試作品や製品のテストにおいて、電圧や電流、温度などを多チャンネルで一度に測定したいときに便利なのが、データロガーです。データロガーを使ってこれらの物理パラメーターを測定するときの注意点や、測定を自動化するときの方法について、キーサイト・テクノロジーに解説してもらいました。
電子機器の開発において、試作品や製品のテストでは電圧や電流、温度変化などを測定します。このような測定で一般的に使われるのが、デジタルマルチメーターです。1台で電圧、電流、温度などを高い確度で測定できますが、入力が一つで、一度に1カ所しか測定できません。
ですが、同じ製品を複数箇所、つまり多チャンネルで同時に測定したい場合も多々あります。複数箇所をデジタルマルチメーターで測定しようとすると、一つずつ順番に測るしかないので、「長時間測定して変動を見たい」という時には大変時間がかかってしまいます。だからといって、デジタルマルチメーターを何台も使って測定するのは、スペースの点であまり現実的ではありません。さらに、複数台のデジタルマルチメーターを使うには、外部から測定器を制御する回路が必要になり、手間もかかります。
そんな時に活用したいのが、データロガーです。電圧、電流、温度をはじめ、抵抗値や容量値など、さまざまな特性試験が1台で可能になり、外部制御回路を作成する必要がありません。今回は、データロガーの利点や使い方を、計測器メーカーのキーサイト・テクノロジーに説明していただきました。
計測器で電圧や温度などを測定する場合、「電圧」「温度」といった物理パラメーターを、計測器が読み込めるような電気信号に変換する必要があります。例えば「温度」の場合は、温度センサーが、「温度」を「DC電圧」や「抵抗値」という信号に変換することで、測定器が読み込めるようになるというわけです。ただ、温度センサーとひと口に言っても、熱電対、RTD(測温抵抗体)、サーミスタなど、複数の種類があります。センサーによって出力される信号は異なるので、測定器はそれらの異なる信号に対応することが必要になります。
キーサイト・テクノロジーが提供するデータロガー「DAQ970A」には、さまざまなセンサーに対応できるよう、チャンネルごとにシグナルコンディショニング回路が搭載されています。この回路は、小信号の増幅、大信号の減衰、熱電対補正、ノイズ除去のためのフィルタリングといった処理を担っています。これによって、センサーを測定器に接続するだけで、簡単に測定を始めることができます。
センサーを測定器に接続する際には、ケーブルも重要になります。ケーブルは、センサーからの電気信号を測定器に送るわけですが、ケーブルや接続が不適切だとさまざまな問題が発生する可能性があります。その一つがノイズです。システムからノイズを減らす方法としては、常にツイスト・ペア・シールド・ケーブルを使用することが挙げられます。ワイヤの各ペアが寄り合わせて作られており、他のケーブルからのクロストーク干渉が減少するのです。
ノイズの発生要因の一つは電源ラインですが、電源ラインのノイズ除去には、積分型A-Dコンバーターが有効です。一部のデータロガーシステムには、積分型A-Dコンバーターが搭載されています。
さらに、ミリボルトオーダーなど非常に低い電圧の信号を送る際には差動入力が必要になります。シングルエンド入力もありますが、差動入力は、EMIを低減できる、近くのケーブルからの干渉を減らせる、といった利点があります。また、ケーブル自体の抵抗の影響を受けるような測定では、4線式の測定が必要になります。
このように、ケーブルや入力接続は、正しく測定する上で大変重要になります。
測定が多チャンネルで長時間に及ぶ場合は、自動計測が便利です。自動計測のシステムを構築し、データをPCに取り込むにはいくつか方法があります。ここでは、DAQ970Aと、キーサイト・テクノロジーが提供するソフトウェアを使った、以下の3つの方法を説明します。
被測定物には「Raspberry Pi(ラズパイ)」を使います。回路の電圧と電流、ラズパイのCPUの温度を測定します。CPUの動作状態を変更し、それぞれの測定値がどのように変化するかを観察します。温度センサーには熱電対を使用します。
DAQ970Aの3チャンネル(Ch)を使い、「Ch 1」で電圧を、「Ch 2」で温度を、「Ch 21」で電流を測定します。
まずは「方法1:BenchVueを使う」を見てみましょう。BenchVueを使うと、電源や信号発生器など複数の測定器を制御し、テストシーケンスを自動化することが容易に行えます。使用するチャンネルの設定や測定を開始するタイミング、スキャンの間隔、結果をどのようなグラフで表示するかなどを画面上で設定すれば、多チャンネルの自動計測を実現できます。
製造ラインなどで、データロガーと他の機器を組み合わせる場合、VBAで制御することがあります。このような場合には、「方法2:Excel VBAを使う」が適しています。テストシーケンスのプログラムをExcel VBAで記述し、それを、Excel上に作成したボタンにマクロとして登録する方法です。ボタンをクリックすれば、プログラム通りに測定が行われます。
このように、BenchVueやExcel VBAを使えば測定結果を簡単にPCに取り込むことができます。一方で、電池の充放電試験のように、10分に1回、1時間に1回の間隔で、1週間や1カ月間といった長期にわたってデータをロギングしたいケースもあります。このような場合、PCを使わずに、USBメモリに直接データを保管する方法も使います。それが「方法3:USBメモリ」になります。
DAQ970Aは、チャンネルの設定やスキャン間隔などを測定器のディスプレイ上で行うことができます。
今回使用したDAQ970Aは、読み出しが6桁半と高確度のデジタルマルチメーターを内蔵しています。デジタルマルチメーターとデータロガーを比較した場合、一般的にはデジタルマルチメーターの方が高精度ですが、DAQ970Aでは、デジタルマルチメーターと同等の測定確度を実現しているのが特長です。さらに、1μAと超低電流レンジを測定できる性能も備えています。
データロガーは複数の測定点の挙動を長時間測定する場合、最適なツールとして活用されています。
単に温度、電圧が測定できればよい、という場合もありますが、近年の複雑化する電子機器回路の評価を想定して、弊社のデータロガーでは精度の高い測定を実現しています。
さらに短時間での多チャンネル測定を実現するために、450ch/sのスキャンレートを実現したモジュールも提供しています。
また、温度、電圧だけでなく、電流、抵抗、容量値なども一つのモジュールで測定でき、回路評価を大幅に効率化します。
本レポートがデータロガーの選択、活用のヒントになれば幸いです。
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アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2019年3月31日