青色発光ダイオード(LED)の発明で赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3氏がノーベル物理学賞を受賞しました。今回は特に実用化という意味が世の中にインパクトを与えたと思います。これまでもノーベル賞を受賞した半導体デバイスがいくつかあります。今回は、ノーベル賞を受賞した半導体デバイスで実用的に社会に大きなインパクトを与えたものを拾ってみました。
半導体デバイスは、トランジスタの発明から発展しました。1956年にノーベル物理学賞をウィリアム・ショックレー氏と、ジョン・バーディーン氏、ウォルター・ブラッテイン氏の3人が受賞しました。2014年には、青色発光ダイオード(LED)の発明で3人の日本人が受賞しました。赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏です。今回は特に実用化という意味が世の中にインパクトを与えたと思います。
ノーベル賞を受賞した半導体デバイスを振り返ってみましょう(表1)。米国のベル電話研究所の3人がトランジスタ効果を発見したことで受賞しましたが、トランジスタが社会に与えたインパクトは極めて大きかったといえます。そのトランジスタは1947年12月、ジョン・バーディーン氏とウォルター・ブラッテイン氏の2人が、上司であったウィリアム・ショックレーの留守中に点接触トランジスタで増幅作用を見つけました。上司のショックレーは留守中の出来事に自分は増幅作用の発見に立ち会えなかったという悔しさから、点接触トランジスタは信頼性が低く、工業的に実用化しにくいと考えました。そこで思い付いたアイデアが、今日の半導体集積回路の原点となる、接合型トランジスタです。これを考案し、実験を繰り返したのち、成功にたどり着きました。ショックレー氏がノーベル賞を受賞できたのは実用的なトランジスタを作ったからです。
受賞年 | 受賞内容 | 受賞理由 | 受賞者 |
---|---|---|---|
1956 | 物理学賞 | トランジスタの発明 | J.バーディーン、W.ブラッテイン、W.ショックレイ |
1973 | 物理学賞 | トンネル効果の実証 | 江崎玲於奈、I.ジェーバー、B.ジョゼフゾン |
1986 | 物理学賞 | 走査型トンネル顕微鏡 | G.ビニッヒ、H.ローラー |
2000 | 物理学賞 | 集積回路の発明 | J.キルビー |
2000 | 物理学賞 | 半導体ヘテロ接合開発 | Z.アルフェーロフ、H.クレーマー |
2000 | 化学賞 | 導電性高分子の発見 | 白川英樹 |
2009 | 物理学賞 | CCD | W.ボイル、G.スミス |
2010 | 物理学賞 | グラフェン | A.ガイム、K.ノボセロフ |
2014 | 物理学賞 | 青色LEDの発明 | 赤崎勇、天野浩、中村修二 |
今回の青色LEDも似ています。GaN材料を使って青色LEDの研究を行っていたのは当時名古屋大学教授の赤崎氏と学生の天野氏でした。当時の青色LEDの開発は、ZnSeなどのII-V族半導体とIII-V族のGaNという半導体の競争がなされていました。II-VI族半導体は本来の半導体特性に求められる共有結合ではなく、イオン結合も含まれていました。イオン結合はちょっとしたイオン性の不純物を引き込みやすいという性質がありました。II-VI族半導体はエネルギーバンドギャップが青色波長に相当する高いエネルギーを持つ材料構成を選び、開発されていましたが、イオン性の汚染不純物に悩まされていました。すなわち、きれいな結晶ができないためにダイオードができないのです。そのような中、GaNを選んだ赤崎教授らは青色LEDを光らせることに成功しました。ただし、光は弱く実用化には時間がかかりそうでした。
そのような時に徳島の日亜化学工業の中村氏がGaNを用いて明るい青色LEDの開発に成功しました。中村氏が考案したとされる、2層のガスの流し方できれいな結晶ができ、明るい青色が発光したとされました。その後、天野氏も追試してみると確かに明るい青色が得られたようです。その後はII-VI族半導体はすたれていきました。つまり、3人ともGaNを選んで研究していました。
トランジスタも青色LEDも実用化で大きな産業を生み出し、社会の大きく貢献しました。ノーベル賞を受賞した半導体デバイスで実用的に社会に大きなインパクトを与えたものを拾ってみました。
トランジスタによる受賞後、1973年当時IBMにいた江崎玲於奈氏がトンネル効果で受賞しました。江崎氏はトンネルダイオードを作製、それをエサキダイオードと名付けました。エサキダイオードはpn接合にかけた電圧を上げていくと電流値が下がっていくという負性抵抗が見られ、ここにバイアス点を持ってくることで発振器として使えました。マイクロ波の発振器として、ある程度の数は売れましたが、しょせんはダイオードですから入出力分離ができず、GaAsトランジスタに置き換えられました。
