複数個のセンサで検出したデータを統合処理し、一つのセンサでは得られない高度な情報を入手する。いわゆる「センサ・ハブ/センサ・フュージョン」市場が急速に立ち上がりつつある。そうした新市場に向けてTIは、低消費電力のマイコンを柱に、評価キットやソフト開発ツールを提供中だ。
電子機器に搭載されるセンサ素子の個数は増える一方だ。例えば、スマートフォンやタブレット端末には現在、加速度センサや角速度センサ(ジャイロ・センサ)、圧力センサ、地磁気センサ、赤外線センサ、近接センサ、CMOSイメージ・センサ、タッチ・センサ、温度センサなどが搭載されている。あの小さなボディ(筐体)にこれだけのセンサが載っている。
これまでは通常、一つの物理量を測定するために、一つのセンサ素子を増やしてきた。新しい物理量を測定したければ、新しいセンサを採用する。その結果、これだけの個数に増えてしまったわけだ。ところが最近になって、センサの新しい利用方法に俄然注目が集まっている。「センサ・ハブ」、もしくは「センサ・フュージョン」である。
センサ・ハブとセンサ・フュージョンは、ほぼ同じ意味として使われている。具体的には、複数個のセンサを用い、それらで検出したさまざまなデータを統合的に処理することで、1個のセンサだけでは得られない高度な情報を入手するというものだ。つまり、新たなセンサを追加しなくても、新しい測定データや情報を手に入れることができ、今までにはないアプリケーションをエンド・ユーザーに提供できるようになる。
センサ・ハブやセンサ・フュージョンを活用すると、どのような新しいアプリケーションをエンド・ユーザーに提供できるのか。スマートフォンやタブレット端末を例に取り、具体例を紹介しよう。
前述のように、スマートフォンやタブレット端末には、加速度センサやジャイロ・センサ、圧力センサ、地磁気センサが搭載されている。これらのセンサ素子の測定データを統合的に処理すれば、建物内での位置情報提供サービスである「インドア3Dナビ」を提供できるようになる。
建物の外であれば、GPS信号を受信可能なため、位置情報を取得できる。しかし、建物内ではGPS信号は受信できない。そこで、加速度センサとジャイロ・センサ、地磁気センサを使って、2次元の位置情報を特定し、さらに圧力センサで高さ方向の位置情報を得る。こうすることで、「ショッピング・センサ内の3階のAというファストフード・ショップの前に居て、南側に向いている」といった情報をエンド・ユーザーに提供できるようになるわけだ。
もちろん、センサ・ハブやセンサ・フュージョンの適用機器は、スマートフォンやタブレット端末に限定されているわけではない。日本テキサス・インスツルメンツ(TI)では、「オフィス(OA)機器やヘルスケア機器なども将来有望な市場である」とみている。
例えば、オフィス機器でのコピー機やパソコンのディスプレイでは、赤外線センサや近接センサ、超音波センサなどを駆使して人が近づいたことを検出してメイン処理の電源を入れるアプリケーションが実現できる。こうすることで、メインとなる処理の電源を常に入れておく必要がなくなり、スタンバイの期間を長くできるため、消費電力を大幅に削減できるようになるわけだ。
スマートフォンやタブレット端末には、すでに多くのセンサ素子が搭載されている。しかも、データ処理に使えるアプリケーション・プロセッサも搭載済みだ。従って、センサ・ハブやセンサ・フュージョンは比較的簡単に実現できると思われがちである。
しかし、実際はそんなに簡単ではない。複数個のセンサ素子で検出したデータをアプリケーション・プロセッサに直接入力して、専用のソフトウエアで処理する構成を採用すると、消費電力が極めて大きくなってしまうからだ。
そこでセンサ・ハブやセンサ・フュージョンを実現する際には、サブ・マイコンや専用ICを用意するのが大きな流れになっている。実際のところ、さまざまな半導体メーカーが、「センサ・ハブ/センサ・フュージョン向け」と銘打ったマイコン・ソリューションや専用ICを市場に投入している。そうした中、TIではセンサ・ハブ/センサ・フュージョン向けとして、低消費電力の16ビット・マイコンである「MSP430™」を強く推している。
TIがMSP430を強く推す理由は二つある。一つは、アクティブ時の消費電流が250μAと非常に小さいことだ。従って、複数個のセンサ素子で検出したデータの処理を少ない消費電力で実行できる。
