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GaN(窒化ガリウム)これだけは知っておきたいアナログ用語

» 2015年03月31日 00時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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GaN(窒化ガリウム)

 GaN(窒化ガリウム)とは、次世代パワー・デバイス(パワー半導体)に用いられる半導体材料のこと。GaNパワー・デバイスを、既存のSi(ケイ素)パワー・デバイスの代わりにDC/DCコンバータやインバータなどの電源装置に搭載すれば、電力変換効率の向上や装置の小型化などを実現できる。SiC(シリコン・カーバイド)とともに、次世代パワー・デバイスを実現する材料として普及が期待されている。

 なお2014年10月に赤崎勇氏(名城大学教授)、天野浩氏(名古屋大学教授)、中村修二氏(米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)がノーベル物理学賞を受賞したテーマである「青色LED(発光ダイオード)」も、GaN材料を用いた半導体デバイスである。

極めて高い材料特性

 GaN材料を用いれば、なぜSi材料を用いたパワー・デバイスを使った場合よりも、電源装置の変換効率を高められると同時に、小型化も実現できるのか。その理由は、材料の基本特性が非常に高い点にある(表1)。バンドギャップは3.4eVと大きく、Si材料の約3倍。絶縁破壊電界は3.5×106V/cmと高く、Si材料の約10倍。飽和ドリフト速度は2.7×107cm/sと高速で、Si材料の約3倍である。従って、GaN材料でパワー・デバイスを作成すれば、低オン抵抗化と、高耐圧化、スイッチング速度の向上を、すべて同時に達成できる。こうしたGaNパワー・デバイスをDC/DCコンバータやインバータなどの電源装置に搭載すれば、導通損失とスイッチング損失の両方を削減できる。その結果、変換効率を大幅に高められるわけだ。さらに、スイッチング周波数を高く設定できるため、インダクタやコンデンサなどの周辺部品に小型品の採用が可能になり、外形寸法の小型化を実現できる。

表1 GaNの材料特性
材料特性 GaN(窒化ガリウム) SiC(シリコン・カーバイド) Si(シリコン)
バンドギャップ 3.4eV 3.26eV 1.12eV
比誘電率 9.5 9.7 11.9
絶縁破壊電界 3.5×106V/m 2.7×106V/m 3.0×105V/m
飽和ドリフト速度 2.7×107cm/s 2.2×107cm/s 1.0×107cm/s
電子移動度 900cm2/V・s 1000cm2/V・s 1350cm2/V・s
熱伝導率 2W/cm・K 4.9W/cm・K 1.5W/cm・K

 このほかにも、GaNパワー・デバイスを電源装置に適用したときに得られるメリットがある。具体的に3つの例を挙げよう(図1)。第1に、入出力の静電容量(キャパシタンス)が低いことだ。このため、方形波状の電流/電圧波形でスイッチングする「ハード・スイッチング」を採用した場合でも、スイッチング損失を低減できる。さらにハード・スイッチング、もしくは電圧/電流がゼロになるタイミングでスイッチングを実行する「ソフト・スイッチング」を採用したDC/DCコンバータにおいて、スイッチング周波数を高められるというメリットも享受できる。

 第2に、逆回復電荷をほぼゼロに抑えられることである。このためトーテムポール型の力率改善(PFC:Power Factor Correction)コンバータなどの新しい回路トポロジーを実現できるようになる。第3に、スイッチング損失を大幅に削減できることである。ゲート-ドレイン間の容量が小さいため、電圧波形の遷移時間を大幅に短縮できるからだ。このため、スイッチング周波数の向上、もしくは放熱の簡略化などが可能になる。さらに、オーディオ機器のパワー・アンプに使用すれば、波形の歪みを削減でき音質を高められる。

photo 左上図は、出力電荷量(Qoss)とオン抵抗(Ron)の積を比較したグラフ。積が小さい方が電力損失を抑えられる。GaNパワー・デバイスは、スーパー・ジャンクション型SiパワーMOSFETの1/5程度である。右上図は、逆回復電荷の比較である。これが大きいと電力損失が増える。GaNパワー・デバイスはほぼゼロである。下図は、ハード・スイッチングにおける電流波形と電圧波形である。この重複部分でスイッチング損失の大きさが決まる。GaNパワー・デバイスは電圧波形の遷移時間が短いため、重複部分を小さくできる。そのためスイッチング損失を低減できる

HEMT構造を採用

 GaNパワー・デバイスでは、HEMT(High Electron Mobility Transistor)構造を採用するケースが多い。GaN材料は、イオン注入によって高品質のp型層を形成することが難しいため、MOSFETやJFETといった素子構造を実現しづらいからだ。

 もちろんHEMT構造でもパワー・デバイスを実現でき、良好な特性が得られる。しかし1つだけ、大きな問題がある。それは、実現可能なパワー・デバイスが、ゲートに電圧を印加していない状態で電流が流れる「ノーマリ・オン」であることだ。ノーマリ・オンでは、何らかの原因で故障が発生したときに、電流が流れ続けてしまう。パワー・デバイスでは大きな電力を扱うため、非常に危険だ。そこで、素子構造や周辺回路を工夫して、「ノーマリ・オフ」を実現する必要がある。

 この問題は最近になって、解決されつつある。ノーマリ・オフ動作を実現できる「GIT(Gate Injection Transistor)」などの素子構造が登場したり、周辺回路の工夫でノーマリ・オフが実現可能になったりしているからだ。

 GaNパワー・デバイスの製品化はすでに始まっている。耐圧は600V以下の製品が多い。一方で、もう1つの次世代パワー・デバイスであるSiCパワー・デバイスは600Vを超える耐圧範囲の製品が多い。このため、両者は600V耐圧を境に棲み分けるという見方が一般的だ。ただし、GaNパワー・デバイスでも、研究開発の段階だが、1kV耐圧を超える素子が試作されている。SiCパワー・デバイスと棲み分ける耐圧レベルがより高くなる可能性もある。

使い勝手の向上も進む

 さらに、GaNパワー・デバイスと、そのゲート・ドライバを1パッケージに収めたモジュール品の製品化も始まった。テキサス・インスツルメンツ(TI)が2015年3月にサンプル出荷を開始したGaN FETモジュール「LMG5200」である。ハイサイド・スイッチとローサイド・スイッチに向けた2個のGaN FETチップとともに、ゲート・ドライバ・チップを1パッケージに封止した。いわゆる「パワー・ステージ(電力変換段)」モジュールである。

 GaNパワー・デバイスは製品化されてから間もないため、使い方が広く知れわたっていない。しかも、GaN FETチップの駆動は技術的に難しい。慣れないエンジニアが使用すると、GaNパワー・デバイス自体を壊してしまう危険性が高い。TIのGaN FETモジュールを採用すれば、こうした課題をクリアすることが可能になる。

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提供:日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年3月31日

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