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電力密度の高いシステムが要求する「大電流コンバータ」アナログ回路設計講座(14)

FPGAやASICなどに代表される高性能デジタルICは、製造プロセス技術の進化に伴い動作電圧を低下させる一方で、動作電流は増大の一途をたどっています。ただこれまでは低電圧/大電流の供給には、LDOないし複数のデバイスを使用したスイッチング電源が選択肢がなく、高密度実装を要求されるさまざまなアプリケーションで課題となっていました。そこで、今回は低電圧/大電流に対応する新世代のモノリシックスイッチング降圧レギュレーターを紹介します。

» 2017年10月02日 10時00分 公開
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背景

 拡大しつつある大電流、低電圧デジタルICの市場は、2016年に92億ドルに達しました[出典元:Intense Research社]。このデジタルIC群に含まれるのは、マイクロコントローラとマイクロプロセッサ(MCU/MPU)、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向け集積回路(ASIC)、グラフィック処理装置(GPU)です。さらに、この市場を構成する大きな要素であるフィールドプログラマブルゲートアレイIC(FPGA)に着目すると、この区分は2014年に39.2億ドルと評価されており、2016年から2022年の間の年平均成長率を7.41%として、2022年までに72.3億ドルに達すると予想されています[出典元:marketsandmarkets.com]。

 電力密度の高いデジタルICは、実質的に全ての組み込みシステムに浸透しました。これらのシステムには、産業機器、通信機器、サーバ、医療機器、ゲーム機、民生用オーディオ/ビデオ、車載機器などのシステムが含まれますが、それだけに限られるわけではありません。FPGAが実現可能にしているのは、これらの市場区分内で最先端のアプリケーションです。例えば、先進運転支援システム(ADAS)や衝突回避システムなど、人為ミスを排除する自動車用アプリケーションが挙げられます。さらに、アンチロックブレーキシステム、安定制御システム、電子制御式独立懸架装置などの政府が義務付けている安全機能は、FPGAを使用することが必要でした。モノのインターネット(IoT)、M2M(Machine to Machine)の需要、大規模なデータストレージやクラウドコンピューティングの需要が牽引するデータセンターやサーバセンターの成長も、FPGA市場を推進する要因の一部です。

イメージです。

 電力密度の高いこれらのデジタルICベースシステムには、独自の電力要件体系があります。この現世代のFPGA/ASICプロセッサに対応する大電流、低電圧、高速トランジェント応答の組み合わせにより、デバイスに電力を供給する電源に対する要求が一段と厳しくなります。これらのデジタルICは強力ですが、電力の観点からは安定性を欠いています。従来、これらのデバイスには、効率の高いスイッチングレギュレータコントローラと個別の大電力MOSFETを使用して電力を供給してきましたが、これには潜在的なノイズ干渉問題があり、トランジェント応答が低速で、レイアウトに制限がありました。その結果、近年は発熱を最小限に抑える低ドロップアウトレギュレータ(LDO)が代替品として使用されてきましたが、LDO特有の制限体系がないわけではありません。ただし、この分野での昨今の製品技術革新のおかげで、傾向は変化しています。大電力モノリシックスイッチングレギュレータは、新しくなるほど性能上の相反関係が解消されており、これらのアプリケーションに急速に進出しつつあります。

スイッチングレギュレータとチャージポンプ/LDOとの比較

 低電圧、大電流の降圧変換およびレギュレーションは、設計上のさまざまな相反関係があるさまざまな方法によって実現することができます。まず、スイッチングレギュレータコントローラは、広範囲の電圧にわたって大電流に対応するため高い効率で動作しますが、動作するにはインダクタやコンデンサ(コントローラの場合はさらにFET)などの外付け部品が必要です。インダクタ不要のチャージポンプ(またはスイッチトキャパシタ電圧コンバータ)を使用してより低電圧の変換を実現可能ではありますが、出力電流の供給能力が制限されているので、不十分なトランジェント性能に悩まされ、リニアレギュレータと比較して必要な外付け部品が多くなります。このため、デジタルICのパワーアプリケーションでは、チャージポンプが採用されることはあまりありません。反対に、リニアレギュレータと特にLDOは、動作するのに必要な部品が2つの外付けコンデンサだけであるという点で簡単です。ただし、ICの入出力間の電圧差、負荷が必要とする電流の大きさ、さらにパッケージの熱抵抗特性に応じて電力が制限される場合があります。このことが、デジタルICの電源市場への浸透を制限しています。

