半導体の基礎知識(4)――IoTを定義しよう:津田建二の技術解説コラム【入門編】
IoT(Internet of Things)とは何か。きちんとした定義がなわれていないようにも思えます。今回は、IntelやIBM、MEMSICなど、米国を中心にした企業への取材を基に、IoTを定義してみます。
前回、IoT(Internet of Things)にかかわるマイコンとアナログの話をしました。しかし残念ながら、IoTとは何か、きちんと定義していなかったように思います。今回は、IntelやIBM、MEMSICなど、米国を中心にした取材を基に、IoTを定義してみます。
IoTのことを、ある人はInternet of Everything(IoE)と言ったり、別の人はSmart Everythingと言ったりもします。ただ、多くの人が使っている言葉はやはりIoTでしょう。IoTという概念には、ウェアラブル端末やPAN/BAN(Personal Area Network / Body Area Network)、ワイヤレスセンサーネットワーク(WSN)、M2M(machine to machine)、さらにはゼネラルエレクトリック(GE)が提唱するインダストリアルインターネット(Industrial Internet)、数年前IBMが提唱していたスマータープラネット(Smarter Planet)なども含むと考えられています。これらを図1にまとめます。
これからインターネットにつながるのは……
図1の上にある、端末として最も小さなモノがウェアラブルやヘルスケア用のPAN/BANです。そしてシステムとして大きくなるにつれ、WSNやM2M、インダストリアルインターネット、スマータープラネットになっていきます。そもそもインターネットにつながる全てのモノを探すと、図1のようになり、端末はセンサーと呼ばれます。
現在、インターネットにつながるモノには、スマートフォンやタブレット、PC、サーバなどコンピュータが主体となっています。市場調査会社などがIoTにつながるデバイスを2020年までに500億台とも240億台とも言っておりますが、2013年におけるIoTとはコンピュータのことを指しています。今後、大量に増えてくるのが、ウェアラブル端末やワイヤレスセンサーネットワークなどが想定されています。
PAN/BANは、スマホをハブとしてウェアラブル端末、あるいはヘルスケア端末とともに使われるようなシーンが想定されます。図2はスマホをハブとして、さまざまなウェアラブル端末とBluetooth Smartを通じて、つなげたシーンです。アスリートが履くシューズにマイコンやセンサー、送信機を組み込み、測定したデータをスマホに送ります。また、ヘルスケアのシーンでは在宅で血圧や体温、心拍数などを24時間測定し、測定データをBluetooth Smartでスマホに送り、スマホからインターネットのクラウドに送信するものです。Intelが主導して進めているContinuaというヘルスケアアライアンスでは、Bluetoothが接続の規格となっています。お医者さんはクラウドコンピュータから患者のデータをいつでも見ることができます。
図2の中には、変わった例として、歯ブラシの中に圧力センサーを入れておき、正しく歯が磨かれると圧力でそれを検出しBluetoothでスマホに送るというシーンがあります。これは子どもの歯ブラシにIoTを埋め込み、親のスマホでそれを確認するというシーンです。この場合は歯ブラシがIoTになります。
ワイヤレスセンサーネットワークは前回(半導体の基礎知識(3)――IoTに見るマイコンとアナログの周辺)を参照してください。
ゲートウェイを介さず
M2Mは、センサーとセルラー通信モジュールを内蔵したもので、ゲートウェイを介さずともインターネットに直接つながります。自動販売機や電力メーター、ブルドーザーや建設機械などのトラッキング、デジタルサイネージ(図3)、電気自動車など、さまざまなところに既に使われています。この通信モジュールは、携帯電話のデータ通信と同じ機能を果たします。
例えば自動販売機ではビールやジュースの本数をセンサーが数え、そのデータを通信モジュールでインターネットを介して本部に伝えます。本部からは少なくなったことを確認してから補充すれば定期的に補充のために巡回する必要がありません。電力メーカーでは、毎月の電力使用量のデータをM2Mからインターネットを通して、自動的に電力会社に送ります。建設機械は建設現場に放置されることが多いため、盗難防止や作業の稼働状況を本部から把握できます。
インダストリアルインターネットやスマータープラネットは、IoTを巨大なシステムに応用する概念です。インダストリアルインターネットは、GEが提案した概念です(図4)。同社が製造する巨大な電力用タービンやジェットエンジンなどにIoT端末のセンサーを設置しておき、ワイヤレスセンサーネットワークのようにデータを常にとります。そしてもし異常を検知したらすぐに部品を取り換えます。このことによってタービンやジェットエンジンの実質的なダウンタイムをゼロにします。
このコンセプトは、ビジネスモデルを変える可能性があります。巨大なシステムを常時監視していることでシステムの動作寿命を極めて長くできますので、タービンなら発電時間や発電量、ジェットエンジンなら飛行時間や飛行距離に応じて、料金をいただくという従量制の料金体系を構築することができます。これまでメーカーはモノを作って販売するというビジネスモデルしかなかったのですが、インダストリアルインターネットはサービス業と同じ従量制を導入できるようになるのです。
スマータープラネットは、発電所から送電網や変電所を通じて家庭や企業に電力を供給するシステムや、貯水池から家庭・企業に水を届ける水道システムなどのような巨大なシステムを対象とします。巨大なシステムにIoTのセンサーを設けて、センサーからのデータを、インターネットを通してセンターのコンピュータに送信します。これによってシステム全体を効率よく運用しようとする概念です。
そしてビッグデータへ
これまで述べてきたIoTの概念は、インターネットを通じてクラウドにデータを送ります。データは時間とともにたくさん蓄積していきます。これがビッグデータです。ここには、ワイヤレスセンサーネットワークやM2Mなどのセンサーからのデータと、さらに別の天気予報や自治体の情報などのデータと連携します。実にさまざまなデータが集まったビッグデータを解析することで、消費者や企業の行動パターン、農業の収穫情報などとの関連が分かり、生産性の向上や仕事の効率を図ることができるようになります。
参考記事:
Profile
津田建二(つだ けんじ)
現在、フリー技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長。
30数年間、半導体産業をフォローしてきた経験を生かし、ブログや独自記事において半導体産業にさまざまな提言をしている。
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