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知ってるつもりの外国事情(1)――世界がお手本にするシリコンバレー津田建二の技術解説コラム【海外編】

日本の企業の方にシリコンバレーのお話をすると、「日本とは違いますよ」とか、「日本には日本の良さがある」とか、アタマから否定されることがよくあります。ではなぜ今、日本の産業は活発ではないのでしょうか。なぜ、活気を取り戻そうとしないのでしょうか。なぜうまく行った地域のビジネス習慣を取り込もうとしないのでしょうか。なぜ成功例を活用しないのでしょうか。なぜ日本だけで考えようとするのでしょうか。

» 2013年12月09日 10時00分 公開
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シリコンバレーはやはり特別な存在

 世界を取材すると、シリコンバレーはやはり特別な存在であることに気が付きます。世界のナノエレクトロニクスの頭脳が集結する、ベルギーの半導体研究所IMECは、シリコンバレーをモデルにして作られました。累計で350億個という膨大な数量のマイクロプロセッサコアを出荷したアーム社が本拠地を構える英国のケンブリッジや、ブリストルはシリコンバレーをモデルにして、ベンチャーキャピタルが集まりやすい環境を整えたり、ベテランの知恵を活用したりするような仕組みを整えています*)。欧州大陸では多くの半導体産業が集結するドイツのドレスデンはシリコンバレーをモデルにして産業集積のエコシステムを作り上げました。世界で活気のある場所は、どこもシリコンバレーをモデルにしています。つまり、製造業を活性化させる仕組みは、シリコンバレーにあります。ロサンゼルスでもニューヨークでもありません。

【図1】シリコンバレーの一角 出典:Silicon Valley Leadership Group

 米国内でもシリコンバレーに集まります。東海岸のボストンにあるハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグ氏は、facebook社をボストンではなく、西海岸のシリコンバレーに設立しました。電気自動車のテスラモーターズ社の創立者でCEOのイーロン・マスク氏は、自動車産業のメッカであるデトロイトではなくシリコンバレーに本社を設立しました。グーグルやアップルはもちろん最初からシリコンバレーで事業を始めました。シリコンバレーにはスタンフォード大学(図2)、カリフォルニア大学バークレー校など有名校がそろっていることも強みです。

【図2】シリコンバレーのメッカ、スタンフォード大学

 最近、シリコンバレーに新たに拠点を設ける企業が加速しています。11月19日にはドイツのダイムラー社が研究開発拠点をシリコンバレーに開設したことを発表しました。韓国のサムスン電子は、シリコンバレーに20階建ての研究開発拠点の着工に入っています。日本でもNTTが営業拠点を、ソフトバンクも拠点をシリコンバレーに設置する計画を最近明らかにしました。

 ビジネスを活性化するためにはシリコンバレーの仕組みなり、考え方なりを採り入れることが不可欠なのです。日本流へのこだわりに縛られると、ガラパゴス化してしまいます。ノーベル賞を受賞した山中伸弥教授の研究テーマであるiPS細胞の臨床化やビジネス化は、シリコンバレーでは既に何十社も我先にと競い合っているそうです。京都や国内だけで閉じこもっていては、これまでリードしてきたiPS細胞の実用化さえ、米国に先を越されてしまう恐れがあります。

シリコンバレーはなぜ、活性化しているのか

 シリコンバレーはなぜ、こんなにも活性化しているのでしょうか。「I have a dream」で始まるマーチン・ルーサー・キング牧師の演説で謳われた、差別のない社会こそが、実は今のシリコンバレーなのです。ここでは、男女差別も、国籍差別も人種差別もありません。逆にそのようなことをしては、競争に負けてしまうからです。優秀な人なら男女も国籍も関係なく雇用します。ここに強さの源泉があります。

 元サンノゼ・マーキュリー紙の記者で現在、SVL(Silicon Valley Leadership)Groupのコミュニケーションズ担当バイスプレジデントであるSteve Wright氏(図3)によれば、シリコンバレーのハイテク企業に働く365人のCEOにアンケート調査をしたところ、有効回答188人の内、自らの企業で働くアメリカ人と、外国人の数の比率は47対53で、アメリカ人の方がやや少ないという結果でした。同様に男性と女性の比率も49%対51%、と女性の方がやや多かったのです。

