第6回 スマートグリッドにおけるFPGAの役割(後編) 新しい「省エネルギー対応」住宅を実現する:FPGA Insights
各家庭がエネルギー消費に対する意識を高め、効果的に節電してもらうという目標を実現するのは難しい。これを実現するために、家電製品、家庭用制御機器、家庭内ディスプレイのメーカーに対し信頼性の高い「節電ソリューション」を迅速に提供するには、プラットフォームが必要である。モニタリングと制御の要求に応えるためには、各家電製品をHAN(Home Area Network)で接続する必要がある。このようなネットワークがあれば、電力会社はスマートメーターを介して、各家庭と直接通信し、エネルギーの使用量を遠隔制御したりモニタリングしたりすることができる。つまり、このシンプルな「省エネルギー対応」プラットフォームにより、すべての人々に対して環境に配慮したよりよい生活がもたらされることになる。前編ではプラットフォームを支える技術について紹介したが、後編ではプラットフォームを活用する利点などについて述べる。
Audrey Li-Brouwer
米Altera社 コンシューマビジネスユニット
テクニカルマーケティングマネージャ
Steve Nguyen
米Echelon社
コーポレートマーケティング担当ディレクター
スマートメーターで消費者の省エネルギー意識を高揚
世界中の電力会社が、スマートグリッドと高度なメーター測定インフラ(AMI:Advanced Metering Infrastructure)に投資している。それは、電力の提供および利用の効率、信頼性、安全性を改善するために双方向通信を利用するためのもので、スマートグリッドのバックボーンはAMIである。一般的には、住宅などに設置されたスマートメーターにより、遠隔から電力消費量を読み取ったり、停電を検出したり、電力の盗用を特定したりすることができる。さらに遠隔からサービスの接続および遮断を行い、希望する消費者に対しプリペイドの電力を提供する。
電力会社は、スマートメーターがあればグリッドからの電力需要をより適切に予測するためのデータにアクセスすることができる。電力需要が多い場合は、グリッドの利用率が高まるため、電力会社は家庭の電力消費を抑えるか、おそらくは環境に優しくない火力発電所を稼動することによって発電量を増やすしかない。
スマートメーターを導入した電力会社は通常、以下の2つの新しいプログラムを消費者に提供する。・使用時間(TOU:Time of Use)帯による価格体系プログラム:需要の ピーク時とオフピーク時の電力利用に対して異なる価格体系を設定し、ピーク時の電力利用を控え、オフピーク時に利用することを消費者に奨励する。これを導入するには、消費者がある程度の「エネルギー意識」を持つことが求められる。消費者は、1日の時間帯のうち、いつ価格が変わるかを知っておく必要がある。多くの電力会社は、消費者への通知手段として家庭内ディスプレイの導入に重点を置くが、機器内に直接その情報を提供することが、意識を高めるための最も実用的な方法である。・需要対応(DR:Demand Response)プログラム:エネルギー管理における主な要素は、需要と供給のバランスを維持することである。電力グリッドでは、電力消費量と発電量のバランスが著しく崩れたときに、グリッドが不安定になったり、電圧が過度に変動したりして、故障へとつながる恐れがある。DRプログラムにより、電力会社は電力不足を消費者に通知し、エネルギー使用量を低減するように求めることができる。その見返りとして消費者は、電力料金を安くしてもらうなどの経済的な便宜が受けられる。
DRプログラムは自動化が可能で、その場合に電力会社は消費者サイトのエアコンやプール用ポンプ、温水器など一部のエネルギーを消費する機器について、短い時間だが稼働率を落としたり停止したりする権利を持っている。電力会社からはスマートメーターへ信号が送信され、さらにHANに接続された家電製品へとその制御信号が送られる。
では、家電製品メーカーにとって、なぜスマートグリッドへの対応が重要なのだろうか。今後5〜7年の間に、世界中に1億台のスマートメーターが設置される計画で、エネルギー消費を管理するためのコスト効果の高いソリューションを求める家庭は大幅に増加することになろう。このことは、これからのエネルギー効率に優れた家電製品の開発にも大きく影響を及ぼすことになる。
また電力会社は、消費者に向けて経済的な優遇措置を提供しようとしている。現在、米国内で「Energy Star」準拠の機器を購入した消費者に対し、多くの電力会社が購入金額の一部を返金している。世界中で将来の「省エネルギー対応」製品に対しても同じことが実施されるのではないだろうか。
省エネルギー対応の家電製品向けプラットフォームの利点
省エネルギーに対応する家電製品向けプラットフォームは、各家庭、家電メーカー、電力会社に数多くの多種多様な利点をもたらす。
- 各家庭による制御が可能: 消費者は、電力会社からスマートメーターを介して電力の警告メッセージを受信し、そのエネルギーの状態に自分のスマート機器を対応させるか、どのように対応させるかを決める。一部の家電製品について電力需要がピークとなる時間帯には稼働しないようにプログラムしておけば、家庭全体のエネルギーコストを低減することができる。
- エネルギー消費量の把握:家庭では電力線ネットワークに接続されたすべての家電製品から、消費電力量と製品別の電力料金を把握することができる(図1)。これが分かれば各家庭では1日のうち、どの時間帯にどの機器を稼働させるか、といった判断を行なう場合においても、積極的な手法をとることができる。
図1.「省エネルギー対応」プラットフォームにより各家庭では、簡単に家庭内のエネルギー使用量を監視することができる。この情報に基づいて、使用していない電気機器の電源を切ったり、オフピーク時に機器を稼働したりすれば、全体的なエネルギー消費量を節減するための実用的な対策を講じることができる。
