ワイヤレス充電は、補聴器に利便性や密閉性などの面で利点をもたらします。しかし、ワイヤレス充電機能を補聴器に組み込むには、さまざまな要件を満たす必要があり、設計が困難になります。そこで、補聴器に最適な最新ワイヤレス充電ソリューションを紹介します。
補聴器は、一般的には、音を増幅して耳が不自由な人を支援する小型のウェアラブル電子デバイスです。補聴器の技術は、この20〜30年間で進化を続けてきました。例えば、比較的安価な旧型のアナログ回路タイプの補聴器と比べて、より高性能な新しいタイプのデジタル補聴器では、一部の周波数を選択的に増幅するようプログラムできます。さらに、デジタル補聴器は、装着者独自のニーズに合わせて調整し、特定の聴取環境に適合させたり、特定の方向から聞こえてくる音に集中するようプログラムしたりもできます。こうした特長により、補聴器は、単なる音増幅器の範疇を超えた、高度な電子機器になりました。
18歳以上のアメリカ人の約15%(約3750万人)が聴覚に何らかの問題を抱えていると言われています(出典:NIDCD)。米国の補聴器の総売上高は、販売が開始されてから、年平均3〜4%ずつ増加しており、2014年には米国の補聴器の売上高は300万台を突破しました(出典:NIH)。最も人気のある2つのモデルは、耳かけ型(BTE)補聴器と、RIC/RITE補聴器です(RIC:receiver-in-the-canal、RITE:receiver-in-the-ear)。
現在、耳かけ型またはRIC/RITE補聴器において最も一般的に用いられている電源ソリューションは、使い捨ての小型の空気亜鉛1次電池(0.9〜1.25V)です。このバッテリの化学物質は、容積エネルギー密度が極めて高いため、動作寿命が長く、小型化が可能です。しかし、空気亜鉛電池は充電ができないため、7〜10日ごとに電池交換が必要になります。小さなカバーで覆われた小さな電池を頻繁に交換するのは、手先があまり器用でない人や高齢者にはとりわけ厄介な作業です。
それにひきかえ、リチウムイオン電池は、妥当な長さの動作時間で、充電も可能なので頻繁に交換する必要がありません。しかし、現在のところ、シングルICのバッテリ充電ソリューションは市場に出回っていません。一般的な補聴器の電子機器は、シングルセル空気亜鉛電池で直接動作しますが、リチウムイオン電池の出力電圧は、その約3倍あります。そのため、リチウムイオン電池ベースのソリューションには、バッテリ・チャージャとともに、補聴器のASIC(特定用途向け集積回路)チップに適切な電圧を供給するための降圧レギュレータが必要になります。この複数ICのアプローチによりサイズが相対的に大きくなり、ノイズにセンシティブな音声回路では問題となるスイッチング・ノイズ/EMIが発生します。
ニッケル水素充電池駆動のソリューションでは、その両方のいいとこ取りが可能です。ニッケル水素電池の電圧出力は、空気亜鉛電池とほとんど同じで(そのため、降圧レギュレータの追加は不要)、充電が可能、標準的な空気亜鉛電池と同じサイズ・形状で提供されています。補聴器ユニット全体の寸法を小さくできるため、非常に魅力的な選択肢です。
では、なぜワイヤレス・チャージャが必要なのでしょうか。答えは明らかで、バッテリを充電することにより電池を頻繁に入れ替える手間をなくすことができるからです。既に述べたように、これは手先があまり器用でない人にとっては大きなメリットです。手先が器用な人にとっても利便性が向上します。ワイヤレス充電は、文字通り、ワイヤを接続せずに充電するため、コネクタは不要になります。ワイヤレス充電の手法とニッケル水素電池を組み合わせることで、便利で長持ちする充電ソリューションを提供できます。このため、補聴器を密閉して防水にすることが可能です。ユニットを開ける必要がないということはユニットの保護にもつながり、信頼性が向上し、製品寿命が延びます。
これまでに述べた3つのバッテリ・タイプのメリットとデメリットを表1にまとめます。
誘導性のワイヤレス電力伝送(WPT)システム(図1参照)は、トランスミッタ電子回路、送信コイル、受信コイル、レシーバ電子回路によって構成されます。受信する電力は、送信電力、送信(Tx)コイルと受信(Rx)コイル間の電磁結合(距離、アライメント、物理的特性、フェライト)、近くにある無関係のメタル、部品の許容誤差など、多くの要因によって左右されます。ワイヤレス電力伝送システムでは、電力は交番磁界を使用して伝送されます。送信コイルを流れるAC電流が磁界を発生します。この磁界の中に受信コイルを置くと、受信コイルにAC電流が誘導されます。受信コイルに誘導されたAC電流は、トランスミッタで印加されたAC電流と、送信コイルと受信コイル間の電磁結合の関数です。共振コンデンサを受信コイルに接続し、送信コイルのAC電流の周波数と同じ周波数に調整されたLCタンクを生成することで、共振を利用して、空隙を介した電力伝送範囲を拡大できます。