大電流モノリシック降圧コンバータの設計課題

 ムーアの法則(1965年発案)に忠実に従うと、ウエハー製造技術の線幅は絶えず縮小しているので、デジタルICの低電圧動作が必要になります。形状加工の微細化により、より消費電力の高い機能を最終製品で高集積化することができます。例えば、最新のコンピュータサーバや通信ルーティングシステムでは、より多くの計算データおよび、インターネットトラフィックを処理するためにより高い帯域幅が必要です。自動車には、娯楽、ナビゲーション、自動運転機能、さらにはエンジン制御に対応する電子機器が搭載されています。その結果、システムの電流消費量と必要な関連の全電力が増加します。したがって、パワーICから熱を放出しながら前例のないレベルの電力を供給するには、最先端のパッケージ製造技術と内部パワー段の革新的な設計が必要です。

 また、電源電圧除去比(PSRR)を高くして、出力電圧ノイズおよび、リップルを低くするという要件も、検討が必要な2つの追加の課題です。電源電圧除去比の高いデバイスは、入力でノイズをフィルタに通して除去することがより簡単にできるので、きれいで安定した出力が得られます。加えて、広い帯域幅全体にわたって出力電圧ノイズの低いデバイスや低出力リップルのデバイスは、ノイズ感度が設計上の主要な検討事項である今日の最新低ノイズレールに電力を供給する上で有利です。ハイエンドFPGA向けの速度要件が高まるにつれて、電源ノイズの許容値はビットエラーを最小限に抑えるために減少し続けます。こうしたノイズ起因のデジタルフォルトは、これらの高速PLDの有効なデータスループット速度を激減させます。大電流時の入力電源ノイズは間違いなく重要ですが、要求の厳しい規格です。

 例えばFPGAでは、トランシーバが高速になるにつれて電流レベルが高くなりますが、これは微細形状回路のスイッチングによって消費電力が増加することが原因です。これらのICは高速であり、数十ナノ秒から数百ナノ秒の間にゼロアンペア付近から数アンペアまで負荷電流を繰り返し増減させることができるので、超高速のトランジェント応答特性を備えたレギュレータが必要です。

 パワーレギュレータ用に確保される基板面積は絶えず減少しているので、スイッチング周波数の高いモノリシックスイッチングレギュレータでは外付け部品のサイズが小さくなり、したがってソリューション全体のサイズも小さくなることはよく知られていますが、周波数が高いときはスイッチング損失によって効率が若干低下するという相反関係があります。ただし、新世代のモノリシックスイッチングレギュレータは、周波数が高いときでもスイッチング損失の量を大幅に低減する独自の機能を備えています。つまり、内蔵のハイサイドスイッチおよび、ローサイドスイッチとの同期動作により、ゲート電圧の適切な制御が可能になってデッドタイムが大幅に短縮されるので、効率の高い動作が得られます。

 大電流モノリシックスイッチャを使用した場合の最も大きな課題の1つは、熱を放散する能力であり、これはIC内部での大量の電力損失に起因します。この課題に対処するには、はんだボールの大部分が電源ピン(VIN、SW、GND)専用になっている、熱特性が改善されたボールグリッドアレイ(BGA)パッケージを使用して、ICから基板へ熱を容易に伝導できるようにします。基板上の広い銅プレーンをこれらの電源ピンに接続することにより、熱をより均一に拡散させることができます。

新しい大電流降圧コンバータ

 ここで示した問題を解決する降圧コンバータソリューションが以下の特性を備える必要があることは明らかです。

  • 高いスイッチング周波数:外付け部品のサイズを縮小
  • ゼロデッドタイム設計:効率の向上に対応
  • モノリシック:内蔵パワーデバイスによりソリューション・サイズを小型化
  • 同期動作:効率の向上と電力損失の低減
  • 簡単な設計:必要な外付け部品が最小限
  • 非常に低い出力リップル
  • 短いトランジェント応答時間
  • 広い入力/出力電圧範囲にわたる動作
  • 高い出力電流供給能力
  • 優れた熱性能
  • 小さい実装面積

