第5世代移動通信(5G)など次世代無線通信技術では、高い周波数帯を広帯域で使用する必要性が生じます。次世代無線通信を実現するためには、これまで無線通信分野では使われてこなかった未知の高周波帯でも優れた性能を発揮するアナログICが必要になります。そうした中で、このほど、高周波での性能を高めたミキサICが登場したので、設計時のポイントなども押さえつつ、詳しく紹介してきましょう。
インターネット・トラフィックが増加の一途をたどる中、次世代の無線アクセスに必要な帯域幅は急速に拡大しています。一方で、現在使用可能なスペクトラムでは、必要な帯域幅に対応できません。そのため、より高い周波数スペクトラムについて、適合性の評価が行われています。免許不要の5.8GHz地上局から、地球全体をカバーする低軌道人工衛星に至るまで、複数の選択肢が検討されています。広帯域幅を実現するには、そこで提供される新しい高周波が必要であり、そのためには、性能を高めた新たなミキサが必要になります。そのような取り組みの一環として、リニアテクノロジーの新しいミキサであるLTC5549が開発されました。
LTC5549は、アップコンバータとダウンコンバータのいずれとしても動作可能なパッシブ二重平衡ミキサです。2GHz〜14GHzの非常に広いRF周波数範囲で動作します。LTC5549は、5.8GHzでのIIP3が28.2dBm、12GHzでのIIP3が22.8dBmと、並外れて高い直線性を誇るため、トランスミッタとレシーバのいずれのアプリケーションにおいても、ダイナミック・レンジが向上します。内蔵LOバッファにより、必要な駆動レベルはわずか0dBmで、外付けの高電力LO駆動回路が事実上不要なため、マイクロ波トランスミッタおよびレシーバの効率的な設計が可能になります。
さらに、LO信号用にバイパス可能な周波数ダブラを内蔵しているため、必要に応じて、入手しやすい低価格な低周波シンセサイザを使用できます。また、LOおよびRF周波数帯域幅を拡張するよう最適化された内蔵の広帯域バラン・トランスにより、シングルエンド動作が実現されます。IFポートも、0.5〜6GHzの広い帯域幅をサポートしています。3つのポート全てが50Ωに整合されており、ポート間の絶縁性も高く、望ましくないLOリークが最小限に抑えられるため、外部フィルタ要件が緩和されます。
一般的なマイクロ波ミキサは、ディスクリートのGaAsダイオードまたはFETを使用して、ハイブリッド・モジュールとして構成されます。一方、LTC5549は、非常に高周波数の先進的なSiGe BiCMOSプロセスで構成されます。したがって、LOバッファやマイクロ波バラン・トランスをチップ上に内蔵して、高い集積度が実現されます。モノリシック・ダイを裏返し、3mm×2mmという省スペースのリードフレームによるプラスチック表面実装パッケージにはんだ付けします。ボンド・ワイヤが不要で、ボンド・ワイヤによるインダクタンスが生じないため、デバイスのマイクロ波周波数性能が大きく向上します。パッケージがそもそも小型であるだけでなく、外部回路も最小限ですむため、極めて省スペースなソリューションが可能になります。
LTC5549の22.8dBmというIIP3性能は、同クラスで抜きんでています。IIP3性能が良いと、レシーバまたはトランスミッタのダイナミック・レンジが向上します。レシーバの場合、IIP3が高いと至近距離に高電力の干渉が存在する場合の堅牢性が高まります。これには、帯域外からの意図しないエミッタ源のほか、(マルチセクターシステムにおける、他のトランスミッタからのリークなど)自デバイス内に起因するものも含みます。また、今後、無線システムの導入がますます進み、電波の質が低下し続けていく中で、高ダイナミック・レンジのレシーバでは、設計マージンが広がり、ブロック要因への対応がしやすくなります。
トランスミッタでも同様に、IIP3が高いと(したがってOIP3が高いと)ミキサから発生するスプリアス成分が減少し、スペクトル純度が向上し、ACPR性能が改善されます。これは、1024 QAM以上に及ぶ可能性のある、高次変調を使用する無線において、特に重要です。直線性が向上するため、コンステレーション精度の精細度が上がります。さらに、IIP3が高くなると、ミキサは高い入力電力(つまり、より堅牢な出力電力レベル)で動作できます。設計マージンが広くなることで、設計の制約が緩和され、柔軟性が高まります。
