時代は、環境発電(エナジーハーベスト)、IoT(モノのインターネット)の変曲点へ向かいつつあります。そうした中で、重要になるのが、数ナノアンペアレベルの小さな電流を、高効率に変換するテクノロジーです。
ポータブル電源の適用対象は幅広く多様化しています。対象製品はマイクロワット単位の平均電力を消費するワイヤレス・センサー・ノード(WSN)から数百ワット時のバッテリ・パックを搭載したカートベースの医療システムやデータ取得システムにまで及んでいます。しかしこの多様性にもかかわらず、いくつかの傾向が明らかになってきました。すなわち、高機能化する製品をサポートするため必要とする電力は増え続けるため、設計者は利用可能な電源からバッテリを充電することを望んでいます。
第一の傾向はバッテリ容量の増加です。残念ながらユーザーはあまり辛抱強くないため容量の増えたバッテリも適度な時間で充電できなければならず、充電電流を高めることになります。第二の傾向は、幅広い入力源と電源に対処しなければならないため、バッテリ充電ソリューションに大幅な柔軟性を必要とします。さらに、「モノのインターネット」(IoT)をサポートするワイヤレス・センサーの普及により、非接続低電力デバイスに合わせた小型でコンパクトな効率のよい電力コンバータに対する需要が高まっています。
IoTに属し、環境発電(エナジーハーベスト)の視点から特に興味深い登場して間もないマーケットセグメントに、ウェアラブル・エレクトロニクスのカテゴリーがあります。まだ揺籃期とはいえ、このセグメントにはSamsungのGalaxy GearやGoogle Glassのような製品が含まれています。
その中で大きな期待を集めている具体的フォームファクタの1つが、腕時計のフォームファクタです。ここで言っているのは、クラシックなアメリカン・コミックスの主人公ディック・トレイシーが身に着けていた1940年代の腕時計型双方向無線機ではなく、スマートフォンで提供される音声・データ通信、インターネット閲覧、ストリーミング・ビデオの各機能を備えた現代バージョンです。市場には既に多くの実例が存在し、Amazonでちょっと検索すると、こうした製品が半ダース以上表示されます。ひときわ目を引くのはQualcommのToq(スマートウォッチ)です。ただし、Toqも他の多くの製品も、大きな期待と注目を集めるApple Watchの存在で影が薄くなりつつあるようです。
もちろん、ウェアラブル技術の対象は人間だけではありません。動物向けのアプリケーションも多数あります。最近の例としては、馬用の超音波を出す治療用パッチや電子式サドル最適化装置から、他の動物向けにさまざまな方法で追跡、識別、診断などを行うための首輪まであります。アプリケーションを問わず、これらのデバイスのほとんどは主電源としてバッテリを必要とします。ただし、人間をベースにしたアプリケーション向けには、太陽光から電気を生成できるウェアラブル繊維が間もなく登場しそうです。それらは「パワー」スーツと考えられます。
このような研究の最前線に立つ企業の1つが、EUが出資するDephotexプロジェクトで、ここで、着用できるほど軽量で柔軟な光電変換素材の製造方法が開発されました。当然、この素材は光子を電気エネルギーに変換し、それを使ってユーザーが着用する多様な電子機器に給電するか、電子機器の主バッテリを充電するか、または両方を兼ね備えた機能でさえ実現することができます。
電力スペクトルの下端では、WSNで一般に見られるような環境発電システムのナノパワー変換が求められ、電力変換ICを使用する必要があります。これらは超低レベルの電力と電流を取り扱い、それぞれ数十マイクロワットおよび数ナノアンペアになることがあります。
最先端および既存の環境発電(EH)技術、例えば振動環境発電や室内またはウェアラブル用途の光電池は、標準的な動作条件では数ミリワット程度の電力レベルを供給します。このような電力レベルは限定的に見えるかもしれませんが、多年にわたる環境発電 素子の動作から、この技術は、エネルギー供給と供給される単位エネルギーあたりのコストの両面で、長寿命の主バッテリとおおむね同等であると見なすことができます。
さらに、EHを組み込んだシステムは一般に、完全に放電した後でも再充電可能です。これは主バッテリによって給電されるシステムではできないことです。ただし、ほとんどの実装では主電力源として環境エネルギー源を使用しますが、環境エネルギー源が失われるか中断すると切り替えて使用することができる主バッテリで補完します。
もちろん、環境発電 のソースから供給されるエネルギーはソースがどれだけ長く動作状態にあるかによって異なります。したがって、収集されるソース間の主な比較基準はエネルギー密度ではなく電力密度です。EHは、利用可能な電力のレベルが一般に低く、変動しやすく予測できないので、発電素子と補助電源にインタフェースするハイブリッド構造がしばしば使用されます。補助電源にはリチャージャブル・バッテリや蓄電コンデンサ(スーパーキャパシタでも)を使用することができます。発電素子はエネルギーを制限なく供給しますが電力が不足するので、システムのエネルギー源として使われます。
補助蓄電装置は、バッテリであれコンデンサであれ出力電力は大きいものの蓄電量は少ないので、必要なとき電力を供給しますが、それ以外は常時発電素子から電荷を受け取ります。このため、電力源となる環境エネルギーを利用できない場合は、補助蓄電装置を使って下流の電子システムやWSNに給電する必要があります。
