第1回では「アナログ信号とデジタル信号の定義」、「オームの法則」、「キルヒホッフの法則」をご説明しました。第2回(今回)は電流と磁界の関係をご説明します。
電流があると、磁界が必ず存在する
まず覚えて欲しいのは、「電流があると、磁界も必ず存在する」ということです。電流は電線やプリント基板(銅箔パターン)を流れているのが普通なので、電線や銅箔パターンを見て「ここを電流が流れているんだ」と想像することは難しくありません。
これに対して磁界(または磁場とも言います)は存在していることを普段、人々はあまり意識していません。例えばキーボードとパソコン本体を結ぶケーブルがあるとします。このケーブルを電流が流れているから、キーボードをたたくとパソコンのモニターに文字が表示される、という事実は比較的分かりやすいです。しかし、ケーブルの周囲には磁界が発生しており、磁石の周囲のような状態になっているとは、あまり意識しないでしょう。
ケーブルに一定(時間が経過しても変化しない)の電流が流れているときには、ケーブルの周囲には一定の大きさの磁界が存在します。磁界はケーブルのすぐ近くでは大きく、ケーブルから離れるにつれて小さくなります。ケーブルの周囲に(空気以外は)何も存在しないとすると、磁界はケーブルの周囲を円を描くように存在しており、その向きは電流の進行方向を中心とした場合に右回りです(図4)。この電流と磁界の関係は「右ネジの法則」あるいは「右手の法則」と呼ばれます。右ネジの進行方向または右手親指の方向を電流方向としたときに、右ネジを回す方向またはほかの指の向きが磁界の向きになるからです。
ここで磁界の大きさをH、電流をi、ケーブルの中心からの距離をr、円周率をπとすると、
H=i/(2πr)
の関係があります。この式は「アンペールの法則」と呼ばれています。
磁界があると電流は必ず存在する?
電流があると磁界も存在することは分かりました。その逆である「磁界があると必ず電流が存在する」という表現は正しいのでしょうか。これは少し複雑で、原理的には間違っているのですが、現実には正しいと言えます。
まず1個の永久磁石が存在していると考えましょう。永久磁石によって発生する磁界は時間的に一定であり、変化しません。このとき、永久磁石の付近にケーブルがあるとします。ケーブルに電流は流れるのでしょうか。流れないのでしょうか。
永久磁石とケーブルの位置関係がまったく変わらないときは、電流は流れません。ですから、「磁界があると必ず電流が存在する」という表現は誤りであることが分かります。
ただし「永久磁石の付近にケーブルが存在し、永久磁石とケーブルの位置関係がまったく変わらない」という仮定は現実には有りえません。遠くから持ってきたケーブルが永久磁石に近づいて、あるところに置かれた、といった状況が現実的です。
するとケーブルを永久磁石に近づけているときに、「ケーブルが永久磁石から受ける磁界がだんだんと大きくなる」ことが分かります。ケーブルにとって磁界が一定ではなく、変化している。この違いは極めて重要です。なぜならば、磁界が変化すれば、必ず電流が発生するからです。磁界の変化(時間当たりの変化)が大きければ大きいほど、高い電流が発生します。
ですから現実には磁界が存在し、導体(ケーブルのような電流が簡単に流れる物体)が存在すれば、導体を磁界中で動かすことで導体には電流が流れることになります。この現象を「電磁誘導」、流れる電流を「誘導電流」と呼びます。
電流が流れないのに磁界が存在する?
永久磁石のような磁気を帯びた材料や、電流が流れている電線のような電気回路などを除くと、磁界が単独で存在することはまずありません(例えば、磁気カードは磁気を帯びた粉末状の永久磁石をカードに塗ってあります)。
ところが電気回路では、電流が流れないのに磁界が存在する部分があります。それはコンデンサです。
コンデンサは、電気を通さない材料である誘電体の薄い板を、2枚の導体(電極)で挟んだ構造をしています。当然のことですが、誘電体には電流が流れません。にも関らず、電流が流れている電気回路の途中にコンデンサが存在していると、コンデンサ付近でも磁界が発生しています。
たとえば電池とコンデンサ、スイッチでできた閉回路(ループを形成した回路)を考えます(図5)。初めはスイッチは開放(オフ)状態で、コンデンサは充電されていません。したがって閉回路には電流は流れず、磁界も発生していません。
ここでスイッチを短絡(オン)状態にすると、電流が流れ、コンデンサの充電が始まります。コンデンサを含めて閉回路には磁界が発生します。コンデンサの充電電圧が電池の出力電圧と同じになると充電がとまり、電流が閉回路を流れなくなります。すると磁界もなくなります。
このときコンデンサの内部では何が起こっているのでしょうか。絶縁体内部の電荷が移動して二つの電極付近に偏っていくのです。プラスの電荷はマイナスの電極に、マイナスの電荷はプラスの電極に引き寄せられます。この現象は「誘電分極」と呼ばれています。この電荷の移動中に磁界が発生しています。
また交流電源とコンデンサ、スイッチでできた閉回路を考えます(図6)。初めはスイッチは開放(オフ)状態で、コンデンサは充電されていません。ここでスイッチを短絡(オン)状態にすると、コンデンサと交流電源の間で交流電流が流れます。閉回路には交流磁界が現れます。コンデンサ付近にも交流磁界が発生しています。
このときの電荷の動きはとても活発です。交流電源の電圧の向きが変わるたびに、電荷は反対側の電極へと移動します。電荷は動き続け、電荷の向きによって異なる方向の磁界が発生します。
こういった電荷の動きによって磁界が発生していることから、電荷の動きを電流と見なすことができます。この電流を「変位電流」と呼びます。変位電流に対応する用語として、ケーブルやプリント基板(銅箔パターン)などの導体を流れる電流を「真電流」と呼ぶことがあります。ここで示した閉回路では、真電流と変位電流の両方によって電流が閉じたループを構成していると言えます。
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アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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