 これらの具体的な要求に対応するため、リニアテクノロジーは、モノリシック大電流降圧レギュレータの「LTC71xxファミリ」を導入しました。最新の品種は、出力電圧の差動リモート検出機能を備えた20V/20Aモノリシック同期整流式降圧コンバータ「LTC7150S」です。デバイス独自の位相同期可能なオン時間制御の固定周波数電流モードアーキテクチャにより、補償が容易であり、また高周波で動作しながら高速トランジェント応答を必要とする高降圧比アプリケーションに最適です。

 LTC7150Sは、バイパスコンデンサを内蔵するなど、「Silent Switcher 2テクノロジー」を採用して、優れたEMI性能を備えた効率の高い解決策を高い周波数で実現しています。マルチフェーズ動作(最大12相)により、複数のデバイスを直接並列接続して、より大量の電流を流すことが可能であり、しかも入力と出力の容量が最小限に抑えられます。出力電圧のリモート検出により、負荷での電圧レギュレーションが負荷電流や基板レイアウトに関係なく正確であることが保証されます。入力電圧範囲が3.1〜20Vと広いので、ほとんどの中間バス電圧など、多種多様なアプリケーションをサポートし、多くの種類のバッテリと互換性があります。内蔵のNチャネルMOSFETは、出力電圧範囲が0.6V〜VINのとき、最大20Aの連続負荷電流を最小限の温度ディレーティングで供給するので、大電流/低電圧のDSP、FPGA、ASICリファレンス設計などのポイントオブロードアプリケーションに最適です。その他のアプリケーションは、通信システム、データ通信システム、分散電源アーキテクチャ、一般的な高電力密度システムなどです。設計が簡単であることを示す代表的なアプリケーション回路図を図1に示します。

図1:LTC7150Sの代表的なアプリケーション回路図

 LTC7150Sは最小オン時間が25ナノ秒と非常に短いので、降圧比の高い電源を高い周波数で動作させることができます。動作周波数は400kHz〜3MHzの範囲でユーザーが選択可能であり、外部クロックに同期させることができます。LTC7150Sの全差動出力電圧精度は、−40〜125℃の動作接合部温度範囲±1%です。その他の機能としては、高速差動リモート検出アンプ、PHMODE位相選択ピン、1.2Vの高精度RUNピンしきい値電圧、入力過電圧保護、パワーグッド、プログラム可能なソフトスタート/トラッキングなどがあります。

 最後に、LTC7150Sは、熱特性が改善された42ピンの6×5×1.3mmサイズBGAパッケージで供給され、RoHS準拠の無鉛仕上げとSnPb(63/37)有鉛仕上げの両方に対応しています。Eグレードおよび、Iグレードは−40〜125℃の動作接合部温度範囲で規定されます。

高効率、低EMI、および高速トランジェント応答

 LTC7150Sの製品番号の「S」は、第2世代のSilent Switcher技術を表しています。このデバイスはVINとBOOSTにセラミックコンデンサを内蔵して全ての高速AC電流ループを小さく抑えているので、EMI性能が向上しています。さらに、より高速のスイッチングエッジに対応するので、スイッチング周波数が高いときは効率が大幅に向上します。

 LTC7150Sは、デバイス独自のオン時間制御アーキテクチャにより、トランジェントステップに迅速に応答することができます。これはトランジェントステップ中に実行されます。スイッチング周波数は本質的に高くなるので、これにより、インダクタ電流はエラーアンプの出力(ITH)が必要とする情報を適切に示すことができます。これにより、ITHの補償をより積極的に設定して、ループ帯域幅全体を広げることができます。

 高い周波数で高い効率を可能にするLTC7150Sの重要な特長の1つは、デッドタイムの大幅な短縮です。IC内部のサーボループは、スイッチの立ち上がりエッジまでのデッドタイムを1ナノ秒未満に固定します。デッドタイムの短縮により、下側スイッチのボディダイオードを導通させる必要性は最小限に抑えられるか、またはなくなります。これにより、上側スイッチがオンするので、下側スイッチのボディダイオードの逆回復の影響が実質的になくなります。この機能により、電力損失は大幅に減少します。