もちろん、システム設計者にとっては、これにより設計が一層複雑化します。境エネルギー源の不足を補完するために補助蓄電装置に蓄えるべきエネルギー量を考慮する必要が出てくるからです。
幸いこのようなシステムの設計者に対して、同様に低レベルの収集電力をウェアラブル技術のアプリケーションに使用するための機能と性能特性を備えた電力変換ICがいくつか提供されています。リニアテクノロジーは、特にこの要件に対応するために、図1に示す「LTC3331」をこのほど発売しました。
LTC3331は全てそろった安定化EHソリューションで、収集したエネルギーを利用できるとき、最大50mAの連続出力電流を供給してバッテリの寿命を延ばします。収集したエネルギーから負荷に安定した電力を供給しているとき、バッテリからの電源電流は不要で、無負荷状態でバッテリから給電されるときはわずか950nAの動作電流しか必要ありません。LTC3331は、高電圧EH電源と、リチャージャブル主セル・バッテリから給電される同期整流式昇降圧DC/DCコンバータを内蔵しており、WSNで使われるような環境発電アプリケーション用の単一の無停電出力を提供します。
AC入力またはDC入力に対応可能な全波ブリッジ整流器と高効率同期整流式降圧コンバータで構成されるLTC3331のEH電源は、圧電(AC)、太陽光(DC)、磁気(AC)のいずれかのエネルギー源からエネルギーを収集します。10mAのシャント回路により、収集したエネルギーで簡単にバッテリを充電することができ、低バッテリ切断機能により、深放電からバッテリを保護します。リチャージャブル・バッテリは同期整流式昇降圧コンバータに給電します。
このコンバータは1.8V〜5.5Vの入力で動作し、収集したエネルギーを利用できないときに使用されて、出力に比べて高い、低い、または等しい入力で出力を安定化します。LTC3331バッテリ・チャージャは、マイクロパワー電源を取り扱うときに見過ごせない非常に重要なパワー・マネージメント機能を備えています。
LTC3331は、環境発電電源に余剰エネルギーが生じたときだけバッテリを充電する、バッテリ・チャージャのロジック制御機能を搭載しています。このロジック機能が欠けていると、環境発電ソースは起動時にどこかの非最適動作点に固定されてしまい、起動中は目的のアプリケーションに給電できなくなるでしょう。LTC3331は、環境発電ソースが利用できなくなると自動的にバッテリに移行します。この機能には他にも利点があり、バッテリ駆動のWSNに対して適切なEH電源を少なくとも動作寿命の半分以上の時間利用できれば、その寿命を10年から20年以上に延長可能で、そのEH電源の利用時間がもっと延びればさらに動作寿命を延長できます。スーパーキャパシタ・バランサも搭載されているので、出力の蓄電量を増やすことができます。
「LTC3129」は同期整流式昇降圧コンバータで、さまざまな入力ソースから最大200mAの連続出力電流を供給します。これらの入力には1セルまたは複数セルのバッテリに加え、ソーラーパネルやスーパーキャパシタがあります。入力範囲は2.42V〜15V、出力範囲は1.4V〜15.75Vで、出力に比べて高い、低い、または等しい入力から安定化された出力を供給します。LTC3129に採用されている低ノイズ昇降圧トポロジーにより、全ての動作モードの間を連続的に遷移するので、入力ソースの電圧が出力を下回っても一定の出力電圧を維持する必要のあるEHアプリケーションに最適です(図2を参照)。
LTC3129はプログラム可能な最大電力点制御(MPPC)機能を備えており、光電池などの非理想的な電源から最大電力を確実に引き出します。暗電流がわずか1.3μAなので、バッテリの動作時間を長くすることが不可欠である常時オンや環境発電のアプリケーションに最適です。LTC3129はスイッチング周波数が1.2MHzに固定されているので、低ノイズと高効率を保証するとともに、外付け部品のサイズを小さく抑えることができます。
環境発電システムを備えたウェアラブル・アプリケーションが正しく動作する電力レベルは数マイクロワットから1Wを超えるまでと広範囲にわたりますが、システム設計者が選択できる電力変換ICは多数あります。ただし、電力範囲の下限では数ナノアンペアの電流を変換する必要があります。ここでの選択肢は限られます。
幸いなことに、エナジー・ハーベスタおよびバッテリ寿命延長デバイスであるLTC3331は、ローパワー同期整流式昇降圧コンバータLTC3129とともに、暗電流が非常に小さいので、いずれも広い範囲の低消費電力アプリケーションに最適です。1.3μA未満の暗電流により、ポータブル/ウェアラブル・エレクトロニクスのキープアライブ回路のバッテリ寿命が延び、同時に新世代のEHアプリケーションが可能になります。時代は環境発電とモノのインターネットの変曲点に向かっているので、これはまさに朗報です。
【著:トニー・アームストロング/リニアテクノロジー 製品マーケティング・ディレクタ】
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提供:リニアテクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年5月31日
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