LTC5549では、LOアンプが内蔵されているため、従来のマイクロ波パッシブ・ミキサを駆動するために一般的に必要とされていた+10dBm〜+17dBmのLOアンプが事実上不要になります。LOの駆動レベルが0dBmのため、PLL/シンセサイザからバッファ不要でLOを直接駆動できます。これは、コストの削減になるだけではありません。LO電力が低いということは、IFポートまたはRFポートのいずれかへのLOリークも大きく削減されるため、高電力電源によって発生する帯域外放射に対応するための外部フィルタリングの必要性も緩和されます。もう1つのメリットは、プリント回路基板上に高電力の放射源がなくなることです。これにより、高電力LO信号を扱う多くの設計において悩みの種となるRF遮蔽がそれほど必要なくなり、コストを大きく削減できる可能性があります。
モノリシック型ミキサのLTC5549は、平面バラン・トランス設計における特許出願中の新技術を導入したことで、極めて広い帯域幅で動作できるようになりました。かつてない対称性により、並外れてバランスが良い動作が可能で、非常に広い帯域幅全体において、最適なスプリアス除去と平たんな周波数応答が得られます。例えば、50Ωに整合されたRFポートと、内蔵のトランス、0.15pFの外部コンデンサの組み合わせでは、2GHz〜14GHzの範囲で継続的に、10dBより優れたリターン・ロスが実現されます。同様に、LO入力に0.15pFのシャント・コンデンサと直列コンデンサを接続し、1GHz〜12GHzの範囲でポートを50Ωに整合した場合、周波数範囲全体で10dBを超えるリターン・ロスが得られます。
5Gの無線は、1Gbpsのデータ・レートを実現するよう期待されています。このデータ・レートを実現するには、帯域幅を1GHz以上に拡張する必要があります。そのためには、新しいスペクトラムを開放する必要があります。LTC5549は、1GHzを超える平たんな応答をサポートする、優れた帯域幅を備えています。
LTC5549などの直線性に優れた小型ミキサは、マイクロ波試験機器にも役立ちます。RF試験機器を高周波対応にするには、試験対象デバイスの性能向上に合わせて、RF試験機器の直線性と帯域幅の性能も向上する必要があります。
アプリケーション例として、3.6GHzの信号を12.6GHzのキャリアに変換する例を考えてみましょう。ローサイドLOを使用します。動作条件を次に示します。
性能の測定は、LTC5549評価ボード(図1)を用いて行いました。内部の2X LOはバイパスされているため、ラボのクリーンな信号発生器によって、9GHzのLO信号を直接与えます。評価ボードのコンポーネントはブロードバンド対応済みであるため、変更を加えることなくそのまま使用できます(図1の回路図を参照)。
図2は、12.6GHzにおいて、2MHz離れた2つのトーンを測定したときの、このミキサの直線性性能を示しています。測定された3次相互変調歪スパーは、−57.5dBc低くなりました。これは、+23.8dBmのIIP3に相当します。
図3は、このRF出力のスペクトル・プロット全体を示します。外部フィルタは使用していないため、全てのスプリアス成分を確認できます。LOリークは、12.6GHzキャリアの14dB下ですが、3.6GHz離れています。そのため、フィルタリングはそれほど大変ではないでしょう。最も近いスパーは、実際は2LO−IFで、キャリアから1.8GHz離れたところで発生しています。好ましい点は、残余電力がキャリアの−40dBc下を上回っていることです。
12.6GHzにおいて、ミキサの出力は、1GHzの帯域幅にわたり1dBの平たん性を示します(図4参照)。そのため、次世代のブロードバンド無線に対応可能です。
LTC5549は、優れたIIP3により、レシーバまたはトランスミッタ・アプリケーションにおけるダイナミック・レンジ性能を向上できます。LOバッファが内蔵されているため、コストとLOリークが削減されます。内蔵されたバラン・トランスによって極めて広い帯域幅に対応するため、設計を簡素化し、非常に省スペースなソリューションを実現できます。
【著:リニアテクノロジー/Bruce Hemp(アプリケーション・セクション・リーダー)、James Wong(製品マーケティング・マネージャー)】
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提供:リニアテクノロジー株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年8月31日
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