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受動フィルタに比べ圧倒的に小型で低コスト、アクティブEMIフィルタを容易に設計できる専用ICがついに登場厳格なEMI要件の適合も容易に

自動車や産業機器などの電気システムでは、EMI(電磁干渉)対策が重要性を増している。Texas Instruments(TI)が開発したスタンドアロンのアクティブEMIフィルタICを使えば、設計や実装が難しかったアクティブEMIフィルタを容易に構成できる。従来の受動EMIフィルタよりも大幅な小型化も可能だ。

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小型化のニーズが高まるEMIフィルタ

 機器の誤動作や破損、劣化を引き起こすEMI(電磁干渉)対策は、自動車、エンタープライズ、航空宇宙、産業機器、HVAC(空調システム)など、さまざまなアプリケーションでますます重要になっている。これらのアプリケーションでは過酷な環境下で動作するシステムや人命に関わるシステムが多く、厳格なEMI基準が求められる。だが、電気システムが高速化、高密度化して部品間やシステム間の相互接続が進んでいることから、ノイズが別の部品やシステムに伝わりやすくなっている。近年はSiC/GaNなど高い周波数でスイッチングする電源ICを用いた電源システムも増え、EMI規格への適合はますます難しくなっている。これらの背景から、EMIの低減はエンジニアにとってシステム設計の重要な検討事項の一つになっている。

 EMI対策に使われる一般的な部品の一つがEMIフィルタだ。コイルやコンデンサーなどの受動部品で構成される受動EMIフィルタと、オペアンプなど能動部品で構成されるアクティブEMIフィルタがある。受動EMIフィルタに対して、アクティブEMIフィルタには大型で高価なコイルを使う必要がないなどのメリットがある。一方で、ディスクリート部品を組み合わせて構成する場合には部品点数が多くなり、設計と実装が難しい。そのため、現在は受動EMIフィルタが主流だ。

 だが、ここで課題となっているのがEMIフィルタの小型化ニーズが高まっていることだ。前述したように、最近の電源システムにはSiC/GaNデバイスをはじめ、スイッチング電源を小型化するための技術が多く採用されている。電源が小型化するにつれてEMIフィルタが基板上で占める面積が相対的に多くなり、EMIフィルタの小型化も求められているのだ。ただ、SiC/GaNデバイスのように数メガヘルツの高い周波数で動作するデバイスを使う電源システムなどでは、大きなノイズを抑制するために高インダクタンス値のチョークコイル、つまり大型のチョークコイルが必要になる。場合によってはフェライトビーズなどの受動部品を追加しなくてはならないこともある。そのため、システムのサイズとコストが増加してしまう。

 こうしたニーズに応えるべくTexas Instruments(TI)が開発したのが、スタンドアロンのアクティブEMIフィルタICだ。同ICを使うことで、従来の受動EMIフィルタよりも格段に小さいアクティブEMIフィルタを容易に設計、実装できる。

 TIは電源設計上の重要な課題の一つとして「低EMI」を挙げ、EMIを低減する技術やEMI規格の認証プロセスを簡素化する技術の開発に注力してきた。開発した新しいアクティブEMIフィルタICは、低EMIの他、電力密度の向上にも貢献する製品と位置付けられている。

TIが電源設計上の課題として挙げる5つの要素
TIが電源設計上の課題として挙げる5つの要素。新しいアクティブEMIフィルタICは、このうち「低EMI」と「電力密度」に貢献する 提供:日本テキサス・インスツルメンツ

アクティブEMIフィルタICで、チョークコイルのサイズが半減

 受動EMIフィルタは、インダクターとコンデンサーを用いてEMIの電流パスにインピーダンス不整合を生じさせることでEMIを削減する。それに対し、アクティブEMIフィルタは入力バスの電圧リップルを検知し、それをオペアンプで増幅させて同じ振幅の逆相電流を生成し、スイッチング段で発生するEMI電流を直接打ち消す。ちょうど雑音を逆位相の音で打ち消すノイズキャンセリングイヤフォンのような原理だ。

 TIは、アクティブEMIフィルタの回路を内蔵した降圧型DC/DCコントローラーを2021年に発表しているが、今回はアクティブEMIフィルタの機能を切り出してスタンドアロンのICとして製品化した。アクティブEMIフィルタ専用のスタンドアロンICは、TIにとって初めての製品ファミリーだ。

