ディスプレイで残額が確認できる電子マネーカードなど次世代型のスマートカードが海外を中心に普及が始まった。そうした中で、電源ICなどの半導体部品の低背化が急務になっている。これまでは、ベアチップ実装が主流だったが、より特性が保証され、扱いやすいパッケージ封止型電源ICとして、わずか0.315mmという“薄さ”を誇る製品が開発された。
スマートフォンとBluetoothで無線通信できるクレジットカード。ディスプレイで残高が確認できる電子マネーカード。よりインテリジェントな機能を備えたスマートカードが、アジアや欧州で流行し始めている――。
身の回りのカード類に半導体チップが搭載されるようになって久しい。クレジットカードやキャッシュカードなど、いわゆる金融系カードでは、カード情報を記録する接触型ICチップが埋め込まれている。リーダーにかざすだけで決済が行える電子マネーカードも、カード表面からは見えないが、内部にアンテナとICチップが組み込まれている。
こうしたICを搭載するICカードは旧来の磁気式カードを急速に置き換えて主流となったが、現在、さらにもう一段、進化しつつある。それが冒頭に挙げた“スマートカード”であり、無線機能やディスプレイを搭載したカードだ。中国などアジアや欧州の金融系カードや交通系カードではこうしたスマートカードが実用化されているのだ。
従来のICカードと、スマートカードの決定的な違いは、カード単体で機能を果たす“自立性”にある。従来のICカードは、接触型、非接触型問わず、リーダー/ライターがない限り単なるカードに過ぎなかった。スマートカードは、カードだけで無線を飛ばすことができたり、ディスプレイを表示させたりできる。
自立して機能を果たすスマートカードには、IC以外にも不可欠なデバイスが存在する。それは、バッテリーだ。従来のICカードは、リーダー/ライターから電源を得ることで動作できたが、カード単独で機能を果たすには、当然、カード自身に電源を持たなければならない。そのため、バッテリーが不可欠になるのだ。
バッテリーを搭載すれば、おのずと必要になるICがある。不安定なバッテリーからの出力を安定した電力に変換する電源ICだ。スマートカードには、情報を記録処理するセキュアマイコンなどのICと、無線用IC、アンテナ、ディスプレイとともに、バッテリーそして電源ICが搭載されることになる。
こうした多くのデバイスを搭載することになるスマートカードだが、1つ大きな問題を抱えている。それがサイズの制約だ。
金融系カードなどは、世界的に互換を保つため、国際規格(ISO/IEC 7810)でサイズが、「54.98×85.60×0.760mm」と厳格に規定されている。いくら搭載デバイスが増えても、この国際規格サイズを上回ることが許されないのだ。
特にサイズで問題になるのが、0.760mmという厚みだ。カードの表面、裏面は樹脂で覆う必要があり、それらのカバー樹脂の厚みやデバイスを実装するフレキシブル基板の厚さを考慮すると0.4mm以下の厚みのデバイスを使用せざるを得ない。現状、0.4mm以下のパッケージで封止したICもあるが、そのほとんどは、カードに実装することが難しい。
0.4mm厚を下回るICのパッケージ技術として多くには、ダイとパッケージ基板をバンプなどの端子で接続するフリップチップ実装技術を用いている。しかし、フリップチップ実装技術は、衝撃に弱いという欠点があり、さまざまな力が加わる恐れの強いカード用途では、補強板を用いるなどの対策が不可欠となるため、実質的に使用できないのだ。
そこで用いられているのが、ICダイをパッケージに封止せずそのまま実装するベアチップ実装だ。ベアチップ実装であれば、高さ問題は解決できる。しかし、1つの問題が残る。それは、電源ICの特性が担保できないということだ。セキュアマイコンなどロジックICでは、あまり問題にはなりにくいのだが、アナログICである電源ICの場合、チップ実装の具合によって、特性に大きなバラツキが生じてしまう。このことは、スマートカード自体の性能、品質のバラツキに直結する問題だ。そこで特性が保証され、かつ衝撃に強いパッケージ技術で封止された電源ICが求められている状況にある。
こうしたスマートカードで要求に応える電源ICが、このほど登場した。開発したのは、電源IC専業メーカーであるトレックス・セミコンダクターだ。
