【ビデオ講座】電源回路設計の手順と勘所(1)トレードオフを考慮し単一負荷回路を設計する (クリックで動画再生)
デジタル民生機器や携帯型電子機器、産業機器などの開発現場において、電源設計に関するトラブルが増加する傾向にある。その背景には、アナログ回路設計にノウハウを持つエンジニアが高齢化しており、開発現場から年々減少していることがある。このため、アナログ回路設計の経験が少ないエンジニアや、FPGAやマイコンなどの設計を担当するデジタル・エンジニアが電源設計を手掛けるケースが少なくないようだ。
ところが、電源回路設計はそんなに簡単なものではない。考慮すべきパラメータが数多くある上に、それぞれに複雑なトレードオフ関係がある。これらを熟知して設計に取り組まなければ、トラブルを招く危険性は極めて高いと言わざるを得ない。
こうしたトラブルを未然に防ぐことを目的に、今回は数回にわたって電源回路設計の手順と勘所を解説して行く。最初に取り上げる例題は、単一負荷(single output)に向けた電源回路である。最もシンプルな電源回路の設計を通じて、考慮すべきパラメータと、各パラメータのトレードオフ関係を確認する。なお、電源回路の設計には、米National Semiconductor社のオンライン設計支援ツール「WEBENCH Power Designer」を利用する。これは、インターネットを介して使える無償ツールである注1)。
ASICの入出力(I/O)インターフェース部に電力を供給する電源回路を想定する。まずは、同設計支援ツールに初期条件を入力する。ここでは、電源回路への入力電圧の最小値を9V、最大値を14V、電源回路の出力電圧を3.3V、出力電流を2.5Aと入力する。入力が終わったならば、「推奨電源ICを表示」ボタンをクリックすると、適合するスイッチング・レギュレータIC(スイッチャ・ソリューション)が列挙される。ここで最適なICを選択するわけだが、今回はまず「LM2596」を選択する。ナショナル セミコンダクター ジャパン マーケティング本部 プロダクトマーケティング課長の山田浩二氏によると、「このICは、シンプル・スイッチャー・シリーズの第2世代品であり、1990年ごろに製品化した比較的古いものだ。しかし、現在でも多くの電子機器に採用されている定番商品である」という。
「設計を開始」ボタンをクリックすると、解析結果が表示される。画面左上のオプティマイザ・ダイヤル(最適化のための調整)が「3」の位置にある場合、変換効率は78%、電源占有面積は718mm2、部品コストは3.73米ドルと求まった(設計結果A300)(図1、表1)。変換効率は決して高いとは言えない。この理由は2つある。1つは、約20年前の製品であるため製造プロセス技術が古く、集積したFETのオン抵抗(RDS(ON))が比較的高いことである。このため導通損失が大きくなる。もう1つの理由も製造プロセス技術に関するもので、FETのスイッチング速度が遅いため(スイッチング時のターン・オン、ターン・オフに時間がかかるため)スイッチング損失が大きくなってしまうことである。
ただし、周辺部品を最適化すれば、LM2596を使った場合でも、さらに高い変換効率を達成することは可能だ。オプティマイザ・ダイヤルを「5」に合わせる。すると、変換効率を最優先させた設計結果が表示される。具体的には、変換効率は80%、電源占有面積は1579mm2、部品コストは5.45米ドルという結果が得られた(設計結果A500)。
前述の設計結果A300と比較すると変換効率は2%高まっている。この2%の差は、何に起因するのだろうか。その答えは、出力コンデンサやインダクタ、ダイオードといった周辺部品にある。出力コンデンサの等価直列抵抗(ESR:equivalent series resistance)やインダクタの直流抵抗(DCR)、ダイオードの順方向電圧降下(VF)が小さい素子を選択すれば、変換効率を高められる。
それでは、設計結果A300と設計結果A500で採用された周辺部品を確認してみよう。なお、各設計結果で使われている周辺部品は、画面中央下の「部品リスト」をクリックすれば確認できる(図2)。
