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USB Type-C、機器設計には多機能な制御ICが役立つUSB Type-Cの革新、同市場を20年間リードしてきたCypressが解説

USBケーブルを挿入する方向を区別しないことだけが、USB Type-Cの特徴ではない。電力供給でも改善が著しい。これらの特徴を生かした機器を設計するには、多機能な制御ICが役立つ。今回は、Cypress Semiconductorの制御IC「EZ-PD CCGx(Type-C Controller Generation X)シリーズ」について紹介する。

» 2015年11月27日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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 前回はUSB Type-Cに加わった新しい機能とその実現手法について紹介した。Type-Cではプラグを逆挿入ができるようにピン配置を工夫し、自由度の高い電力供給を実現する制御の仕組みを利用できる。

 Cypress Semiconductorは、早くからUSBパワーデリバリに着目していたものの、従来のUSBケーブルとコネクタを用いたパワーデリバリ通信には幾つかの課題があり、市場に広く普及することはないと考えた。Type-Cケーブルとコネクタは違う。これらを用いたパワーデリバリの実現を後押しすると共に、規格仕様策定にも深くかかわり、市場をリードしてきた。

 実際、Type-C Specification Release 1.0が公開された2014年8月のわずか1カ月後には、実物のシリコンを使ったパワーデリバリのデモを実現している。Type-Cのもたらすエンドユーザーへの恩恵は、前回説明した通り明白である。慣れ親しんできた従来のUSBケーブル、コネクタから新しいケーブル、コネクタに移行し、新たな通信が加わること。これはUSBの歴史上、最大規模のイノベーションと言っても過言ではない。

 こうした大きなイノベーションはUSB機器市場を巻き込んで大きなうねりとなり、急速に普及していくだろう。

通信制御用チップを複数提供

 市場の要求を素早く製品につなげられるよう、Cypressは誰よりも早く、ソリューションを提供してきた。それが、通信制御用のポートコントローラー「EZ-PD CCGx(Type-C Controller Generation X)シリーズ」である。

 EZ-PD CCG1と同CCG2は、2015年5月に米オレゴン州ポートランドで行われたUSB-IF*1)主催の最初のE-Marker(EMCA)コンプライアンステストで世界初の認証を取得している。2015年8月には同地で開催された最初のUSBパワーデリバリシリコンのコンプライアンステストで認証を取得した。

 図1にEZ-PD CCGxシリーズの仕様についてまとめた。対象アプリケーションに求められる機能やパワーデリバリの役割などによって、4種類(CCG1〜CCG4)の製品がさらに幾つかに分かれている。CCG1とCCG2は量産中であり、CCG3とCCG4は量産出荷を予定している。

 Type-C/USB PDのポートコントローラーとして求められる機能は、CCG1で既に実現している。そのため、CCG1からCCG4に至るまでポートコントローラー自体の機能として大きな変更はないが、制御可能なポート数やプログラム領域となるフラッシュメモリサイズ、パッケージオプションなどについては各製品で異なる。さらにCCG3はBillboardデバイスクラス対応などの機能を内蔵した高機能のコントローラーとなっている。

*1) USB-IF(USB Implementers Forum):USBの規格標準化団体であり、USB機器間の相互接続性をテストし認証を与えるコンプライアンステストを主催する。

