前回(第13回)は、「デジタル・アシスト・アナログ(DAA:Digitally Assisted Analog)技術」の考え方と、期待される利点をご説明しました。今回は、デジタル・アシスト・アナログ技術(DAA技術)の課題や問題点などについてご説明します。
DAA技術による補正の仕組みを図1に示します。モニター回路の出力をデジタル制御の補正アルゴリズムに投入することにより、アナログ回路を補正するというフィードバック回路を構成しています。モニター回路は2種類あります。一つは、補正対象であるアナログ回路の性能をモニターする回路(性能モニター回路)、もう一つは、電源電圧や温度、雑音などの変動をモニターする回路(環境モニター回路)です。
DAA回路は誰が設計するのか
ここで問題となるのが、モニター回路とデジタル制御回路の設計を誰が担うのか、です。デジタル制御回路だからといってデジタル・エンジニアが担当するわけではありません。デジタル・エンジニアでは手に負えない部分があります。それはまず、性能モニター回路で何をモニターするかを決めることです。これには補正対象であるアナログ回路の知識と経験が欠かせません。さらに、デジタル制御回路でアナログ回路のどの部分をどのように補正するかの設計にも、アナログ回路の知識と経験が必要になります。
したがってDAA技術の導入によって追加するデジタル回路は、アナログ・エンジニアが設計せざるを得ません。言い換えると、アナログ・エンジニアにはデジタル信号処理やデジタル制御理論に関する知識が求められることになります。
デジタル・エンジニアがDAA技術による補正を手掛けづらい理由は、ほかにもあります。それは「動機がない」ということです。内部にデジタル回路が入っているとはいえ、DAA技術を組み込んだ回路は外からはアナログ回路だったり、アナログ半導体製品だったりします。デジタル・エンジニアの業務はデジタル半導体製品の設計ですから、アナログ半導体は業務の対象外です。
シリコン面積と設計期間の増加
それから忘れてはならないのが、モニター回路とデジタル制御回路の追加によって、シリコン面積、すなわち製造コストが増大することです。モニター項目を増やしたり、モニターする物理量の分解能を高めたり、デジタル制御の分解能を高めたりすると、回路の規模が拡大され、シリコン面積がどんどん増えていきます。
そしてDAA技術の導入によって回路の設計期間が伸びるという問題があります。現実には設計期間の延長は許容しづらいので、何らかの工夫によって全体の設計期間が伸びないようにしなければなりません。ここは大きな課題です。
このほか、消費電力が増加するという問題もあります。いずれにしても、より複雑な補正アルゴリズムを組めば、より多くの特性を補正可能になりますが、トレード・オフがあるということです。少ない回路規模の追加でデジタル補正を実現する、最適化が求められます。
提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.