設計結果A300では、インダクタに直流抵抗が49mΩの品種を採用していた(表2)。一方、設計結果A500で採用したインダクタの直流抵抗は26mΩと小さい(表3)。さらにダイオードの順方向電圧降下にも違いがある。設計結果A300で採用したダイオードで順方向電圧降下は0.5Vだが、設計結果A500では0.45Vと低いダイオードを採用している。直流抵抗が低く、順方向電圧降下が小さければ、電力損失を減らすことができる。その結果、変換効率が2%上回ったわけだ。
ただし、ここで注意点がある。変換効率が高まった一方で、電源占有面積と部品コストが増えてしまっている点だ。特に、電源占有面積の増加幅は大きい。設計結果A300では718mm2だったが、設計結果A500では1579mm2と2倍以上に増加している。この増加に大きく寄与したのがインダクタだ。一般にインダクタでは、断面積が大きな電線を使えば、直流抵抗を小さくできる。しかし、その分だけ占有面積が大きくなってしまう。実際に、設計結果A500で採用していたインダクタの直流抵抗は26mΩと小さいものの、占有面積は895mm2とかなり大きい。さらに、コストについても、等価直列抵抗が小さいコンデンサや、直流抵抗が小さいインダクタ、順方向電圧降下が小さいダイオードは高価になる傾向にある。ナショナル セミコンダクター ジャパンの山田氏は、「いたずらに変換効率を高めれば良いわけではない。設計対象の電子機器で求められる変換効率、電源占有面積、部品コストに合わせて、電源回路を最適設計する必要がある」と指摘する。
それでは、スイッチング・レギュレータICを変更して解析を実行してみる。再び、スイッチング・レギュレータICが列挙された画面に戻り、「LM22676」を選択する。このICは、シンプル・スイッチャー・シリーズの第5世代品であり、最新型の製品だ。約2年前に市場に投入した。
「設計を開始」ボタンをクリックすると解析結果が表示される。オプティマイザ・ダイヤルが3の位置にある場合の変換効率は82%、電源占有面積は373mm2、部品コストは3.14米ドルと求まった(設計結果B300)。変換効率については、LM2596を使った場合(設計結果A300)と比較して4%も高まった。この理由についてナショナル セミコンダクター ジャパンの山田氏は、「LM22676は、最先端のプロセス技術で製造しているため、集積したFETのオン抵抗(RDS(ON))が小さいため導通損失が小さく、スイッチング速度が高いためスイッチング損失も小さい。そのため、変換効率が高まった」と説明する。
さらに、設計結果B300で特筆すべきは、電源占有面積が373mm2と小さいことである。設計結果A300と比べると約半分である。電源占有面積を大幅に小型化できた理由は、スイッチング・レギュレータICのスイッチング周波数にある。LM2596のスイッチング周波数は150kHzだが、LM22676はその約3倍の500kHzと高い。スイッチング周波数が高くなれば、周辺部品のコンデンサやインダクタの占有面積を小型化できる。実際に、設計結果A300で採用したインダクタの占有面積は243mm2だったが、設計結果B300で採用したインダクタは151mm2と小さい(表4)。もちろん、占有面積が小さくなれば、部品のコストも減る傾向にある。部品コストについては、設計結果A300では3.73米ドルだったが、設計結果B300では3.14米ドルと約20%減っている。
なお、LM22676を使った場合で、オプティマイザ・ダイヤルを5に合わせると変換効率は85%まで高まる。ただし、電源占有面積は1089mm2と大きくなり、部品コストは4.29米ドルと高くなってしまう。いずれも、インダクタの大型化と高コスト化の影響を大きく受けている(表5)。
今回は、単一負荷の例題としてASICの入出力インターフェース部への電力供給を取り上げた。ただし、実際のASICではこのほか、コア部やアナログ・フロントエンド部などにも電力を供給する必要がある。すなわち、複数負荷に対応した電源回路を設計する必要がある。複数回路に対応した電源回路設計の手順と勘所については、次回解説しよう。
注1)オンライン設計支援ツール「WEBENCH Power Designer」には、ナショナル セミコンダクター ジャパンのホームページからアクセスできる。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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