図1 Cypressの提供するType-C/USB-PDコントローラーEZ-PD CCGxシリーズの主な仕様

必要不可欠な機能を1チップに統合

 図2にはCypressのEZ-PD CCGxシリーズからCCG2を選び、ブロック図を示した。ハードウェアは6つのブロックに分かれている。

図2 CCG2のブロック図
  1. MCUサブシステム
     32Kバイトのフラッシュメモリ、4KバイトのSRAMとARMのCortex-M0 CPUコア(32ビット)を搭載。低消費電力動作のために豊富なクロックゲーティングを実装。
     1サイクルで32ビットの結果を得るハードウェア乗算器を含み、32個の割り込み処理が可能な割り込みコントローラー(NVIC)とディープスリープモードからプロセッサを起動することができる割り込みコントローラー(WIC)を備えている。
     後ほど紹介するように、システム内部のEmbedded Controller(EC)とI2C接続することで、ファームウェアをアップグレード可能。Type-Cケーブルを使ったCC(Configuration Channel)信号経由のファームウェアアップグレードにも対応している。
  2. デジタルブロック
     デジタルブロックは2つのサブブロックから構成されている。TCPWM(Timer Counter Pulse-Width Modulator)とSCB(Serial Communication Block)だ。TCPWMは、6つのタイマーに対応している。これらのタイマーはファームウェアによる制御に使用したり、GPIOにPWM機能を与えるために使われる。
     SCBは2ブロック搭載されており、それぞれI2CやSPI、UARTとして構成可能である。
     これらのブロックは、マルチマスター間のアービトレーション(調停)が可能なマスター/スレーブのI2Cインタフェースを実装している。これらのブロックは、1Mビット/秒までの速度で動作することが可能であり、CPUに対する割り込みオーバーヘッドと待ち時間を短縮するためのバッファリングオプションも兼ね備えている。
  3. アナログブロック
     アナログブロックのADC(アナログ・デジタル変換回路)は、VBUS出力のモニタリングだけでなく、過電圧検出(OVD:Over Voltage Detection)、過電流検出(OCD:Over Current Detection)のための入力電圧検知として機能する。
  4. USB PDサブシステム
     USB-PDサブシステムには、DFPデバイスやDRPデバイス*2)に必要なプルアップ抵抗Rpを統合している。UFPデバイスやDRPデバイスに必要なプルダウン抵抗Rdも含む。
     パワーデリバリ時の通信に用いるBMC(Biphase Mark Code)のエンコード、デコードを行っているPHY層、MAC層もこのブロックに属する。
  5. I/Oサブシステム
     CCG2は、EMCA(電子的捺印付きケーブルアセンブリ)の電源入力端子に接続するための2つの電源入力VCONN1とVCONN2を備えている。アプリケーションによってどちらか一方または両方のVCONNを通して電力を供給することになるため、VCONN入力は内部ダイオードを介して一体化(ダイオードOR)され、チップのVDDDに接続される。VCONNが一方からか、または両方からの入力であるかを検知して処理するためにVCONN入力の電圧検出回路を含んでいる。
  6. パワーサブシステム
     CCG2は3つの外部電力供給源をもつ。VCONN1とVCONN2、VDDDである。VDDDは2.7V〜5.5Vで動作可能。その時、VCONNは4.0V〜5.5Vに対応する(Type-Cの仕様ではVCONNは、4.75V〜5.5V)。
     パワーブロックは3つの異なる電力モード(アクティブとスリープ、ディープスリープ)を持っていて、電源システムによってこの電力モード間を遷移する。
     VDDIOは個別の電源ドメインであり、GPIO用に電力を供給している。チップ内部コア電源VCCDはオンチップレギュレータからの出力1.8Vを使用している。

*2) DFP(Downstream Facing Port)は、デフォルトではホストとして機能し電力を供給する側のポート。従来のType-Aコネクタが担っていた役目を果たす。UFP(Upstreaming Facing Port)はデフォルトではデバイスとして機能し電力を受ける側のポート。Type-Bコネクタに相当する。DRP(Dual-Role Port)はDFPにもUFPにもなることができるType-Cポート。

高いプログラマビリティ

 Cypress EZ-PDの主な特徴の一つはプログラムやファームウェアのアップデートがフレキシブルであることだ。開発時から量産、製品出荷後など、どのフェーズでもアップデート可能である。図3では、3種類のアップデート手法を説明している。

図3 CCGxの内蔵ソフトウェアをアップデートする3つの手法
SWDを使う(左)、I2Cを使う(中央)、CC信号を使う(右)

 図3左は、Cypressが提供するプログラムツール「MiniProg3」を使う方法である。この方法では、インタフェース用の信号として電源を含むSerial Wired Debug(SWD)を5ピン用意する。ホストシステムとUSBバスで接続したMiniProg3を経由し、プラグラムする。

 プログラミング用のユーティリティツール「PSoC Programmer」は、Cypressのウェブサイトから無償でダウンロードできる。この方法の特徴は、専用ピンとツールを使うために、最もフレキシブルな対応ができるだけでなく高速なプログラミングが可能なことだ。専用信号やコネクタをボード上に装着する必要があるため、量産時より、開発段階で何度もファームウェアを書き換えて評価する必要がある場合に有効である。

 2つ目の方法は、システム内部のECやMCUと、CCGxをI2Cで接続し、I2C通信を使ってプログラムする方法である(図3中央)。

 このときEC/MCUとCCGxとの間は、Cypressが定義したHost Processor Interface(HPI)というプロトコルで通信する。この方法は、実際に製品で必要な部品のみから構成されているため、開発段階はもちろん最終製品でも使用可能である。

 3つ目の方法(図3右)は、Type-CのCC信号を使い、Type-Cプロトコルでプログラムする方法である。

 ホストであるPCと対象のCCGxを搭載したデバイスをType-Cケーブルで接続するだけでプログラム可能となる。この方法は、プログラム専用信号やECが搭載されていない場合でもホストPCとType-Cケーブルを接続するだけで利用できる。例えばEMCAのPDO(Power Delivery Object)のアップデートなどにはこの方法が有効である。

