、他社製品モデルを組み合わせると解析に1時間程度はかかる。Scideamモデルと組み合わせたら解析は数秒で終了した」と語る。米澤氏の研究グループは、ボードとモデルをセットにした「MBD普及用キット」なども開発中だ。Scideamユーザーであるニチコンの事例発表では、「MBD導入によって開発工数が半減した」という。
開発者の中原氏はScideamを用いたMBDの効果についても言及している。従来の開発プロセスだと、試作を5回以上繰り返すのが一般的だった。MBDを導入すれば試作を2回に削減できるという。3年かかっていた開発期間を1年程度に短縮できる計算だ。これ以外にも「ノウハウの蓄積」や「設計資源の利活用」といったメリットを挙げた。
スイッチング損失のシミュレーションを自動かつ高速に実行
Scideamの特徴的な機能の一つが、損失解析オプションのPower Paletteだ。Scideamはもともと、理想スイッチモデルだけの回路シミュレーターだった。その後、スイッチングのターンオン/ターンオフの非線形な過渡状態を表現する独自の詳細スイッチモデルを採用。さらに、スイッチを理想モデルと詳細モデルとで自動的に切り替えながら詳細なスイッチング損失の高速解析を可能にした。加えて、回路を構成する全ての素子についてターンオフ損、ターンオン損、導通損を計算し、これらの結果をリストアップしてグラフ化できる。シミュレーションに必要な設定などは全て自動化されていて、ワンクリックで結果が表示される。
詳細スイッチモデルのライブラリは、Infineon Technologies製とローム製のSi/SiCパワーデバイスを中心に1383種類に上る。サポートするメーカーやパワーデバイスの品種は今後も拡張を継続する。
GaN/SiCスイッチモデルが登場
そして2023年11月28日、GaN/SiCスイッチモデルを追加したPower Paletteの最新バージョンが登場した。
冒頭で説明したように、GaNやSiCは半導体特性がSiとは異なるため、回路シミュレーションには新たな課題が出ていた。今回追加したGaN/SiCスイッチモデルは、これらの課題を解決するために追加されたものだ。
GaNパワーデバイスを例に説明しよう。GaNパワーデバイスは、高速にスイッチングするので帯状の振動が発生する。この影響を抑えるために特殊なケルビンソース端子が設けられた素子もある。Scideamが新たに提供するGaNスイッチモデルは、ケルビンソース端子をサポートしている。このスイッチモデルを用いることで、ケルビンソース端子の有無による影響を高速に確認できる。
シミュレーションの速さと精度を両立
米澤氏は、解析事例としてEVのオンボードチャージャーなどに搭載されるTotem-Pole(トーテムポール)PFC(力率改善)回路を設計したときの、Scideamによるシミュレーションを紹介した。PFC回路の一つであるTotem-Poleは、他のブリッジレス方式よりもコモンモードノイズが少ないなどの特徴があり、高い効率を得られる。ただ、スイッチのリカバリーロスが問題になるためGaN/SiCパワーデバイスの採用が検討されている。
米澤氏は、SiスイッチとSiCスイッチについて、どちらがTotem-Pole PFCに適しているかを解析した。Scideamを用いたシミュレーションの結果、SiCスイッチを用いた効率は97.55%、Siスイッチは96.76%となった。Siスイッチの場合、逆回復電流が大きく流れることでスイッチング損が発生して効率が低下した。大きなノイズも発生していることが分かった。
一般的に、このようなスパイク状の電流が流れるとSPICEを用いたシミュレーションでは収束せずに計算が止まってしまい、波形を見られないことが多い。しかもPFCは50Hzの頂点部分のスイッチングを確認しなければいけないため、なおさらだ。これに対し、Scideamはスイッチング解析に特化した独自のアルゴリズムによって計算する。これによって回路シミュレーションの速さと精度、安定性を実現させた。
フルパッケージで30日間、お試し可能
Scideamは、製品版を30日間フルパッケージで試用が可能だ。
「GaNやSiCデバイスを活用して効率の高い電源を短時間で開発したいが、現行の回路シミュレーターでは収束性や解析時間に問題がある」「最新の電源設計に適した回路シミュレーターを導入したい」「MBD環境を構築したい」――。こうした悩みを持つ設計者は、純国産の高速回路シミュレーションの実力を試してみてはいかがだろうか。
※本記事は、2023年10月5日に開催された、「Scideamセミナー2023 SiC/GaNを使った回路設計の為の損失解析セミナー」(穂高電子主催)の発表内容を基にした。
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提供:株式会社スマートエナジー研究所
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年12月6日