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本格普及期を迎えるワイヤレス充電市場、 充電領域が広く高効率の送電/受電ICが登場【講座】回路設計の新潮流を基礎から学ぶ

» 2012年12月03日 00時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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 携帯電話機やスマートフォン、タブレット端末などにワイヤレス(非接触)で電力を供給し、それらの携帯型電子機器を充電する「ワイヤレス充電(ワイヤレス・パワー)」技術。

 このワイヤレス充電の基本原理は、決して新しいものではない。以前から、電気シェーバーや電動歯ブラシなどの充電に使われていた電磁誘導方式である。対向した2個のコイルの一方に電流を流すと磁界が発生し、これがもう一方のコイルと結合することで、このコイルにも電流が流れるという原理を使う。一方のコイルを充電器(クレードル)に、もう一方のコイルを携帯型電子機器に組み込んでおけば、ワイヤレスで電力を充電できるようになる。

 従来から使われていた技術だが、これまでは一つの問題を抱えていた。それは、充電器と携帯型電子機器が1対1の対応であり、相互運用性がなかったという問題である。従って、ファミリー・レストランのテーブルに充電器を組み込んでおき、そこに訪れた客がさまざまな携帯型電子機器をテーブルに置いて充電するという環境を構築することは事実上不可能だったわけだ。

 こうした問題を解決するために2008年12月に「WPC(Wireless Power Consortium)」という標準化団体が立ち上げられた。この団体で、各メーカー間での相互運用を可能にする国際標準規格の検討が始まり、2010年7月に「Qi(チー)規格」が策定された。最大5Wまでの充電が可能な低電力規格(Volume-I:Low Power)である。

 これを機に、Qi規格に準拠したスマートフォンや、充電器などの製品化が始まった。ただし現時点では、対応する製品数が十分に多いとは言い難い状況にある。現在はまだ、対応する携帯電話機やスマートフォンなどの機種数を増やすと同時に、充電器をさまざまな場所に設定するインフラ整備を急いでいる状況にある。

 こうした取り組みは順調に進んでいる。日本テキサス・インスツルメンツ(TI)の営業・技術本部 マーケティング統括部 アナログマーケティング バッテリー・ワイヤレスパワーでリーダーを務める丹野真之氏は、「2014年から2015年にかけて、ワイヤレス充電市場は加速度的に伸びていく」と見ている。

充電可能な領域を約4倍に

 近い将来、大きな規模に成長する可能性が極めて大きいワイヤレス充電市場。この市場に向けて、すでに多くの半導体メーカーが対応するICを製品化している。テキサス・インスツルメンツ(TI)もその1社である。Qi規格に準拠したトランスミッタ(送電)ICとレシーバ(受電)ICを複数製品投入済みだ。その同社が今回、新しいトランスミッタIC「bq500410A」とレシーバIC「bq51050B」の製品化を発表した。

図1 3個の送電コイルを使う
左は、1個の送電コイルを使う方式(Type A1)。右は、今回採用した3個の送電コイルを使う方式(Type A6)である。送電コイルの面積は、圧倒的にType A6の方が大きい。その分だけ、充電可能な領域が広がる。

 これらのICの最大の特長は、充電可能な領域を大幅に広げられる点にある。同社従来品のトランスミッタIC「bq500210」は、1個の送電コイルを用いる方式を採用していた。このため、充電可能な領域が18mm×18mmにとどまっていた。今回発売したトランスミッタICのbq500410Aは、3個の送電コイルを用いる方式に対応する(図1)。WPCにおいて「Power Transmitter design A6」の名称で仕様化された方式である。この方式の充電可能な領域は70mm×20mmと大きい。「A6方式に対応したトランスミッタICの製品化は業界初。1個のコイルを使う方式に比べて、充電可能な領域を約4倍に広げられる」(丹野氏)という。

システム効率は70%

 しかも、充電可能な領域を広げたにもかかわらず、システム効率は70%(出力電力が2〜3Wの場合)を超える(図2)。「競合他社に比べて、かなり高い水準を実現した」(同氏)とする。一般に、充電可能な領域を広げれば、システム効率は低下する。これまでは、この二つの特性を同時に高めることは困難だった。しかし、今回のトランスミッタICとレシーバICでは、二つの特性をかなり高い水準で両立させたことになる。

