ウェアラブル機器や、GPS/通信モジュールに使用される各種チップセットのコア電圧を1V未満に下げる動きが出てきている。コアの動作電圧を抑えることで消費電力を大幅に抑えられるためだ。そうした低電圧チップセットの“低消費電力効果”を最大限に生かすことのできる超低消費電力型DC-DCコンバーターが登場したので紹介しよう。
ウェアラブル機器、モバイル機器といった電池駆動機器や、バッテリーを搭載しないエナジーハーベスト(環境発電)端末などでの低消費電力化要求は、高まるばかりだ。限られたバッテリー容量、電気エネルギーで最大限の動作時間を確保すべく、さまざまな低消費電力に向けた技術導入が進んでいる。
その1つが、電池駆動/エナジーハーベスト機器に搭載されるチップセットのコア電圧の低電圧化だ。低電圧化により、電力消費の増大を伴わずチップセットの処理性能を高められ、同一性能であれば消費電力を抑えられるという利点があるためだ。例えば、コア電圧1.8Vのチップセットから、性能/電池容量はそのままにコア電圧0.7Vのチップセットに置き換えるだけで、電池寿命は約2.5倍に延びる。“バッテリー持ちの短さ”が普及を妨げる要因の1つとなっているウェアラブル端末などでは、低電圧動作化による効果は絶大だ。
これまでウェアラブル機器に搭載されるマイコンや、モバイル機器に搭載されるGPSやBluetoothモジュールのチップセットのコア部分は、1.1〜1.8Vの電圧で動作しているケースが多かった。昨今、このコア電圧を0.6〜0.8V程度に抑えようとする動きが出始め、1V以下の超低電圧でコアを動作させるチップセットが登場しつつある。
機器の低消費電力化という面で歓迎される超低電圧動作チップセットではあるが、機器に搭載するには、1つ課題がある。それは、3〜4V程度のバッテリーの電圧を、チップセット用の電圧に変換、供給する「電源」だ。コア電圧が下がるとより、電源には高い精度が要求されるためだ。
もちろん、超低電圧動作チップセットに対応する電源に求められるのは、高精度だけではない。ウェアラブル機器や通信モジュールなどの電源に普遍的に要求される“小型サイズ”そして、“高効率”という要件も満たさなければならない。低電圧を高精度で供給できたとしても、電源の自己消費電力が多く、変換効率がそれまでより劣るとなると、せっかくの低いコア電圧のチップセットを用いた効果を台無しにしてしまう。
低電圧を高精度に供給しながら、小型、高効率の電源の登場が待ち望まれている――。
こうした中で、日本の電源IC専業メーカー、トレックス・セミコンダクターが0.6〜0.95V出力に対応する高効率降圧同期整流DC-DCコンバーター「XC9272」をこのほど、製品化した。小型、高効率で1V未満の低電圧を高精度に供給できるという、すべての要件を満たした電源ICだといえる。
トレックスはこれまでにも、ウェアラブル機器や通信モジュールなどの小型、高効率が強く求められる用途に対し、電源ICを供給しつづけ、業界をリードしている。例えば、2015年に製品化した「XC9265シリーズ」は、待機時間や軽負荷動作時間が長いウェアラブル機器に特化して開発された電源ICで、自己消費電流0.5μAとそれまでのDC-DCコンバーター製品よりも30分の1以下という超低消費電流を実現。10μAという軽負荷時でも80%を超える電力変換効率を持つ。軽負荷時の効率に優れるとされるLDOレギュレーターさえも上回る高い効率だ。
XC9265がこうした低消費電流、高効率を実現できた理由は、2つ。電源IC専業として磨き上げてきた回路設計技術と、DC-DCコンバーターでは一般的なPWM(パルス幅変調)制御モードを搭載せずに、比較的軽負荷時の変換効率が良いPFM(周波数変調)制御モードのみを搭載したことで、低消費電流、高効率を実現した。
今回、1V未満の低コア電圧動作チップセット用に製品化したXC9272は、この低消費電流、高効率を誇るXC9265をベースに開発された。消費電流0.5μAで軽負荷に強いという2つの特長は維持しつつ、XC9265では出力電圧1.0〜4.0V(0.05Vステップ)だったものを、0.6〜0.95V(0.05Vステップ)対応にしたのだ。
