同期整流(synchronous rectification)とは、スイッチング・レギュレータの変換効率を高める回路技術の一つ。従来のスイッチング・レギュレータでは、ハイサイド・スイッチ(上側のスイッチ)にパワーMOSFETやパワー・トランジスタ、ローサイド・スイッチ(下側のスイッチ)にダイオード(フリー・ホイール・ダイオードと呼ぶ)を使っていた。いわゆるダイオード整流方式である。このうちローサイド・スイッチに使っていたダイオードを、パワーMOSFETやパワー・トランジスタに置き換える回路技術を同期整流と呼ぶ。
現在、同期整流は多くのスイッチング・レギュレータに採用されており、今や「当たり前」の回路技術になったと言って過言ではない。
同期整流がこれだけ普及した背景には、半導体製造技術の進化がある。半導体製造技術の微細化が進むと、トランジスタの耐圧が下がる。従って、LSIの電源電圧を下げざるを得なくなる。1990年代前半には、+5Vの電源電圧が主流だったが、微細化の進展とともに徐々に低下している。その一方で、LSIの消費電力はあまり減っていない。集積する機能が増えているためである。電源電圧が下がっているのに、消費電力はあまり変わらない。つまり、消費電流が増えているのだ。いわゆる「低電圧大電流化」のトレンドである。
こうした流れに、ダイオードでは次第に対応できなくなってきた。ダイオードを使った場合、この素子で消費される電力は、順方向電圧降下(VF)と、流れる電流(I)で決まる。順方向電圧降下は、ダイオードの種類によって異なるが、ショットキ・バリア・ダイオードの場合、0.5V程度。ここに3Aの電流を流せば、1.5Wもの電力損失が発生する(デューティ比が極めて低い場合の最大値)。かなり大きな損失だ。
このダイオードをパワーMOSFETなどに置き換えれば、この電力損失を大幅に低減できる。パワーMOSFETの場合、この素子で消費される電力はオン抵抗(RDS(ON))と電流の2乗の積で決まる。現在、低耐圧のパワーMOSFETのオン抵抗は数mΩ〜十数mΩ。例えば10mΩと仮定すると、ここに3Aの電流を流して電力損失は90mWにすぎない。ダイオードを使った場合の電力損失である1.5Wと比べるとはるかに小さい(デューティ比が極めて低い場合の最大値)。従って、スイッチング・レギュレータの電力損失を大幅に低減し、変換効率を高めることが可能になるわけだ。
ただし、入力電圧と出力電圧の差が小さい場合は同期整流の効果が薄れる。デューティ比が高くなるため、ハイサイド・スイッチに電流が流れる期間が長く、ローサイド・スイッチに流れる期間が短いからだ。従って、ローサイド・スイッチがダイオードでも、パワーMOSFETでも、電力損失の大きさがほとんど変わらなくなるからだ。同期整流がその効果を発揮するのは、入力電圧と出力電圧の差が大きく、デューティ比が低い場合に限られる。
同期整流を採用するメリットは大きい。ただし、デメリットも存在するため注意が必要だ。最大のデメリットはコストが上昇することである。ダイオードを使った場合の回路構成は非常にシンプルだが、パワーMOSFETに置き換えるとかなり複雑になってしまうからである。
その理由を説明しよう。ダイオードの場合は、図1のハイサイド・スイッチ(SW1)がオフすると、インダクタ(L)に電流を流し続けようとする特性があるため、自然にオフからオンになる。つまり、最適なタイミングで自動的に切り替わるわけだ。このため、オン/オフを切り替える信号を外部から供給する必要はない。
しかし、パワーMOSFET(SW2)はSW1がオフになったからといって、オフからオンに自動的に切り替わることはない。外部から信号を入力し、強制的にオンに切り替える必要があるのだ。
しかもこの際、問題が一つある。SW1とSW2は、一方がオンのときに、もう一方がオフになるように交互にスイッチングを繰り返す。このとき、両方が同時にオンになってしまう危険性があるのだ。もし、同時にオンになってしまうと、入力電源から2つのパワーMOSFETを介してグラウンドに貫通電流が一気に流れる。こうなれば当然、パワーMOSFETは壊れてしまう。
このため同期整流を採用する際には、SW2のパワーMOSFETのオン/オフを制御/駆動する回路に加えて、2つのパワーMOSFETの同時オンを防止するデッドタイムを挿入する回路が必要になる。この分だけ、コストが上昇してしまうわけだ。
ただし、同期整流は現時点ではかなり広く普及しており、コストの上昇分は比較的小さくなっている。しかも、スイッチング・レギュレータの変換効率が高まれば、放熱対策に費やすコストを削減できるという副次的な効果がある。デメリットを補って余りあるメリットを享受できる回路技術だと言える。
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アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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