トレックスが開発した電源IC「XC6216」のパッケージサイズは、1.8×1.5×0.315mm。スマートカードでの必須要件である高さ0.4mmを大きく下回る。
フリップチップ実装を用いず、衝撃に強いワイヤーボンディングによる接続、実装方法を用いて、0.315mm厚を実現。トレックスでは、高さを抑える独自のワイヤー配線技術とダイを薄化する技術の2つを適用することで、高さ最大0.315mmの薄型パッケージ「USP-6B06」にワイヤーボンディングでチップを実装することに成功した。
XC6216には、“薄さ”とともに、もう1つ大きな特徴がある。それが、耐圧が30Vと高いことだ。
スマートカードに搭載される電池は、現状、一次電池が主流だが、今後さらなるスマートカードの多機能化に対応するため、ワイヤレス(無接点)充電式の二次電池の搭載が検討されつつある。 一次電池では、3.3V前後の電池出力電圧に対応する6V程度の耐圧で十分だ。しかし、ワイヤレス充電式二次電池を用いた場合、電池出力段以外にも、充電器側からの電力を電池へ入力するための電力変換する電池入力段の電源ICも必要となる。
ワイヤレス充電の場合、充電器からの電圧は大きく振れ、入力電圧は18Vを上回るケースもあり、電源ICとして30V耐圧が求められるのだ。
XC6216は、電池入力段の電源ICとしても使用できる入力電圧範囲2〜28V、耐圧30Vを達成。トレックスでは、「28V動作品では最薄クラスのパッケージであり、充電式スマートカードに実装できる唯一のパッケージ封止型電源ICだろう」としている。
なお、XC6216は、最大出力電流150mA、消費電流は動作時5μA、スタンバイ時0.1μA以下となっており、スマートカード用途に対応する各種スペックを満たしている。
トレックスでは、今後、需要拡大が見込めるスマートカード市場に対し、XC6216以外にもさまざまな電源ICを投入していく方針だ。
今回、開発した超薄型ワイヤーボンディング実装技術はレギュレータ以外にも、DC/DCコンバータICにも適用可能。「DC/DCコンバータの場合、出力段に、レギュレータよりも大きな容量のコンデンサやコイルといった外付け部品が必要になるため、それら外付け部品の低背化が待たれる状況。現在、電子部品メーカーに低背品の開発を打診し、実用化に向けて動き出している段階」という。
また同時に、外付け部品のサイズを小さくできる電源ICの開発も推進している。既にトレックスでは、外付けのコイル、コンデンサを不要にする技術を用いた電源ICをモバイル機器などの用途へ展開。これらの製品に、薄型パッケージング技術を適用し、スマートカードへの実装が可能な製品をラインアップしていく予定だ。「WLCSP技術を用いたチップサイズパッケージで、高さ0.2mmという高さを実現し、ベアチップと組み合わせてもカードに実装できる超薄型電源ICも開発している。さまざまなニーズに対応できるスマートカード対応薄型電源ICをラインアップしていく。2016年1月13〜15日に開催される展示会『第2回 ウェアラブル EXPO』では、XC6216とともに、新たなスマートカード対応に対応する薄型電源ICの新製品を披露したい」としている。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年1月31日
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トレックス・セミコンダクターは、電源ICを中心としたアナログIC専業メーカーだ。高効率で低消費、低ノイズの電源ICを小型パッケージで実現する技術力を強みとする。産業機器/車載機器、ウェアラブル機器向けなど成長市場に向けた製品戦略を強化しつつ、既存製品分野ではモジュール製品向けなどを展開する。これらの取り組みによって、高収益体質のさらなる強化を図る。
トレックス・セミコンダクターは、世界でも数少ない“電源ICの専門メーカー”だ。モバイル分野で実績ある高効率、低ノイズ、小型を兼ね備え、機能とコストのバランスに優れた価格競争力ある製品展開を大電流/高電圧分野へと拡大。ビジネス領域をウェアラブル機器から車載機器、産業機器までに広げつつあるトレックスの製品/技術戦略について、技術理事兼事業本部第一ビジネスユニット長を務める木村岳史氏に聞いた。