車載、医療、民生機器向けなどのさまざまなバッテリ・アプリケーションに最適な新しいマイクロパワー・バッテリ保護デバイスの特長およびメリットについて解説する。
電源システム設計者は、バッテリ駆動の電子機器からいくつもの難題を突きつけられます。理論上、バッテリに関係する回路(DC/DC変換前)は、電源選択回路、充電回路(充電式バッテリの場合)、モニタリング回路、そして保護回路の4つの機能に分けることができます。電源選択回路は複数の電源間の優先順位を決定します。これは、バッテリ駆動システムではACアダプタ、USBポート、内部バッテリなど、複数の電源を利用できることが多く、充電回路をバッテリの化学物質ごとにカスタマイズする必要があるためです。モニタリング回路はバッテリ電圧、充電、および温度の状態を通知し、バッテリ保護回路と合わせて使用することで高い信頼性を確保します。本稿では、車載、医療、民生機器向けなどのさまざまなバッテリ・アプリケーションに最適な新しいマイクロパワー・バッテリ保護デバイスの特長およびメリットについて解説します。
火災や爆発とまではいかなくとも、ちょっとしたバッテリ関連のトラブルが、製品の評判を傷つける可能性があります。そのため、バッテリの安全機能の設計には細心の注意を払う必要があります。バッテリには、それぞれ、充電電流定格および放電電流定格があります。これらの定格を超過するとバッテリが過熱し、その寿命が縮むだけでなく、最悪の場合、爆発を引き起こします。過電流保護はヒューズで実装することもできますが、ヒューズは場所を取り、反応が遅く、そのトリップしきい値には大きな許容誤差があります(図1)。
充電式バッテリが回復不可能な損傷を受けることがないよう、深放電に入る前に充電式バッテリを切断しなければなりません。3.7Vのリチウムイオン電池の場合、この判断基準は約2.5Vです。バッテリを負荷から切断するためには、低電圧ロックアウト(UVLO)回路が必要です。UVLOは、コンパレータ、リファレンス電圧、およびソリッドステート・スイッチで実装できます。PチャネルMOSFETハイサイド・スイッチは、オンにするのにチャージポンプを必要としないため、バッテリ電流ドレインを低減できますが、PチャネルMOSFETの選択肢は限られており、同じオン抵抗に対するコストがNチャネルMOSFETより高くなります。逆に言えば、グランド・ラインをフロート状態にできる場合、もっと効率的なNチャネルMOSFETローサイド・スイッチを使用できるということです。低電圧しきい値には十分なヒステリシスが必要です。ヒステリシスが十分にない場合、負荷がオフになった後にバッテリ電圧が復帰するとき、UVLO回路がオンとオフの間を揺れ動くことになります。
バッテリ保護の後は、負荷の保護について考慮する必要があります。トランジェント電圧サプレッサは、リンギング、スパイク、サージなどによる短時間の過電圧(OV)保護を実装しますが、長時間の過電圧およびDC過電圧状態ではバーンアウトします。そのため、入力過電圧から負荷を保護するためにコンパレータをもう1つ用意する必要があります。負電圧を許容できない場合、バッテリの極性表示を間違えて挿入すると、負荷が損傷を受けることがあります。直列ダイオードを使用すれば負電圧をブロックできますが、直列ダイオードは電力を損失するため、順方向動作中に大きな電圧降下が起こります。
以上のことから、バッテリ駆動システムを全面的に保護するためには、かなりの数のディスクリート部品および回路が必要になります。同時に、バッテリの動作時間とスタンバイ時間を縮めないよう、これらの回路の自己消費電流を低く保つ必要があります。例えば、車を数週間駐車しただけでバッテリが放電されるのを防ぐため、車載電子モジュールのスタンバイ電流バジェットは100μA未満にします。電流損失の大きい回路では、バッテリから回路を切断するためにリレーを使用できます。リレーは、負荷をオン/オフするためにも使用できますが、場所をとるため、省スペース化が図れません。より効率的でシンプルな保護手法が求められます。
アナログ・デバイセズのLTC4231は、超低自己消費電流(IQ)のホットスワップ・コントローラです。2.7V〜36Vのシステムにおける基板またはバッテリの安全な抜き差しを可能にします(図2)。動作範囲が2.7V〜36Vであることから、鉛蓄電池、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池スタック、ニッケル・カドミウム蓄電池、アルカリ電池など、幅広いバッテリ組成に対応できます。