従来、WPT充電システムを構築するには、バッテリ・チャージャ、スイッチング降圧レギュレータ、WPT回路による複雑なソリューションが必要でした。サイズも大きくなりがちで、設計も困難でした。
以上のような問題を解決するワイヤレス電力レシーバおよびチャージャ・ソリューションには、次のような特性が必要になります。
このような特別な要件に対応するため、アナログ・デバイセズ(旧リニアテクノロジー)では、LTC4123を導入しました。LTC4123は、ニッケル水素電池(Varta社のPower One ACCU Plusシリーズなど)用定電流/定電圧リニア・チャージャを備えた30mWのワイヤレス・レシーバです。LTC4123に接続された外付けの共振LCタンクにより、デバイスは送信コイルによって発生した交番磁界からワイヤレスで電力供給を受けることができます。内蔵のパワー・マネージメント回路が、結合されたAC電流をバッテリの充電に必要なDC電流に変換します。LTC4123のワイヤレス充電により、製品を完全に密閉することができるので、空気亜鉛1次電池を頻繁に交換する必要がなくなります。
一方、複数のバッテリ組成で動作する柔軟性が求められる製品では、LTC4123の空気亜鉛電池検出機能により、同一のアプリケーション回路で、ニッケル水素充電池と空気亜鉛1次電池の両方で区別なく利用できます。どちらのバッテリ・タイプも、さらに電圧変換しなくても、補聴器ASICに直接電力を供給できます。一方、3.7Vリチウムイオン電池には、ASICに電力を供給するためのワイヤレス充電機能に加えて、降圧レギュレータが必要になります。
LTC4123は、受信コイルからのAC電力を整流するとともに、2.2〜5Vの入力電圧を受け入れて、フル機能搭載の定電流/定電圧バッテリ・チャージャに電力を供給できます。このチャージャは、最大25mAまでプログラム可能な充電電流、温度補償されたシングルセル1.5Vバッテリ充電電圧(±1%精度)、充電状態表示、オンボード安全充電終了タイマなどの機能を備えています。温度補償された充電電圧により、ニッケル水素電池が保護され、過充電が防止されます。電池の極性が逆向きに挿入されるとLTC4123は充電を行いません。また、温度が過度に上昇または低下すると、充電を一時停止します。
LTC4123は非常にコンパクトな、ロー・プロファイル(0.75mm)6ピン2×2mm DFNパッケージで提供されます。このデバイスは、Eグレード・バージョンで−20〜+85℃の範囲での動作が保証されています。
誘導性のワイヤレス・パワー・システムは、トランスミッタ電子回路、送信コイル、レシーバ電子回路、受信コイルで構成されます。このようなシステムにおいて、LTC4123はレシーバ電子回路の基盤となります。受信コイルはレシーバ電子回路のプリント回路基板(PCB)に内蔵できます。ACINピンに接続された外付けの共振LCタンクにより、LTC4123は、送信コイルによって発生した交番磁界からワイヤレスで電力を受けることができます。LTC4123のデータシートに示すように、トランスミッタとしては、TimerBlox電圧制御シリコン発振器のLTC6990を使用できます。図2に標準的応用例の回路図を示します。図3、図4は、レシーバ/チャージャおよび、トランスミッタのデモ基板を示しています。これらの図から、ソリューション・サイズがいかに小さいのかが分かります。
LTC4123ソリューションには、リチウムイオン+降圧レギュレータによるマルチチップ・アプローチと比べて、以下のようなアーキテクチャ上のメリットがあります。
LTC4123ベースのニッケル水素充電式駆動のソリューションを利用すると、優れた機能を持つ補聴器を容易に設計できるようになります。ニッケル水素電池は、電圧出力が空気亜鉛電池とほとんど同じで、充電可能であり、形状も標準的な空気亜鉛電池と実質的に同じです。LTC4123独自の機能セットにより、システムにほとんど変更を加えずに、補聴器およびその他のウェアラブル・デバイスにワイヤレス充電機能および優れた保護性能が追加されます。最後に付け加えるならば、バッテリ交換のために手先が器用でなければならない、ということもありません。
著者:Steve Knoth アナログ・デバイセズ(旧リニアテクノロジー)パワー製品担当シニア・プロダクト・マーケティング・エンジニア
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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年2月28日
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