2000年にはテキサス・インスツルメンツ社のジャック・キルビー氏が集積回路を発明したとして受賞しました。彼がICを発明した頃、フェアチャイルド社のロバート・ノイス氏(のちにインテル社の社長)も集積回路を発明しましたが、2000年以前にこの世を去り、受賞はかないませんでした。IC発明のインパクトは言うまでもなく、果てしなく大きく社会を変えました。これからも変えていくでしょう。
2009年にベル研究所のウィラード・ボイル氏とジョージ・スミス氏がCCD(charge coupled device)でノーベル物理学賞を受賞しました。これもCCDメモリとして実用化されましたが、アルファ粒子によるソフトエラーに弱く、高集積メモリとして使えませんでした。その後、カメラ(撮像素子)としての用途を求めて、日本が実用化に成功しました。ソニーのハンディカムに搭載され、小型カメラの元を作りました。しかし、現在はCCDからCMOSセンサーにとって代られ、実用化された期間は短命に終わりました。
これからの未来に向けて、まだ実用化されていませんが、期待されるデバイスあるいはデバイス材料もあります。2000年に東京工業大学の白川英樹教授は導電性高分子の発見でノーベル化学賞を受賞しましたが、これはプラスチックエレクトロニクス、有機エレクトロニクスあるいはラージエレクトロニクスの能動デバイスとして期待されているものです。
もう1つ採り上げておきたいのが、2010年にオランダのアンドレ・ガイム氏とロシアのコンスタンチン・ノボセロフ氏がノーベル物理学賞を受賞した「グラフェン」材料です。これはC原子を2次元状に広げた形を持つ共有結合材料で、金属的だったり、半導体的だったりする性質を持ちます。この材料が半導体デバイスとして、あるいはシリコン半導体ICの電極配線材料として、実用化されるかどうかこれからですが、楽しみな材料であることに違いありません。
青色LEDのインパクトは、R(赤)、G(緑)のLEDにB(青)を加えたことではありません。青色LEDに黄色の蛍光体材料を塗ると白色光に代わり、照明として使えるというメリットです。なぜ黄色を加えて白色になるのかは、RとGの光を混ぜると黄色になるから黄色と青を混ぜると白色になると考えると分かりやすいでしょう。
白色LEDは白熱灯や蛍光灯に代わる低消費電力のランプとして実用化されてきています。しかし、そのインパクトはこれからです。これまでのLEDランプはただ単に白熱灯や蛍光灯を置き換えただけです。これからは、照度センサーと組み合わせて、LEDの照度を自由自在に変えられる光源として使う、いわゆるスマート照明の主役になっていくでしょう。
例を挙げましょう。オフィスの部屋や教室など太陽光も入る部屋では、窓の近くのLED照度を下げ、部屋の奥側の照度を上げ、部屋の明るさを一定にします。これは省エネにもなります。この操作は人が行うのではなく、センサーで照度を感知して自動的に照度を変えるのです。人がいない部屋の電気を消しておくこともできます。人を感知したらつけるのです。この応用では蛍光灯を使った例はありますが、蛍光灯はつくのが遅く、暗い場所に踏み込むことに少し躊躇(ちゅうちょ)します。LEDだと瞬時につくので、安心できます。
トンネル内に設置する応用も考えられています。天気の良い日にクルマでトンネルに入る時に一瞬見えなくなることがあります。トンネル側にセンサーを置き、クルマを検知したら入り口近くを明るくしておけばよいのです。クルマがトンネル内に入ってしまえばLEDライトを消すと電力を無駄にしません。
クルマのハイビームとロービームの切り替えを自動的に行うこともできます。こちらのクルマの照度センサーが対向車を検知すると、ロービームへ自動的に切り替えます。まぶしすぎるという危険性は和らぎます。
こういったスマート照明が可能になるのは、LEDが電力の供給量だけで明るさを瞬時に変化できるからです。蛍光灯は、放電を利用していますので常に電圧を一定に保たなければならず調光(明るさを調整すること)はできません。LEDは消費電力が低いだけではなく、不要な時に暗くしたり消したり自動的に行うことができますので、さらに消費電力の削減に役立ちます。スマート照明への期待はこれからです。楽しみになってきます。
現在、フリー技術ジャーナリスト、セミコンポータル編集長。
30数年間、半導体産業をフォローしてきた経験を生かし、ブログや独自記事において半導体産業にさまざまな提言をしている。
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提供:ルネサス エレクトロニクス株式会社 / アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年5月31日
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