 リップル電流を低減すると、インダクタの磁心損失、出力コンデンサのESR損失および、出力電圧リップルが減少します。リップル電流が少ないと、低周波時に効率の高い動作が得られます。ただし、これを実現するには大きなインダクタが必要です。部品のサイズと効率および動作周波数の間には相反関係があります。LTC7150Sの高い効率性能を図2のグラフに示します。

図2:LTC7150Sの効率性能

 独自の固定周波数/オン時間制御アーキテクチャは、高周波で動作しながら高速トランジェント応答を必要とする高降圧比アプリケーションに最適です。LTC7150Sのトランジェント応答性能を図3に示します。

図3:LTC7150Sのトランジェント応答性能

超低DCRによる電流検出アプリケーション

 「LTC7130」は固定周波数、ピーク電流モード制御の同期整流式降圧DC-DCコンバータで、温度補償された超低DCRによる電流検出機能およびクロック同期機能を備えています。デバイス独自のアーキテクチャにより、補償が容易であり、デバイスを直接並列に接続してより大量の出力電流を供給することができます。また、このデバイスは電流検出信号の信号対ノイズ比を高めるので、DC抵抗が非常に小さいパワーインダクタを使用して大電流アプリケーションでの効率を最大限に高めることができます。この機能により、低DCRアプリケーションでよく見られるスイッチングジッタも減少し、電流制限の精度も向上します。

 LTC7130の入力電圧範囲は4.5〜20Vなので、ほとんどの中間バス電圧など、多種多様なアプリケーションをサポートし、多くの種類のバッテリと互換性があります。内蔵のNチャネルMOSFETは、出力電圧範囲が0.6〜5.5Vのとき、最大20Aの連続負荷電流を供給することができるので、大電流/低電圧のDSP、FPGA、ASICリファレンス設計などのポイントオブロードアプリケーションに最適です。その他のアプリケーションは、通信システム、データ通信システム、分散電源アーキテクチャ、一般的な高電力密度システムなどです。標準的なアプリケーション回路を図4に示します。

図4:LTC7130の代表的なアプリケーション回路

 LTC7150SとLTC7130の機能の比較を表1に示します。

表1:LTC7150SとLTC7130の主な規格の比較
パラメータ LTC7150S LTC7130 注釈
入力電圧範囲 3.1〜20V 4.5〜20V LTC7150Sは12Vバス、5Vレール、または3.3Vレールから直接電力供給を受けることが可能
出力電圧範囲 0.6V〜VIN 0.6〜5V  
FSWの範囲 400kHz〜3MHz 250kHz〜770kHz LTC7150Sの方が外付け部品が小さい
tON 25ナノ秒 90ナノ秒 LTC7150Sの方がトランジェント応答時間が短いので、COUTを低減可能
マルチフェーズ 最大12相 最大12相
(外部クロックチップを接続)
 
電流制限 内部設定 外付け部品を使用したDCRによる検出  
パッケージ:BGA 6×5×1.3mm
(42ピン)
6.25×7.5×2.22mm
(63ピン)
 

まとめ

 FPGAやMPUなどの高性能デジタルICでの継続的な動向は、線幅を縮小するウエハー製造技術によって可能になった動作電圧の低下に対応して、電流が増加の一途をたどっていることです。それにもかかわらず、こうした進歩にはアプリケーション上の別の要求が付きまといます。パワーマネージメント市場では、高速のトランジェント応答、低ノイズ/リップル、発熱を最小限に抑える効率の高い動作の要求が該当します。従来、これらのデジタルICに電力を供給していたのは、LDOか、またはインダクタベースのスイッチングレギュレータコントローラと外付けのパワーデバイスでした。しかし、これらの問題を解決するため、新世代のモノリシック大電流スイッチング降圧レギュレータが、熱効率の優れたBGAパッケージでリニアテクノロジーから供給されています。これらの製品にはLTC7150SやLTC7130などがあります。どちらも独自の機能群を備えており、デジタルICに電力を供給する多種多様なアプリケーションに対応します。

著者
・Steve Knoth/アナログ・デバイセズ シニア製品マーケティング・エンジニア、パワー製品
・Steve Zhou/アナログ・デバイセズ シニア設計エンジニア、パワー製品

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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年11月1日














































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