マイコンの主記憶はバイト単位で頻繁にアクセスすることが必要なため、アドレスを指定して高速に読み出し/書き込みができる半導体メモリが用いられます。今回は、実際に主記憶として使われているフラッシュ・メモリ、SRAM、FRAMなど、各種のメモリ・デバイスの種類と特長をまとめてみます。
マイコンの主記憶には、(1)プログラムを記憶する、(2)データを記憶する、という二つの異なる役割があり、使い方にも大きな違いがあります。
マイコンの動作中、データは書き込みと読み出しの両方を必要に応じて行わなければなりませんが、プログラムは基本的に読み出し(命令フェッチ)だけです。一方、組み込み機器のように電源を入れたらいつも同じプログラムが起動するシステムでは、電源を切ってもプログラムが消えない不揮発性が求められます。
そこで、不揮発(Non Volatile)かつ読み出し専用で、プログラムの記憶に適したROM(Read Only Memory)と、読み出し/書き込み両用でデータの記憶に適したRAM(Random Access Memory)が使い分けられるようになりました。RAMは一般には電源を切るとデータが消えてしまう揮発性(Volatile)メモリですが、最近では不揮発性のRAMも製品化されています。
ただし、パソコンのように外部記憶(HDD、CD-ROMなど)からプログラムを供給するシステムでは、主記憶のプログラムを自由に入れ替えることが必要なので、RAMを主記憶に使用します。電源を切ると主記憶にあるプログラムは消えてしまいますが、不揮発性の外部記憶に元のプログラムがあるので問題はありません。電源を入れた直後に起動する小規模なプログラム(BIOSなど)だけは、ROMに記憶されています。
名称 | 性質 | 記憶素子 | 特長 | |
---|---|---|---|---|
ROM | マスクROM | 不揮発 | 物理配線 | LSI製造時に内容を固定、書き込み不可 |
EPROM | 不揮発 | フローティング・ゲート | 紫外線消去後に再書き込み可 | |
EEPROM | 不揮発 | フローティング・ゲート | 電気的消去後に再書き込み可、バイト消去 | |
フラッシュ・メモリ | 不揮発 | フローティング・ゲート | 電気的消去後に再書き込み可、一括消去 | |
RAM | FRAM | 不揮発 | 強誘電体 | 書き込み可 |
SRAM | 揮発 | フリップフロップ | 書き込み可、リフレッシュ不要 | |
DRAM | 揮発 | コンデンサ | 書き込み可、リフレッシュ必要 | |
CPU、メモリ、I/Oを1個のLSIに集積した1チップ・マイコンでも、プログラム用のROMと、データ用のRAMがそれぞれ内蔵されます。
さて、ROMは読み出し専用といっても、何らかの方法でプログラムを記憶させる(書き込む)必要があります。これをROMのプログラミングと呼びます。
マスクROMは、LSI製造時に内部配線を固定してプログラムを記憶させるもので、製造後にプログラムをいっさい変更できない文字通りの「リードオンリー」メモリです。以前はこれが主流でしたが、現在はフラッシュ・メモリのように後からプログラミング可能なROMが主流になっています。
フラッシュ・メモリはフローティング・ゲートと呼ばれる絶縁電極に電荷を注入して電圧を記憶するもので(異なるタイプもある)、電源を切っても内容が消えません。電気的に消去/再書き込みが可能ですが、書き込みに時間がかかる、書き換え回数が制限される、バイト単位で書き換えできないなどの制約があります。
DRAMやSRAMは回路を動作させることによって電圧を保持しているので、電源を切ると内容が消えてしまいます。しかし、読み出し、書き込みとも高速にできますし、書き換え回数の制約もありません。
DRAMは、微小なコンデンサに電荷を保持することによって、1ビットのデータを記憶します。リーク電流によって電荷が失われていくので、定期的に書き直し(リフレッシュ)動作を行う必要があります。しかし、低コストで大容量化可能という大きな利点があり、パソコンなどの大規模システムの主記憶はほとんどがDRAMになっています。
SRAMはフリップフロップ回路を用いて静的に電圧を保持するので、リフレッシュは不要です。しかし、1ビットあたりのトランジスタ数が多く、あまり大容量には向きません。高速化や、低消費電力化はDRAMよりも容易です。
DRAMは単体メモリとしては広く普及しましたが、CPUなどのロジック回路とDRAMを1個の半導体チップに集積すると高コストになるため、1チップ・マイコンには不向きです。1チップ・マイコンのRAMは比較的小容量ですむ場合が多いので、SRAMが用いられています。また、CPUが内蔵するキャッシュ・メモリもSRAMです。