もう一つは、起動時間が1μs以下と非常に短いことだ(図2)。センサ・ハブ/センサ・フュージョンの用途では、センサ素子からのデータ入力が常にあるわけではない。割り込みの要求があったときだけ動作させる。このため起動時間が短ければ、その分だけスタンバイ期間を延ばすことが可能になる。しかも、スタンバイ時の消費電流は1μAと小さい。このため消費電力を最小限に抑えられるわけだ。
同社では、MSP430を使ってセンサ・ハブやセンサ・フュージョンのアプリケーションを開発する電子機器メーカーに向けて、評価ボードも用意している。マイコンとして「MSP430F5229」、または「MSP430F5528」を搭載。センサ素子としては、加速度センサ、ジャイロ・センサ、地磁気センサ、圧力センサがボードに実装されている。すなわち9軸のセンサを構成していることになる。
こうしたセンサ素子で検出したデータの処理に向けたマイコンおよびアプリケーション・プロセッサ向けプログラムのリファレンスも準備済みだ(図3)。GUI(graphical user interface)をベースにして、パラメータの選択やデータの設定といった作業もでき、評価も容易に行える。
このほか同社は、英ARM社のCortex-M4コアを搭載した32ビット・マイコン「Tiva™ Cシリーズ」を使ってセンサ・ハブやセンサ・フュージョンのアプリケーションを開発する電子機器メーカーに向けた評価キットも用意している。具体的には、Tiva Cシリーズを載せた「TM4C123Gローンチパッド」評価キットと、それに向けた「センサ・ハブ・ブースタパック(BOOSTXL-SENSHUB)」である。「世界標準であるCortex-Mマイコン・コアを求めるユーザーに向ける」(同社)という。
センサ・ハブ・ブースタパックには、圧力や湿度、温度、赤外線、加速度、地磁気などを計測するセンサ素子が搭載されている。これに、同社が提供するソフトウエア「TivaWare™」を組み合わせれば、モーション・センシングや環境センシングのアプリケーションが開発できるとする。TM4C123Gとセンサ・ハブ・ブースタパックを合わせたセットの価格は59.99米ドルである。なお現在同社は、期間限定の販促価格として同セットを49.99米ドルで販売している。
TIは、温度センサを製造しているものの、そのほかのセンサ素子はほとんど取り扱っていない。一方、マイコン市場で同社と競合する半導体メーカーの多くは、センサ素子も製造している。つまり、TIは、マイコンとセンサ素子をまとめて電子機器メーカーに納入できない。すなわち、同社は、センサ・ハブ/センサ・フュージョン市場では、独立系のマイコン・メーカーということになる。同社は、「この独立系のメーカーという立ち位置が、センサ・ハブ/センサ・フュージョン市場では強みになる」と見ている。なぜならば、センサ素子メーカーが作成する評価ボードや開発キットに搭載するマイコンを選択する場合、センサ素子メーカーにとって多くのマイコン・メーカーが競合関係になってしまうからだ。
実際に、同社ではすでに独立系の強みによるメリットを享受し始めている。米Microsoft社が提供するパソコン用OS「Windows 8」におけるセンサ・フュージョン機能の認証試験において、一部のセンサ素子メーカーがTIのマイコンを採用しているのだ。例えば、ジャイロ・センサの主要メーカーなどである。この認証試験では、マイコンを含めた機能全体が対象となる。従って、このメーカーのジャイロ・センサが採用されれば、それと一緒にTIのマイコンも使われる可能性が高い。
センサ・ハブやセンサ・フュージョンの市場は、今まさに本格的な立ち上がり時期を迎えている。TIでは、マイコンの製品力に加えて、独立系という立ち位置の強みを生かして同市場でのシェア拡大を狙う。
TI eStore:記事中で紹介されている「TM4C123Gローンチパッド」評価キット、「センサ・ハブ・ブースタパック(BOOSTXL-SENSHUB)」は、TIのオンラインストアから簡単に購入可能です。
※Tiva、TivaWareおよびMSP430はTexas Instruments Incorporatedの商標です。その他すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年3月31日
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