XC9265では、1V以上の出力電圧をもとに動作させていたIC内部の一部回路を0.6V動作に対応させる設計変更を実施して、最新の低電圧動作チップセットへの電源供給を可能にした。効率も2.0V入力、0.7V/0.1mA出力の軽負荷時でも80%を超える性能を備えた。
1V未満の低電圧出力で課題となる精度は±20mV。0.6〜0.95V出力のDC-DCコンバーターとして十分な精度を備えた。
実は、PFM制御モードには、一般的にリップル電圧が大きくなってしまうという欠点を抱える。リップル電圧が大きければ、結果的に、出力電圧精度が悪くなってしまう。そこでトレックスでは、独自のアナログ回路技術により推奨部品に低ESRのセラミックコンデンサーを用いることを可能にし、またウェアラブル機器、モバイル機器、エナジーハーベスト機器などのターゲットアプリケーションに製品仕様を最適化する2つの対策で、リップル電圧を最小限に抑えた。XC9265の50mA出力品で50mVのリップル電圧を実現しており、今回、XC9272でも50mA出力で20mVと実用に耐えうるリップル電圧を確保したのだ。
なお、XC9272は、XC9265と同一パッケージ(SOT-25と1.8×2.0×0.4mmサイズUSP-6EL)、同一ピン配置で提供される。
小型、高効率、そして、1V未満の低電圧を高精度に供給できるという特長を兼ね備えたXC9272により、ウェアラブル機器やエナジーハーベスト機器などのバッテリー寿命は大幅に伸びる見込みだ。
例えば、これまでコア電圧1.8V動作のチップセットと、従来型DC-DCコンバーター(消費電流15μA程度)を組み合わせた構成では、ある条件*)の電力損失が140μWだった。ちなみにその内訳は、動作時が40μW、スリープ時が100μW。全体に占める時間が長い軽負荷なスリープ時における電力損失が大部分を占めた。
*)3.6V入力、アクティブ動作モード〔10mA負荷10ミリ秒〕+スリープ動作モード〔10μA負荷5秒〕の動作条件
そしてこの構成システムのチップセットのコア動作電圧を1.8Vから0.7Vに下げると、電力損失は動作時17μW、スリープ時39μWの計56μWと大幅に削減できる。しかし、それでもスリープ時の損失は動作時よりも大きく、バッテリー寿命を延ばす上でのネックになっている。
そこで、チップセットのコア動作電圧を0.7Vにした上で、0.5μAという超低消費電流のXC9272を適用すると、電力損失は動作時17μW、スリープ時12μWの計29μWにまで削減できるのだ。従来型DC-DCコンバーターと比較して、動作時の電力損失は変わらず、スリープ時の電力損失をおおよそ3分の1にまで低減でき、XC9272がいかに軽負荷でも高い効率を保っているかということがよく分かる数字だ。
さらに電池駆動時間で各構成を比較すると、もっと、分かりやすい結果が導かれた。
コア電圧1.8V動作のチップセットと従来型DC-DCコンバーターを用いたシステムでの電池駆動時間を「100」とすると、コア電圧を0.7Vに下げたことで「250」まで延びたとする。そして、コア電圧0.7VのチップセットにXC9272を組み合わせた場合には「494」にまで達したというのだ。XC9272と低電圧チップセットを使えば、現行の機器よりも同じバッテリー容量でも5倍の電池寿命を実現できるというのだ。
1日半程度の駆動時間を確保できなかったスマートウォッチならば、1週間、充電要らずで動作できるようになる。ウェアラブル機器の普及の足かせといわれる電池寿命問題も、低電圧動作チップセットとXC9272の登場で解消されるに違いない。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年7月9日
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トレックス・セミコンダクターは、電源ICを中心としたアナログIC専業メーカーだ。高効率で低消費、低ノイズの電源ICを小型パッケージで実現する技術力を強みとする。産業機器/車載機器、ウェアラブル機器向けなど成長市場に向けた製品戦略を強化しつつ、既存製品分野ではモジュール製品向けなどを展開する。これらの取り組みによって、高収益体質のさらなる強化を図る。