「2011年3月11日に発生した東日本大震災と、それがきっかけとなり起きた原子力発電所事故。これらの痛ましい出来事が契機となり、消費者の節電や環境保全への意識が高まり、日本国内のLED電球市場が急拡大している」(日本テキサス・インスツルメンツ 営業・技術本部 マーケティング統括部の北野智麗氏)。
LED電球は、白熱電球や電球型蛍光灯を置き換えるものだ。最大の特長は、消費電力が低いことだ。白熱電球に比べると消費電力は約1/10と極めて低い。電球型蛍光灯と比べても、約30%削減できる。しかも、寿命が長い。白熱電球は約1000時間、電球型蛍光灯は約6000時間だが、LED電球であれば4万時間にも達する。「震災後、約1年が経過し、市場の伸びは徐々に落ち着きつつあるが、それでも堅調に市場は拡大し続けている」(同氏)という。
さらに最近になって、一般住宅に向けたLEDシーリングライトの国内市場も急拡大の兆しが見え始めてきた。シーリングライトとは、リビングルームなどに取り付ける大型の円形状照明器具である。約1年前までは平均単価が3〜4万円程度と高かったため販売数量がなかなか増えなかったが、ここにきて価格が1万〜2万円に下がってきた。このため今後、市場は急拡大していくとみられる。
LED電球の伸びは若干緩やかになってきたが、その代わりにLEDシーリングライトが急拡大し始めたLED照明器具市場。今後も引き続き、極めて有望な市場であることは間違いない。このため、さまざまな半導体メーカーがLED照明器具に向けたLEDドライバICを市場に投入している。
米テキサス・インスツルメンツ(TI)社もそうした半導体メーカーの1社だ。競合他社に対する同社の強みは、品ぞろえが豊富なことである(図1)。なぜならば、LEDドライバICに力を入れていた米ナショナル セミコンダクター社を2011年に買収したからだ。これで品ぞろえが一気に充実した。現在では、LED電球や一般住宅向けLED照明向けはもちろんのこと、屋外向けや商業向け、車載向けなどのLEDドライバICをラインナップしている。
ナショナル セミコンダクター社の買収の効果はもう一つある。それは、TI社に対して、アプリケーション・サポート体制の強化をもたらしたことだ。「照明器具メーカーにとって、LED照明はまったく新しい技術分野。そのため半導体メーカーは、LEDドライバICを販売するだけでなく、その使い方をソリューションとして提案する必要がある」(北野氏)という。両社が一緒になることで、アプリケーション・サポートの更なる充実が図られた。その分だけ、照明器具メーカーに対してきめ細かなサポートが可能になるとする。
さらに、今後はTI社が誇る半導体製品の品ぞろえが、競合他社との差別化要素になりそうだ。総合的な半導体メーカーである同社は、低消費電力の16ビットRISCマイコン「MSP430™」や、各種規格に対応したRFトランシーバIC、電源ICなどを取り揃えている(図2)。「将来的に、LED照明器具はスマート化することが予想される。例えば、LED照明の明るさをスマートフォンで制御するといった機能が搭載されるだろう。その場合は、当社であれば、MSP430™とワイヤレス・チップを組み合わせたトータル・ソリューションを提供できる」(同氏)という。
こうした中、TI社は、LED電球に向けた新しいLEDドライバIC「LM3447」を製品化した。A19型やE26/27型、PAR30/38型などのLED電球に向ける。スイッチング素子は外付けのため、出力電力が5〜30Wクラスの大きいLED電球やダウンライトに適用可能だ(図3)。
このLEDドライバICの最大の特長は、定電力駆動方式を採用している点にある。同社によると、「定電力駆動方式の採用は業界初」(北野氏)という。一般に、LEDドライバICでは定電流駆動方式を採用する。LED素子の光出力(光束)は供給電流の大きさで決まるためだ。従って、供給電流が常に一定になるように制御すれば、ちらつきなどが発生しないLED電球が実現できるとされてきた。
しかし、LED素子に電流を流すとそれ自体が発熱し、接合部温度が上昇する。この結果、順方向電圧(VF)が低下し、一定の電流を供給していても実際には光出力が低くなるという現象が発生してしまう。つまり、厳密に言うと定電流駆動方式では、光出力(光束)を保つことはできないわけだ(図4)。
そこで、定電力駆動方式の出番ということになる。この方式では、順方向電圧の減少に対して、供給電流を増やすことで対処する。例えば、25℃において順方向電圧(VF)が3.2VのLED素子は、85℃の状態では3.0Vに低下してしまう。供給電流が350mAで同じならば、光出力(光束)は約10%減少することになる。そこで、定電力駆動方式では、供給電流を373mAに増やす。こうして光出力(光束)の減少分を5%に抑えるわけだ。
このICを使って構成できるのは、絶縁型AC-DCコンバータを利用したLEDドライバ回路である。回路トポロジーは、不連続導通モード(DCM:Discontinuous Conduction Mode)のフライバック・コンバータを採用する(図5)。バレー・スイッチング(疑似共振)方式を採用しているため、放射電磁雑音(EMI)を低く抑えることが可能だ。
定電力駆動の制御に必要な電圧値や電流値といった情報は、絶縁型AC-DCコンバータの1次側から取得する。すなわち、このためフォトカプラなどの外付けは不要である。力率改善(PFC:Power Factor Control)機能も備える。PFC専用のコンバータを用いない1ステージ構成で、0.9以上の力率が得られるとする。
調光機能も備える。位相調光用デコーダを集積したため、一般住宅に備え付けられた既存の調光器出力をそのまま入力できる。トライアックを使ったリーディング・エッジ位相調光のほか、トレーリング・エッジ位相調光にも対応可能だ。調光比は約50対1である。
このほかの特長としては、外付けのNTCサーミスタを使った温度フォールドバック機能を搭載したことが挙げられる。この機能は、LED素子が過熱した際の保護機能である。ただし、過熱状態になったからといって、シャットダウンすることはない。あるしきい値温度に達すると、供給電流を減らして、光出力を絞る。その後、さらに温度が上昇すれば、それとともに供給電流を減らしていくというものだ。保護機能としてはLED素子のオープン/ショート保護機能、IC自体のサーマル・シャットダウン機能などを備える。
住宅向けのほか、道路照明や車載照明などの分野でもLED照明は急速に普及する見通しである。こうした市場の成長に対応して、TIではLEDドライバの製品ラインナップをさらに充実させる方針である。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日
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