最近は、DRAMやSRAMとは異なる不揮発性のRAMも登場しています。現在普及しているのは、強誘電体(Ferroelectrics)にデータを記憶するFRAM(FeRAM)です。強誘電体は電流を流さない絶縁体ですが、電圧をかけると内部に+と−の偏りができて、電圧をかけるのをやめても偏りが保持される性質をもちます。この性質を不揮発RAMとして利用したものがFRAMです。
FRAMは不揮発、高速(読み出し/書き込み)、低消費電力という大きな利点をもちます。TIの超低消費電力マイコンMSP430™ファミリにも、FRAMを搭載した製品があります。
型名 | 動作周波数 | FRAM(注2) | SRAM | 待機電流(注3) | パッケージ |
---|---|---|---|---|---|
MSP430FR5720 | 8MHz | 4Kバイト | 1024バイト | 0.32μA(typ) | 24VQFN/28TSSOP |
MSP430FR5969 | 16MHz | 64Kバイト | 2048バイト | 0.1μA(typ) | 48VQFN |
MSP430FR5739 | 24MHz | 16Kバイト | 1024バイト | 0.32μA(typ) | 40VQFN/38TSSOP |
(注1)30以上の品種がある。その一部を示す。
(注2)FRAMはプログラム/データ/ストレージに使用可能。
(注3)シャットダウン時(LPM4.5)
不揮発RAMは、FRAMの他にも磁気を利用したMRAM、相変化を利用したPRAM(OUM、PCM)、抵抗を利用したRRAM(ReRAM)などの開発が進められています。ROMとRAMの性質を兼ね備え、高速化や低消費電力化も容易なことから、次世代RAMとして注目されています。
ROMは、まったく書き換えができないマスクROMから始まって、書き換え(消去/再書き込み)が可能なものに進化してきました。
EPROM(Erasable Programmable ROM)は、半導体チップに紫外線を照射して内容を一括消去し、再書き込みを可能にするROMです。ソフトウェア開発の現場では、プログラムの修正と動作テストを繰り返すため、再利用可能なEPROMが広く用いられてきました。LSIに紫外線照射用のガラス窓が必要で、コストが高かったことがEPROMの最大の難点で、現在はフラッシュ・メモリに置き換えられています。
EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)は、紫外線のかわりに電圧をかけて消去/再書き込みが可能なROMであり、バイト単位での消去も可能です。しかし、消去や書き込みに時間がかかることや、内部回路が複雑で大容量化が難しかったことから、小容量の用途に限って用いられています。
フラッシュ・メモリは一括消去型のEEPROMで、バイト単位では消去/再書き込みできないかわりに、低コストで大容量化が可能です。NAND型とNOR型があります。
NAND型は、バイト単位で読み出しができないかわりに、大容量化が最も容易でビット単価も安く、USBメモリ、メモリカード、SSDなど、ファイル単位でデータを記憶する外部記憶として用いられています。
NOR型はバイト単位で読み出し可能で、プログラム用の主記憶に用いられます。特に、1チップ・マイコンのROMとしてはフラッシュ・メモリが最も多く用いられています。表3に、TIの超低消費電力マイコンMSP430™ファミリの例を示します。
型名 | 動作周波数 | フラッシュ | SRAM | 待機電流(注2) | パッケージ |
---|---|---|---|---|---|
MSP430G2553 | 16MHz | 16Kバイト | 512バイト | 0.1μA(typ) | 20DIP/28TSSOP他 |
MSP430F5659 | 20MHz | 512Kバイト | 67584バイト | 0.45μA(typ) | 100LQFP/113BGA |
MSP430F5529 | 25MHz | 128Kバイト | 8192バイト | 0.18μA(typ) | 80LQFP |
MSP430F6779 | 25MHz | 512Kバイト | 32768バイト | 0.18μA(typ) | 100LQFP/120LQFP |
(注1)300以上の品種がある。その一部を示す。
(注2)シャットダウン時またはRAM保持時
※MSP430はTexas Instruments Incorporatedの商標です。その他すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。
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