- 利便性の向上と無駄な時間の短縮:HANを介した通信により、サービス技術者による何度かの訪問を受けることができる。これにより、誤った部品や正しくないソフトウエアが機器に実装されていたとしても、各家庭では突然の故障などによる時間の無駄を少なくすることができる。信頼性の向上、ソフトウエアップデート、予防的なメンテナンスの組み合わせにより、消費者は安心して生活することができる。
「省エネルギー対応」プラットフォームに基づいた家電製品は、機器メーカーにも以下のような多くの利点がもたらされる。・収益と顧客ロイヤルティの向上:機器メーカーは、顧客に電話をかけさせることなく、追加サービスを提供することができる(スマート機器が電力線ネットワークを介して自動的に、サービス要求を機器メーカーに送信する)。
- 保証におけるマージンの改善 :遠隔からのソフトウエアップデート機能により、遠隔診断や修理、さらには消費者の使用パターンに合わせて機器の動作モードを改善することができる。
- サービスコストの削減:遠隔から新しいソフトウエアのアップグレードまたは誤動作診断が行える。
- 製品の拡張性による総開発コストの削減と市場投入までの期間の短縮:複数の最終製品が、同一のハードウエアプラットフォームを共有しつつ、ソフトウエア機能の追加または削除により、製品の差異化を図ることができる。
- 競合他社の動きに迅速に対応:FPGAの本質的な柔軟性とプログラム可能性により、機器を生産した後でもバグの修正や新機能の追加に対応して、最終段階での設計変更が可能である。
電力会社も、消費者のエネルギー使用量を遠隔から制御およびモニタリングしたり、停電や電力盗用を検出した場合に、電力警告メッセージを各家庭に直接通知したりすることにより、このソリューションによる利点を得ることができる。
信頼できる性能を実現しつつ、迅速な開発を可能とするプラットフォームを提供できる企業にとって、家電製品/ホームオートメーション/家庭内ディスプレイのメーカー向けの省エネルギーソリューションは、間違いなく市場における優位性をもたらすものとなる。このプラットフォームは、各家庭がHANに接続された、さまざまな家電製品をモニタリングおよび制御することにより、自宅のエネルギー消費に関する意識を高め、効果的な節電を支援するという、簡単な手法を提供する。また、電力会社が消費者のエネルギー使用を遠隔制御およびモニタリングし、各家庭と直接通信することを可能とする。この「エネルギーを意識した」手法により、すべての人々に環境に配慮したよりよい生活がもたらされることとなろう。
環境保護に向けた包括的なスマートグリッド
「環境に優しい」活動は、世界規模で環境的責任という文化を構築することを目的とした包括的な動きである。将来の環境を保護するために、永続的な真の変化をもたらすことを目標とする。
スマートグリッドは間違いなく「環境に優しい」動きであり、エネルギーを生成、送信、配信、測定するインフラの単なる一部分ではない。それは、電力ネットワークに接続されるすべてを含む。電力を消費するすべての機器が、スマートグリッドの一部であり、それには家庭内の家電製品も含まれる(ミニスマートグリッドであると考えてほしい)。
スマートグリッドの推進派は、「消費者はミニスマートグリッドにより、自宅内の『スマートな家電製品』や『インテリジェントな機器』をより適切に制御する(またはそれらに制御される)ことができる」と主張する。エネルギー管理システムを相互接続することにより、消費者はエネルギー使用量を「より適切に管理」し、エネルギーコストを低減することが「できる」というのだ。ピーク時間帯の需要を低減するために、電力に対する消費者の意識を刺激するには、「どれだけの電力を使用したか」というだけではなく、その電力をいつ消費したかを追跡するための通信および測定技術を採用し、需要の多い時間帯の電力料金を高く、需要の少ない時間帯の電力料金を低く設定する必要がある。インテリジェントに連携することで、需要と供給のバランスを保ち、ピーク時の使用量を減らすために、消費をピーク時間外へと移行させることが重要である。
企業の詳細については、以下を参照していただきたい。
日本アルテラ株式会社: japan@altera.com www.altera.co.jp
Altia Incorporated: info@altia.com www.altia.com
Echelon Corporation: lonworks@echelon.com www.echelon.com
公開中(2009年9月〜2010年3月掲載分)
第1回 デジタル信号処理にみる DSPとFPGAの正しい選び方 (前編)
第2回 デジタル信号処理にみるDSPとFPGAの正しい選び方(後編)
第3回 SimulinkモデルからHDLを生成 FPGAにDSP機能を実装する(前編)
第4回 SimulinkモデルからHDLを生成 FPGAにDSP機能を実装する(後編)
第5回 スマートグリッドにおけるFPGAの役割(前編) 新しい「省エネルギー対応」住宅を実現する
第6回 スマートグリッドにおけるFPGAの役割(後編) 新しい「省エネルギー対応」住宅を実現する
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◎基本を学ぶ「FPGA入門」
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アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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