 TIが今回開発したアクティブEMIフィルタICは、センシング、フィルタリング、ゲイン、注入の各段を14ピンのSOT-23パッケージに集積したもの。その他、補償回路と保護回路も搭載されているのでシステムへの実装が容易で、必要な外部部品を最小限に抑えられる。スタンドアロンのICなのでフィルタコンポーネントの近くに配置できるなど、柔軟なレイアウトが可能だ。

 製品ラインアップとしては、産業用途向けの「TPSF12C1」(単相)と「TPSF12C3」(三相)、車載用途向けの「TPSF12C1-Q1」(単相)と「TPSF12C3-Q1」(三相)の4品種が用意されている。

 TIのアクティブEMIフィルタICは、単相および三相AC/DC電源システムにおいて100kHzから3MHzまでの周波数範囲にあるコモンモードEMIを検知し、最大30dB低減する。この性能により、コモンモードチョークコイルのサイズを従来の受動EMIフィルタよりも50%小型化できる。従来の受動EMIフィルタは12mHのコイルを2個使用するのに対し、アクティブEMIフィルタICを採用すると使用するコイルは1mHコイル1個と4mHコイル1個になる。ソリューションとしては、ボードの実装面積が従来比41%減少、重量は62%減少、体積は52%減少、コストは40%減少と、いずれにおいても大幅な低減が可能だ。アクティブEMIフィルタICを採用することで、電源システムの小型化と高密度化も実現する。

TIのアクティブEMIフィルタICを使用したアクティブEMIフィルタは、受動EMIフィルタに比べてコモンモードチョークコイルのサイズを50%小型化できる
TIのアクティブEMIフィルタICを使用したアクティブEMIフィルタは、受動EMIフィルタに比べてコモンモードチョークコイルのサイズを50%小型化できる 提供:日本テキサス・インスツルメンツ

 コモンモードチョークコイルが小型化するのでコイルの銅損は大幅に小さくなり、電力損失が低減して発熱が減る。つまり、放熱管理を改善できる。寄生成分も減少するので高周波の減衰特性が向上するという利点もある。これらは全て、システム全体の信頼性と堅牢(けんろう)性の向上につながる。

 追加の磁気素子が不要なので、障害条件が発生している間のピーク電流に影響を及ぼすことがない。

厳格なEMI規格への適合が容易に

 ターゲットとするアプリケーションは、電気自動車のOBC(オンボードチャージャ)、UPS(無停電電源装置)をはじめとするコモンモードノイズが支配的なシステムだ。こうした用途では厳格なEMI要件が求められるが、ノイズレベルが大きなシステムではトラブルシューティングが難しく、EMI規格への適合にはかなり時間がかかっていた。TIのアクティブEMIフィルタICを使うことで特に低周波EMIを低減でき、産業用途向けの「CISPR 11」や「CISPR 32」、車載用途向けの「CISPR 25」で規定されている厳しいEMI要件を満たすことが可能だ。EMI試験に要する時間を短縮できるので、開発期間の削減にも貢献する。IEC 61000-4-5のサージ耐性要件も満たしているので、TVSダイオードのような外部保護部品を追加する必要がない。

 TIが提供するシミュレーションツール「PSpice for TI」やアクティブEMIフィルタIC用のクイックスタート計算ツールを活用すれば、開発中のシステムに適した部品の選定と実装を容易に実現できる。

OBC(オンボードチャージャ)での導入例
OBC(オンボードチャージャ)での導入例 提供:日本テキサス・インスツルメンツ

 今回の4つの新製品はいずれも現在サンプル出荷中で、それぞれの評価基板も提供している。量産は2023年第2四半期に開始する。2023年後半には、4製品に続き他の品種も発表される予定だ。

 電気システムが高密度化し、システム環境に対する制約も多くなる中、機器やシステムの性能を最大限に引き出し、安全で信頼性の高い動作を実現するためにEMIフィルタの重要性はさらに増していくと予想される。TI初となるスタンドアロンのアクティブEMIフィルタICは、EMIフィルタの設計を大きく変え、エンジニアの負荷低減に貢献すると同時に受動EMIフィルタでは実現が難しかったフィルタリング性能やサイズを備えた、新しいEMIソリューションの開発につながるだろう。

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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年6月7日

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