LTC4231は外付けの低損失NチャネルMOSFETを制御して、スパーク、コネクタの損傷やシステム・グリッチの発生を防ぎながら、基板コンデンサの電源を投入します。ソフトスタートおよび突入電流のレベルは、MOSFETゲートに接続した抵抗コンデンサによって簡単に調整できます。通常動作(パスMOSFETが完全にオン)中、タイマ付きの回路ブレーカーおよび高速な電流制限により、デュアル・レベルの過電流保護が提供されます。軽度の過負荷が発生すると、フォルト・タイマがアクティベートされます。このタイマが超過すると、MOSFETが開放され、負荷が切断されます。重度の過負荷または出力の短絡が発生すると、フォルト・タイマがアクティベートされ、負荷電流が回路ブレーカーのしきい値の60%より上に制限されます。過電流フォルト後にLTC4231がオフのままになるか、500msのクールダウン時間後に自動的にオンになるかは、オプションによって異なります。
低電圧保護は、低電圧バッテリを切断して、深放電を防ぎます。調整可能なヒステリシスにより、負荷を切断した後のバッテリ復帰による変動を防止できます。入力過電圧は負荷を切断して損傷を防ぎます。LTC4231は、バック・トゥ・バック接続のNチャネルMOSFETを制御することで、最大-40Vの逆向きのバッテリからLTC4231自体と下流回路を保護します(図3)。逆入力保護が必要ない場合は、1つのMOSFETで十分です。
これほどの機能を搭載しているのに、LTC4231の通常動作中の自己消費電流はわずか4μAに過ぎません。シャットダウン・モードでは、自己消費電流は0.3μAに低下するとともに、外付けのNチャネルパワーMOSFETをオフにして下流回路を切断し、バッテリのスタンバイ時間を延ばします。低電流動作を実現するため、低電圧および過電圧抵抗分割器がストローブされたグランド接続が行われているとき、その平均消費電流を1/50に低減します。
LTC4231は、電流消費の激しい他のコントローラと変わらない保護機能を提供しつつ、通常動作中の電流消費を減らすために2つの画期的な手法を採用しています。外付けNチャネルMOSFETをオンにしてそのオン抵抗を低減するため、LTC4231は内部チャージポンプを使用して入力電圧より少なくとも10V高いゲート電圧を生成します。他のコントローラでは、ゲートがオンになった後もチャージポンプは動作し続け、実質的にアイドル状態であるのに自己消費電流を大きく増加させる原因となります。一方、LTC4231は、MOSFETゲートがピーク電圧に達した後、チャージポンプをオフにします。リーク電流によってゲート電圧が低下すると、チャージポンプがオンになってチャージ・パルスを供給し、ゲート電圧をリフレッシュします。例として、ゲートのリーク電流が0.1μAのとき、および1μAのときの動作を図4、図5に示します。チャージポンプのオン電流は200μAですが、スリープ・モードでは2μAに低下するため、この手法により、チャージポンプの電流消費を50分の1〜100分の1に低減できます。
LTC4231の自己消費電流を低減するための2つ目の手法は、低電圧しきい値を下回っていないか、過電圧しきい値を上回っていないかのチェックを、入力電圧を10msごとにサンプリングして行うというものです。外付けの入力電圧抵抗分割器用に、ストローブされたグランド接続(GNDSW)が用意されています(図6)。定期的にサンプリングを行うことで、抵抗分割器の電流消費は50分の1に低減できます。この50は、サンプリング周期(10ms)をサンプリング・ウィンドウ(200μs)で割った値です。UVLピン、UVHピン、OVピンをモニタリングするコンパレータも、サンプリング・ウィンドウ中だけオンになるため、その平均電流消費量も50分の1に低減できます。バッテリの電圧変化は緩やかであるため、バッテリには10msのサンプリング周期で十分です。ただし、起動時に低電圧または過電圧状態が発生した場合、LTC4231はMOSFETをオフに維持し、範囲外の電圧が負荷に伝搬しないようブロックします。
ワイヤレス・センサ、フィットネス・トラッカー、AR眼鏡、ドローン、ロボットなど、最先端の電子機器アプリケーションのほとんどが機能性、携帯性、利便性のためにバッテリ駆動になっています。リチウムイオンなどのエネルギー密度の高いバッテリにより、バッテリの安全性の問題への一般の人々の関心が高まっています。LTC4231は、特に省電力が求められるアプリケーションにおいて、ホットプラグおよびバッテリ保護のためのシンプルで省面積かつ堅牢なマイクロパワー・ソリューションを提供し、バッテリの深放電、出力過負荷、短絡、過電圧、バッテリの逆差しからシステムを保護します。
著者:Pinkesh Sachdev アナログ・デバイセズ ミックスド・シグナル製品担当プロダクト・マーケティング・エンジニア
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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2018年4月6日
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