図2 システム効率は70%超を実現
システム効率とは、トランスミッタICに投入した電力のうち、レシーバICからの出力される電力の割合である。今回発売したトランスミッタICとレシーバICを使えば、出力電力が2〜3Wの場合に、70%を超えるシステム効率が得られる。競合他社品を大きく上回る。

 どうして両立が可能になったのか。そのポイントの一つは、レシーバIC側の電力変換効率を高めた点にある。同社従来品のレシーバICであるbq51013を使う場合は、Liイオン2次電池に向けたスイッチング方式の充電ICを外付けで用意する必要があった。この充電ICでは、出力を安定化する電力変換が行われ、その際に電力損失が発生していた。このため、この回路構成ではレシーバIC側の変換効率は、80%を切っていた(図3)。

図3 レシーバICの電力効率
レシーバICに充電機能を集積し、さらに出力の安定化方式を工夫することで、90%程度と高い電力効率を実現した。レシーバICに、スイッチング方式の充電ICを外付けする従来方式では、電力効率は80%に満たなかった。

 今回は、この回路構成を見直した。発売したレシーバICに充電機能を集積したのだ。出力の安定化方式は、スイッチング方式でも、リニア方式でもない。採用したのは、出力に必要な電圧値などの情報をレシーバICからトランスミッタICに送り、それに応じた電力をレシーバICに送るという方式である(図4)。この方式であれば、電力変換は1回減るため、変換効率を高められる。レシーバIC側の変換効率は約90%と高い値が得られる。

図4 レシーバIC側の回路構成
今回は、レシーバICに充電機能を集積したため、直接、Liイオン2次電池に充電できる。従来は、スイッチング方式、もしくはリニア方式の充電ICなどを外付けする必要があった。

 充電機能をレシーバICに集積したことは、プリント基板上の実装面積の削減にも大きく寄与する。「レシーバICのbq51050Bを採用すれば、最大で60%削減できる」(同氏)という。アプリケーションが携帯電話機やスマートフォンなどの携帯型電子機器であるため、かなり魅力的なメリットだといえよう。

WPC1.1に準拠

 発売したトランスミッタICとレシーバICには特長がもう一つある。競合他社に先駆けて、「WPC1.1(System Description Wireless Power Transfer Volume I: Low Power Part 1: Interface Definition Version 1.1)」仕様に準拠したことである。つまり、WPC1.1で新たに追加された異物検出(FOD:Foreign object Detection)機能を搭載したわけだ。

 この機能は、送電コイルと受電コイルの間に、金属の物体が入ってしまった場合に、それを検出するというもの。そのまま放っておくと、金属物体に渦(うず)電流ができ、大きな電力損失が発生してしまう。発売したICでは、渦電流による電力損失がある一定量以上になると、出力を止める仕組みを導入した。

 発売したトランスミッタICの入力電圧は12V(標準値)。パッケージは、7mm×7mmの48ピンQFN。動作温度範囲は−40〜+110℃。1000個受注時の参考単価は3.18米ドルからである。

 レシーバICは、充電電圧の違いで2製品を用意した。4.2Vの「bq51050B」と4.35Vの「bq51051B」である。電極材料が異なるLiイオン2次電池への対応が可能だ。入力電圧範囲は4〜10V。最大出力電流は1.5Aである。パッケージは、実装面積が1.9mm×3.0mmの28ピンWCSPと、4.5mm×3.5mmの20ピンQFNを用意した。1000個受注時の参考単価は2.75米ドルからである。

次世代品の準備も着々と

 現在、WPCでは、充電可能な電力の引き上げを検討中だ。まずは、現行の低電力規格(Volume-I:Low Power)の枠内で、充電可能な電力を最大で15Wに高める予定である。これが実現されれば、携帯電話機やスマートフォンだけでなく、タブレット端末や電子ブック・リーダーなどへの適用が可能になる。TIでは「開発は数年前から始めており、標準規格が決まり次第、速やかに製品化する予定だ」(丹野氏)という。


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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日

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