センサを搭載する電子機器には不可欠なADコンバータ。自然界のアナログ・データをデジタル・データに変換し、後段に続くデジタル信号処理チップに引き渡す重要な役割を担っている。
これまでADコンバータは、とかくサンプリング速度や分解能、線形性(リニアリティ)、ノイズなどの基本性能が重視される傾向があった。しかし最近、様相に変化が生じ始めている。新たなアプリケーションが出現しているからだ。この結果、低消費電力化や小型化についても基本性能とともに要求が厳しくなっている。
それらは、どのようなアプリケーションなのか。具体的には2つある。1つは、トリリオン・センサだ。スマートフォンや腕時計、ヘルスケア機器などに加えて、自動車やビル、橋などのあらゆるモノにセンサを取り付けてデータを収集してインターネットを介してクラウド上にアップし、さまざまなサービスに活用しようというものだ。ウェアラブル機器などにセンサを搭載する必要があるため、低消費電力化と小型化の両方が強く求められている。
もう1つは、非FA系ロボットである。自動車工場などで使われるFAロボットではなく、人間のすぐ近くで使われる介護ロボットやコミュニケーション・ロボット、セラピー(癒やし)・ロボットなどである。ロボットという用途であるが、小型化が強く求められる。一般住宅や病院などで使われるため、設置スペースが限られるからだ。従って、モーター駆動/制御回路の一部としてロボットに組み込まれるADコンバータも、小型化が必要だ。
今回、テキサス・インスツルメンツ(TI)では、トリリオン・センサなど向けと非FA系ロボットなど向けのADコンバータを新たに製品化した。以下で、それらの製品の詳細を見ていこう。
現在、トリリオン・センサに対するエレクトロニクス業界の注目度は極めて高い。この市場が順調に成長すれば、ゆくゆくはその名の通り1兆個ものセンサ・モジュールが普及するからだ。市場規模は極めて大きい。
しかし、そう簡単に問屋は卸さない。トリリオン・センサ市場を本格的に拡大させるには、さまざまな課題を解決しなければならない。課題の1つに、電源がある。1兆個ものセンサ・モジュール1つ1つに、電源ラインを敷設するのは現実的ではない。多くのセンサ・モジュールは電池で駆動することになるが、コイン型の1次電池などを採用した場合は、その交換コストが膨大な額に達してしまう。
そこで、こうした課題を解決する技術として期待を集めているのが「エネルギー・ハーベスト」である。太陽光や温度、振動、電波などから電力を回収し、内部の電子回路を駆動する電源と活用しようというものだ。しかし現在、エネルギー・ハーベスト技術で回収できる電力量は非常に少ない。従って、その電力を効率的に使う技術の開発も同時に求められている。
トリリオン・センサに向けたセンサ・モジュールは、センサ素子やマイコン、無線通信回路、シグナル・コンディショニング回路などの要素で構成される。つまり、こうした各要素の消費電力を削減することで、エネルギー・ハーベスト技術で回収した電力を効率よく使うわけだ。
今回TIは、シグナル・コンディショニング回路の一部に使うADコンバータの大幅な低消費電力化を達成した。最大サンプリング速度が1Mサンプル/秒で、分解能が12ビットのADコンバータIC『ADS7042』である(図1)。
逐次比較(SAR:Successive Approximation Register)型を採用したADコンバータである。最大の特長は、消費電力が690μWと極めて低いことだ。TIの従来品や競合他社品と比較すると約半分に削減した(図2)。しかも電源電圧は、アナログ回路部が1.8V〜3.6V、デジタル回路部が1.65V〜3.6Vと低いため、エネルギー・ハーベスト技術で回収した電力を蓄えた電池で直接駆動できる。
プリント基板上の実装面積が1.5mm×1.5mmと小さいことも特長の1つである。競合他社品に比べると約40%減を達成した。「センサ・モジュールは、スマートフォンやウェアラブル機器、ヘルスケア機器などにも搭載される。そのため小型化が強く望まれていた」という。
低消費電力化と小型化。この2つの特長を実現できたポイントは、製造プロセスとアナログ回路設計の工夫にある。「高いアナログ特性を実現しつつ、デジタル回路をコンパクトにできる製造プロセスを採用した。回路設計については、消費電力を抑える工夫を盛り込んだ」という。
アナログ特性については、積分非直線性誤差(INL)と微分非直線性誤差(DNL)がいずれも±1LSB、SN比が70dB、全高調波歪み(THD)が−80dBである。12ビット分解能のADコンバータとしては高水準に達しているという。
モーター制御などに向けて、TIが製品化したADコンバータICが『ADS8354ファミリ』である。SAR型を採用しており、ADコンバータ回路を2個集積したデュアル品である。2つのADコンバータ回路は、同期駆動が可能だ。最大の特長は、実装面積が3mm×3mmと小さい16端子QFNに封止したことだ。「同期駆動が可能なデュアル品としては、業界最小の実装面積を実現した」という。設置スペースに制約がある小型モーターの駆動/制御回路に最適だ。消費電流は、700kビット/秒動作時に10mAと比較的大きい。このため、電池駆動機器には向かない。
最大サンプリング速度と分解能、アナログ入力形式の違いで11製品を用意した(図3)。16ビット分解能品は3つある。最大サンプリング速度が750kサンプル/秒で疑似差動(シングルエンド)入力の『ADS8350』、最大サンプリング速度が600kサンプル/秒で疑似差動(シングルエンド)入力の『ADS8353』、最大サンプリング速度が700kサンプル/秒で完全差動入力の『ADS8354』である。
14ビット分解能品は4製品を用意した。最大サンプリング速度が1.5Mサンプル/秒と高く、完全差動入力の『ADS7851』と、最大サンプリング速度が1Mサンプル/秒で疑似差動(シングルエンド)入力の『ADS7853』、最大サンプリング速度が1Mサンプル/秒で完全差動入力の『ADS7854』、最大サンプリング速度が750kサンプル/秒で疑似差動(シングルエンド)入力の『ADS7850』である。
12ビット分解能品も4製品である。最大サンプリング速度が2Mサンプル/秒と高く、完全差動入力の『ADS7251』と、最大サンプリング速度が1Mサンプル/秒で疑似差動(シングルエンド)入力の『ADS7253』、最大サンプリング速度が1Mサンプル/秒で完全差動入力の『ADS7254』、最大サンプリング速度が750kサンプル/秒で疑似差動(シングルエンド)入力の『ADS7250』である。
開発に関する負荷を軽減するリファレンス・デザイン『TIPD117』も用意している。エンコーダ向けで、2チャネルのアナログ信号を取得できる。最大サンプリング速度は1Mサンプル/秒で、分解能は12ビットである。『ADS7854』もしくは『ADS7254』を搭載した。
さらに、回路設計時に実行するシミュレーションに不可欠なSPICEモデルを無償で提供している。TIのシミュレーション・ツール『TINA-TI』などで利用できる(図4)。「TIは、SAR型ADコンバータのSPICEモデルを提供する数少ない半導体メーカーの1つ」という。
このSPICEモデルを使えば、SAR型ADコンバータ特有のチャージ・インジェクション動作をツール上で再現できる。このため、プリント基板を製造する前に、「セトリングが間に合わない」、「リンギングが発生する」などの過渡現象をシミュレーションできる。シミュレーション結果を参考に外付け部品を最適化すれば、トラブルを未然に防げる。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年3月31日
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