CCGxを搭載したシステム構成とは

 図4にEZ-PD CCGxを搭載したシステム構成例とプログラム例を示す。

 ホストシステム内のCCGxはECとI2Cで接続されており、CCGxにはI2Cブートローダーが搭載されている。ECからはHPI通信を用いてCCGxをプログラムできる。次にケーブルのEMCA用CCGxに対しては、ホストシステムからCC信号を利用してVDM(Vendor Defined Message)を送り、SOP’またはSOP”通信*3)でプログラムする。EMCA用CCGxにはCCブートローダーが搭載されている。

 クライアントシステム内のCCGxに対しても同様にCC信号経由でプラグラムできる。クライアントシステム内のECからローカルI2Cバスを使ってホストシステム内のCCGxと同様にHPI通信を使ってプログラムすることが可能だ。

*3) SOP’(Start of Packet Sequence Prime)、SOP”(Start of Packet Sequence Double Prime)とは、フレーミング構造の中でDFPがケーブルプラグと通信する場合のパケットを示唆するもの。例えば、プラグの片方だけにターゲットのEマーカーがある場合は、SOP’通信を行う。プラグの両端にそれぞれEマーカーがある場合、DFPのファーエンド(UFPに近い側)のEマーカーとは、SOP”通信を行う。

図4 EZ-PD CCGxを搭載したシステム構成例とプログラム例

自由度が高い開発キット

 Cypressは、開発キットとしてCY4501とCY4502を提供している。CY4501は、Type-CシステムであるDFP、UFP、DRPまたは、USB PD(Power Delivery)としてのプロバイダー、コンシューマデバイス*4)の開発に対応している。また、USB以外の通信であるAlternateモードを利用するデバイス開発を行う上でも、有用かつ完璧なソリューションとなっている。

 CY4501開発キットはホストボード(図5)、クライアントボード(図6)、EMCAボード(図7)の3つのボードから構成されている。各ボードには、USB Type-Cコネクタの他に、USBレガシーコネクタ(クライアントボードにはType-A、ホストボードにはType-B)を搭載しており、既存のPCやUSBシステムに接続可能である。

 ホストボードとクライアントボードはそれぞれDisplayPortコネクタも搭載し、Alternateモードに対応する。この他、USB2.0のミニコネクタBを両ボードに用意し、デバッグポートとして使うことができる。

 各ボードの電源オプションもフレキシブルになっており、USB 2.0ミニコネクタやUSB 3.0レガシーコネクタ、24V電源(クライアントボードのみ)のどれからでも供給可能であり、ジャンパーで設定できる。

*4) プロバイダーとは、電力を供給するType-Cポート、コンシューマとは電力を受け取るType-Cポートをいう。

図5 CY4501開発キットに含まれるホストボード
図6 同クライアントボード
図7 同EMCAボード

EMCA専用の開発キットもある

 図8にCY4502開発キットを示す。EMCA専用の開発キットとなっており、CCG2を内蔵する。

 USB PDが利用可能なType-Cケーブル(パッシブ、アクティブ)やドングル開発に最適なソリューションである。EMCA用CCG2は両端プラグにそれぞれ搭載されており、EMCAとしてCCG2を片方だけ使うこともできる。VDO(Vendor Data Object)のプログラミングもCypressが提供するユーティリティを使って設定可能である。

図8 CY4502開発キット

Type-Cの変革を製品に生かす

 2回に分けてUSBの次世代のコネクタとなるType-Cの仕様と、Type-Cを使ったパワーデリバリの仕組みを説明してきた。

 Type-CではUSB通信に限らず映像データの送受信を扱うことができ、さらには電力を1つのケーブル・コネクタで双方向にやりとりすることが可能になった。

 このような大きな変革は、必ず新たな市場を生み出す。Cypressは、これまで培ってきた知見と経験から、新たな市場を今後もリードし続け、ユーザーのシステムに対して適切なソリューションを提供していく。

 Type-Cは、過去から連綿と続いてきたUSB通信を核に、今日の給電需要を満たし、さらには将来のデバイス間通信の標準化につながる、まさにイノベーションといえる。

 Type-Cが創造する新たな価値をどのようにシステムにインテグレートし、エンドユーザーがどのような形でその恩恵を享受することができるのか、筆者自身非常に興味深いところである。

 2015年に始まったType-Cのイノベーションが、われわれの身近なデバイス機器間の接続に大きな変革をもたらす日も近いのかもしれない。


関連リンク
サイプレスUSB Type-CおよびPower Delivery
サイプレスUSBコントローラー

前編記事
USB Type-Cで逆挿入や多様な電力供給が可能に、その仕組みは?

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提供:日本サイプレス株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2015年12月31日

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