新生「インターシル」が好調だ。
2013年初頭。同社は、経営戦略の再定義(Redefining)に取り組んだ。経営リソースを重点的に投下する市場分野と製品分野を見直したわけだ。その結果として選択したのが、モバイル機器や通信インフラ機器、高信頼性電子機器に向けたパワー・マネジメント製品である。
もともとインターシルにとって、パワー・マネジメント製品は「お家芸」である。例えば、パソコンのマイクロプロセッサに電力を供給する電源ICでは、同社独自の技術を擁し、競合他社に対して非常に強い立場を築いている。この他にも、「特長ある電源関連の設計資産(IP)を数多く抱えている」(同社 Senior Vice President、Mobile Power ProductsのAndrew Cowell氏)という。
しかも、パワー・マネジメント分野の将来は明るい。同社によると、モバイル機器向けパワー・マネジメント製品の市場規模は、年率20%で成長し、2016年には60億米ドルに達する見込みだ。通信インフラ機器や産業機器に向けたパワー・マネジメント製品は、2016年に年率10%増の26億米ドル。車載用電子機器や航空宇宙用電子機器に向けたパワー・マネジメント製品は、2016年に年率7%増の16億米ドルに拡大すると予想される。
高い技術力を備えている上に、市場の将来性は極めて明るい。インターシルは2014年に、複数の新製品をパワー・マネジメント市場に投入する予定だ。そして、モバイル機器や通信インフラ機器などの重点市場においてデザイン・ウィンの獲得を目指す。2015年には、市場における立場を確固たるものにする考えだ。
同社は2014年4月に、こうしたロードマップの1歩目となる新製品を発表した。スマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器に向けた昇降圧型DC/DCコンバータIC「ISL911xx」と、通信インフラ装置などに向けたデジタル電源モジュール「ISL8270M/71M」である。いずれも、同社独自の技術が採用されており、競合他社品を凌駕する性能を実現している点が特長だ。それでは、2つの製品を紹介しよう。
昇降圧型DC/DCコンバータIC「ISL911xx」の特長は、4つのパワー・スイッチをHブリッジ状に接続した構成を採用した点にある。昇降圧型DC/DCコンバータは2つのパワー・スイッチでも実現できる。しかし、その場合はインダクタの使用個数が増えて、電源回路の実装面積がかさんでしまう。一方、4つのパワー・スイッチで実現すれば、インダクタの使用個数を1個に減らせ、実装面積を削減できる。
4スイッチ構成を採用した昇降圧型DC/DCコンバータICを製品化するのは、インターシルだけではない。競合他社も市場に投入している。しかし、競合他社品を上回る性能を備えているという。同社のCowell氏によると「一般に4スイッチ構成では、昇圧モードと降圧モードの切り替えが難しく、その際にグリッチが現れやすい。今回の製品は、競合他社品に比べて、グリッチは極めて小さく、各モード間をスムーズに移行できる。さらに、負荷急変時の過渡応答特性に優れている」という。
変換効率が高いことも特長の1つだ(図1)。ピーク値で96%が得られる。さらに軽負荷時の変換効率も高く、85〜90数%程度である。これには、集積したパワー・スイッチの低オン抵抗化が大きく寄与した。pチャネル型のMOSFETが40mΩ(標準値)、nチャネル型が30mΩである。それぞれを2個ずつ搭載した。
入力電圧範囲は+1.8〜5.5V。出力電圧範囲は+1.0〜5.2V。出力電圧の誤差は±2%(最大値)である。例えば、出力電圧は+2.5〜4.35Vの範囲で変化する単セルのLiイオン2次電池から、+3.4Vの電圧を作成して出力できる(図2)。スイッチング周波数は2.5MHzと高い。既に同社は、4スイッチ構成の昇降圧型DC/DCコンバータICを製品化していたが、今回は最大出力電流を引き上げた。最大出力電流の違いで2製品ある。「ISL91110」は2A。「ISL91108」は1.5Aである。ISL91110のパッケージは、実装面積が2.33mm×2.07mmと小さい25端子WLCSP。ISL91108は、実装面積が2.34mm×1.72mmの20端子WLCSP。動作温度範囲はいずれも−40〜+85℃である。
もう1つの新製品であるデジタル電源モジュール「ISL8270M/71M」の特長は、使い勝手の良さにある。出力電圧を安定化するフィードバック・ループの位相補償回路は不要だ。このため、「複雑な設計用方程式を解く必要もなければ、外付け部品もいらない」とCowell氏はいう。
実現できたポイントは、新しい制御方式にある。同社は「ChargeMode」制御方式と呼ぶ(図3)。位相補償回路がいらないヒステリシス制御方式とはまったく違う方式で、電圧モード制御方式や電流モード制御方式と同じリニア制御方式の1種だという。出力コンデンサに蓄えられた電荷を監視し、足りなければ急いで補充し、十分であれば補充を止めるといった制御を行う。
さらに、ChargeMode制御方式には、負荷急変時の過渡応答特性が極めて高いというメリットもある。同氏によると、「急激な負荷変動があっても、1サイクルで応答できる」という。
モジュールには、同社のデジタル電源制御ICの第4世代品である「ZL8800」の他、パワー・スイッチやインダクタなどを収めた。外形寸法は、17mm×19mm×3.5mmと小さい。入力電圧範囲は4.5〜14V、出力電圧範囲は0.6〜5V。出力電圧の精度は、全入力電圧変動範囲と全負荷変動範囲、全動作温度範囲において±1%と高い。最大出力電流はISL8270Mが25A、ISL8271Mが33Aである。変換効率は、12V入力、1V/25A出力時に86.5%に達する。
小さな外形寸法ながら、大きな出力電流が得られた理由は、新しいパッケージ技術にある(図4)。今回新たに採用した技術で、銅製のリードフレームの上に電源部品を直接実装するというものだ。電源部品とプリント基板の間の熱抵抗を低減できるため、放熱特性を大幅に高められる。この結果、小型ながら大きな出力電流が得られるようになった。
例えば、既存の電源ICを使った60A出力の電源モジュールでは、体積が22875mm3(65.5mm×31.75mm×11mm)もあったが、今回のモジュールを2つ使った66A出力の電源モジュールでは2261mm3で実現できる。1/10の体積で実現できるわけだ(図5)。
なお、デジタル電源制御を採用しているがプログラミングは不要だ。同社が無償で提供しているGUIツール「PowerNavigator」を使って、ドラグ&ドロップの作業だけで電源の各種設定が完了する(図6)。
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提供:インターシル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年6月6日