【図3】Silicon Valley Leadership Group VPのSteve Wright氏

 有名な外国人も多いことも特長です。グーグルの創業者であり会長であるSergey Brin氏はロシア人、Intel元会長のAndrew Grove氏はハンガリー出身者、ヤフーの創業者であるJerry Yang氏は台湾出身者です。ヤフーの現CEOは女性のMarissa Mayer氏です。

 この調査では、シリコンバレーのメリットについてもヒアリングしています。第1位は能力の高い社員を獲得できる、第2位は企業家精神が旺盛、第3位は顧客・ライバルに近い、となっています(図4)。その半面にデメリットは何でしょうか。その第1位は従業員の雇用維持、第2位は従業員への住居コスト、第3位はビジネス上の規制、です。つまり、メリットとデメリットの第1位は同じことを表しています。シリコンバレーは簡単に人を採用できる反面、簡単に人が辞めてしまいます。

【図4】シリコンバレーでビジネスをする上でのメリット(上)とデメリット(下) 出典:Silicon Valley Leadership Groupのデータを元に津田建二が加工

流出しても、新技術をどんどん開発していけばよい

 にもかかわらず、なぜビジネスが活発なのでしょうか。それは、技術が流出することはやむを得ないでしょうが、それよりも新技術をどんどん開発していけばよいのです。流出した技術を解析しそれをマネして製品を作るとしても、その製品ができたころにはもうその技術は陳腐化しています。技術流出を心配して囲い込んでもいずれどこからか流れ出てしまいます。その典型的な失敗例はシャープの液晶技術でしょう。シャープは1990年代から2000年までトップを占めていましたが、三重県亀山工場の技術を門外不出にしました。しかし、2002年には第3位、2005年には4位、2007年には5位に後退、急速に低下していきました。

 技術の流出を心配することなく次々と新技術を開発する企業が出てくるようにすればよいのです。そのためには、未来の役立ちそうなシステムや世界のトレンド、人間としての自然の願望などからシステムを想像し仮説を立て、そのシステムに合う半導体チップを開発するのです。その想像力(仮説)が正しいかどうかは、多くのカスタマの方々と意見交換して修正したり追加したりします。これが顧客の声に耳を傾けるということです。

 シリコンバレーでは、もはや半導体製造を手掛ける企業は少なくなりましたが、ITを含むハイテク企業はいまだに多く集まってきています。ネーミングとしていまだにシリコンを用いているのはなぜでしょうか。シリコンがITやシステム、サービスなどの基礎になっているからです。少なくともシリコンを使うハイテク企業の集積は止まりません。この10月に訪れた時は、サムスンが20階建ての研究開発拠点を築く工事の真っ最中でした。高い建物でもせいぜい3~4階建てしかなかったシリコンバレーにおいて20階建てがふさわしいかどうか分かりませんが、韓国の企業が単なるセールスオフィスではなく、シリコンバレーでの研究開発に腰を据えていると感じました。

残念ながら日本の半導体企業は……

 残念ながら日本の半導体企業は、シリコンバレーから続々引き揚げました。日本の工場は雇用の問題などで処分しにくい、という理由だけで、処分問題を先送りしてきました。しかし、最近のパナソニックの7000人のリストラ計画や、国内の半導体工場を二束三文で売却するというニュースを見ていると、首を傾けざるを得ません。ルネサスや富士通セミコンダクターなどの日本の半導体メーカーは、なぜ日本の工場を先に処分し、シリコンバレーの工場を残さなかったのか、ということです。シリコンバレーの活力は、やがて日本の本社にも影響を与えると考える経営者がいれば、ここまでひどい状態にならなかったでしょう。

 このような日本の半導体企業をしり目に、シリコンバレーの活性化は続きます。Wright氏に聞いてみると、シリコンバレーは少なくとも10年は隆盛を続けるだろう、と言っていました。


*)参考資料:津田建二著、「欧州ファブレス半導体の真実」、日刊工業新聞社発行、2010年11月

Profile

津田建二(つだ けんじ)

現在、フリー技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長。

30数年間、半導体産業をフォローしてきた経験を生かし、ブログや独自記事において半導体産業にさまざまな提言をしている。




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提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年5月31日


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