【ビデオ講座】LVDSを基礎から理解する(5) LVDS関連製品の賢い選び方(前編)(クリックで動画再生)
LVDSという名前を知らないエンジニアは少ないだろう。LVDSとは、Low voltage differential signalingの頭文字をとった造語で、3.5mAの定電流源を使用し350mVと非常に低振幅な差動信号を使って高速にデータを伝送するシリアル・インタフェース技術である(図1)。その伝送速度は、ANSIやEIA、TIAでの標準規格において、最大655Mビット/秒と定められているが、実際には1Gビット/秒を超える用途にもこの技術は適用されている。
代表的なアプリケーションとしては、ノート・パソコンやデジタル・テレビの内部で、ロジック・ボードと液晶パネルを接続するインタフェース部が挙げられる。ただし、アプリケーションはこれだけではない。LVDSは高速シリアル通信の基礎的な技術であり、他の高速規格にも参照され、現在では高いデータ伝送速度が求められる用途の多くでLVDSの基本的な技術が適用もしくは参考にされている。
こうした状況に対応すべく、各半導体メーカーではさまざまなLVDS関連製品を多く市場に投入している。例えば、LVDS関連製品の老舗メーカーである米ナショナル・セミコンダクター社では現在、300程度の製品を販売している。これだけ数多く投入されているLVDS関連製品の中から、最適なチップ(IC)をどうやって探し出せばいいのか。それにはまず、どのような製品が入手できるのか、各製品の特徴は何なのか、各製品のメリットとデメリットは何なのか、などのポイントを理解する必要があるだろう。さもなければ、LVDS関連製品を「賢く」選ぶことはできない。
300をも超える製品の中から、最適なチップを探し出す作業は決して容易なことではない。しかし、ナショナル セミコンダクター ジャパンのマーケティング本部でプロダクトマーケティング課長を務める河西基文(かわにし・もとふみ)氏は、「重要なポイントさえ抑えれば、決して困難な作業ではない」という。
そこで重要なポイントを説明するために、数多く存在するLVDS関連製品を3つのカテゴリーに分類することにする。1つめは「LVDSドライバ・レシーバ」。2つめは「LVDSシグナル・コンディショニング」。3つめは「LVDSシリアライザ/デシリアライザ(SERDES)」である。以下で、3つの各カテゴリーについて、それに含まれる製品、その特徴や用途などを説明して行こう。
1つめのLVDSドライバ・レシーバは、比較的理解しやすいカテゴリーだといえる。主な役割は、TTLレベルやCMOSレベルの信号を、従来に比べて長い距離、かつ高い速度で伝送することにある(図2)。LVDSドライバをTTL/CMOSレベルの送信側に、LVDSレシーバをTTL/CMOSレベルの受信側に挿入し、差動伝送路を用意するだけで、TTL/CMOSTTL信号を遠く速く飛ばせるようになるわけだ。
差動伝送路については、伝送速度がTTL/CMOSの2倍、もしくは伝送距離が2倍という程度であれば、特別な専用ラインや専用ケーブルを用意する必要はない。伝送速度/伝送距離が2倍程度であれば、レシーバの終端抵抗の調整や必要であれば信号の反射エネルギーを小容量コンデンサで吸収できるようにするだけで、特性インピーダンスの定義のない一般的なケーブルでも使用することができる。
表1は、ナショナル セミコンダクター社が製品化しているLVDSドライバ・レシーバの一覧表である。ドライバとレシーバともに、1回路入り品や2回路入り品、4回路入り品などを用意している。例えば、8ビット幅のTTL/CMOSTTL信号を伝送したい場合は、4回路入りのドライバを2個と、4回路入りのレシーバを2個使えば、設計を大きく変更することなく、TTL/CMOS信号を長距離送れるようになる。
それでは、LVDSの伝送可能な最大速度や最長距離はどの程度なのだろうか。最大の伝送速度については、TTL/CMOS信号の入出力部によって制限を受けるため、実際には400M〜600Mビット/秒程度である。最長の伝送距離は、「イーサネットなどに使われる安価なUTP(AWG24番線を使うCAT6ケーブル)で接続した場合を例にすると、スピードに関係なく伝送可能な距離は15m程度となる。理由としては両側の回路(ボード)のグラウンド電圧差がケーブルによるローパスフィルタ特性よりも先に問題となるためである。」(同氏)という(図3)。
もっとも複数個のドライバを並べて、複数ビットのTTL/CMOS信号を伝送する場合は、ドライバ間のスキューが問題となる危険性がある。スキューが大きければ、それによって伝送距離が制限されてしまう。こうした疑問に対して河西氏は、「同じ型番のドライバを使う場合、同じ電源電圧、同じ周囲温度という条件下であれば、最大のデバイス間スキューはわずかに1ns。1nsという時間は、1GHz信号の1周期分である。従って、60MHzや80MHzといったTTL/CMOS信号を送るのであれば、何の問題もない」と太鼓判を押す(図4、図5)。
2つめのカテゴリーであるLVDSシグナル・コンディショニングは、送信側に向けたプリエンファシス技術やデエンファシス技術、受信側に向けたイコライザ技術を採用した製品群である。主なアプリケーションは、FPGAやASIC、DSPなどを搭載したボードと、ほかのボードとの接続である。FPGAやASICなどには、LVDSなどの差動信号を出力する機能が搭載されているものの、そのままでは高速なデータを長距離送ることはできない。さらに、低価格のFPGAで使われている疑似LVDS信号(定電流源を使わないLVDS信号)では、差動伝送波形が大きく乱れてしまう傾向がある。こうしたケースなどで、FPGAやASICにシグナル・コンディショニング・チップを外付けすれば、従来よりもデータを高速に長距離伝送することが可能になる。もちろん、伝送波形の乱れは少なくなり、受信端での大きなアイ・パターンの開口が得られるようになる。
表2は、ナショナル・セミコンダクター社が市場に投入しているLVDSシグナル・コンディショニング製品の一覧表である。冒頭で説明した通り、ANSIやTIA、EIAの標準規格では、LVDSのデータ伝送速度は最大655Mビット/秒と定められている。しかし、技術的にはそれ以上の伝送速度をサポートすることが可能だ。一覧表をみると、LVDSで最大で3.125Gビット/秒に対応しているシグナル・コンディショニング・チップが複数ある。
ただし一覧表の中には、3.125Gビット/秒を超えるデータ伝送速度に対応したシグナル・コンディショニング・チップも存在している。その理由について、河西氏は「LVDSの技術では約3Gビット/秒程度までの対応となる。それ以上の伝送速度ついては、CML(Current Mode Logic)という別の技術を使用している。CMLを使えば、6Gビット/秒や10Gビット/秒といった伝送速度に対応できるようになる。技術的には、現時点で28Gビット/秒に対応できることも可能」と説明する(図7)。
CMLとはどのような技術なのか。それは次回に詳しく説明しよう。
LVDS関連の資料:
アナログ製品ガイド(2011年4月改訂) のインタフェース・セクション
LVDSオーナーズ・マニュアル第4版:高速CMLとシグナルコンディショニング
Signal Path Designer
#123 産業用ビデオ向けSerDesのEMI問題とシールドの必要性
#122 クロック/制御信号埋め込み型産業機器向けシリアライザ/デシリアライザ
#119 データセンタのサーバやSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)での高速信号駆動
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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