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液体測定 ―― 水から血液までアナログ回路設計講座(34)

液体測定の対象は水だけではありません。血液、唾液、排泄物といった医療関連の液体は健康に直接関係することから、疾病の可能性を判断するために検査可能であることが必要です。これらの測定すべてに共通するのが、基盤となる測定原理であるインピーダンス測定です。本稿では、医療用途の液体測定に的を絞って、個々のアプリケーションとインピーダンス測定の汎用性について論じます。

» 2020年05月11日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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はじめに

 液体の組成と品質を測定することは、さまざまな用途に不可欠な要素です。その代表例が、世界で最も重要な原材料である水です。きれいな水と浄水技術は世界中で重要な役割を果たしており、生活に欠かせません。減り続けるきれいな水資源を利用できることは、ますます重要なテーマとなりつつあります。しかし、液体測定の例は水だけではなく、はるかに広い範囲に及んでいます。血液、唾液、排泄物といった医療関連の液体は健康に直接関係することから、疾病の可能性を判断するために検査可能であることが必要です。これらの測定すべてに共通するのが、基盤となる測定原理であるインピーダンス測定です。本稿では、医療用途の液体測定に的を絞って、個々のアプリケーションとインピーダンス測定の汎用性について論じます。

医療分野の液体測定

写真はイメージです。

 医療分野で最も広く知られている液体測定が、血液中のグルコース測定です。この場合、試験片上の一滴の血液で十分に血糖値レベルを判定することが可能で、患者はこの値に基づいて投薬量や食事を調整することができます。将来的には、技術の進歩により、単発的な測定から、血糖値を常にモニタするための連続的な測定へと方法が変わっていくことが予想されます。そのためには、極めて正確で省電力のインピーダンス測定がすぐにでも必要です。

 液体測定のもう1つの用途が透析です。慢性腎不全の場合は、血液をろ過する必要があります。透析液の導電率も、インピーダンス分析により測定されます。この方法で、例えばpH、導電率、組成、飽和度などを測定することが可能になります。

 最後に、患者の排泄物や尿も測定されます。この場合は、疾病や異常の判定を下すために排泄物を検査します。これは医療分野では比較的新しい領域で、多種多様なアプローチと広範な方法が存在します。しかし、その基礎となるのは電極を介したインピーダンス測定であり、これによってさまざまな疾病の判定を下すことが可能となります。ここではpH測定に加えて、例えば導電率測定が行われます。

 もちろん、以上に述べた測定がすべてではありません。人間や動物の医療技術で用いられる液体測定は、例えばホルモンの測定や医薬品の測定など、この他にも多数あります。これらの場合も、やはりインピーダンス測定が重要です。

 測定はすべてそれぞれ異なるパラメータを求めるものですが、いずれもインピーダンス分析が基礎となっています。このような測定にはどれも多くの側面がありますが、共通する点が1つあります。ウェアラブルデバイスに対応するために、省電力や省スペースのソリューションに対するニーズが大きいことです。以下では、さまざまなインピーダンス測定方法について述べます。これらの方法の中には、分析を行うために組み合わせて使われるものもあれば、個別に使われるものもあります。

さまざまなインピーダンス測定原理

 インピーダンス測定の背景となる基本原理はすべてのアプリケーションに共通していますが、個々の測定能力には大きな違いがあります。以下では、液体測定に最も関係深い方法について説明します。

ポテンショスタット

 最も基本的かつ広範に使われる測定原理は、ポテンショスタットに基づくものです。図1に示すように、ポテンショスタットは、作用電極(WE)と基準電極(RE)間の電圧の測定と制御を行います。WEの電位は、対電極(あるいは補助電極)に流れる電流の調整を通じ、基準電極に対して一定に保たれます。

図1:ポテンショスタット測定の原理

電流測定

 電流測定の最も単純な形態は、バイアス電圧をセンサーに印加し応答電流を測定するものです。この場合、REとWEの間には一定の電圧が加えられ、電流/電圧コンバータとA/Dコンバータ(ADC)を使って電流プロファイルがデジタル信号に変換されます。この電流プロファイルは、センサーと測定変数の両方に依存したものとなります。ADuCM355を使用した回路を図2に示します。

図2:電流測定

サイクリック・ボルタンメトリ

 ボルタンメトリ測定は電気化学的に作用するもので、測定時は電気化学セルの電位がゆっくりと上昇し、その後は直線的に減少します。したがって、電位は三角波状に変化し、その間にWEを流れる電流が測定されます。ボルタンメトリは、例えば分析物のハーフセル反応の測定に使われます。この方法は電気分解の一形態であり、得られる電流は酸化還元反応の結果です。この方法では、サンプルを定性的、定量的に調べることができます。

導電率測定

 導電率測定は、液体のオーム抵抗を求めることによって行われます。この測定は、互いに平行に配置した2個の不活性電極を液体中に浸漬し、ACを使用して抵抗を測定することによって行います。このプロセスを通じて電解質の移動度、粒子密度、酸化状態を予想することで、最終的に溶液の濃度を求めることができます。

pH測定

 pH測定はハーフセル反応の原理に基づいて行われます。この反応は電極メンブラン上で生じ、H+イオン濃度と直接的な依存関係にあります。この電位差から電圧が生じますが、その値とpHとの関係は直線的です。pH測定における大きな問題の1つはpHセンサーの直列抵抗が非常に大きいことで、このため分析用の電子機器に大きな役割が課せられます。

電気化学式インピーダンス分析

 電気化学式インピーダンス分析は、全周波数域を通じて電気化学セルやセンサーのインピーダンスを測定するものです。周波数の変化に伴うインピーダンスの変化によってセンサーの消耗を測定し、それに合わせてシグナル・チェーンを自動的に調整することができます。ここでは、時間の経過(数日間から数週間)に伴うセンサー精度の低下が問題となります。これはさまざまな測定の全体的精度にかなりの悪影響を及ぼす可能性があり、例としては継続的なグルコース測定(CGM)が挙げられます。これらの測定は健康にとって重要なものなので、センサーの精度は継続的にチェックする必要があります。回路の例を図3に示します。

図3:電気化学式インピーダンス分析

 以上に述べた医療用の各種測定は要求事項とパラメータが大きく異なるので、それぞれに使われる測定方法も異なります。さらに、補償のための温度測定により温度キャリブレーションを行うことも必要になります。また、精度の補完や向上のため、部分的に複数のセンサーを使用する必要もあります。ディスクリート設計の場合、これらの測定にはすべて広い回路基板面積が必要で、消費電力も大きくなります。

 最近、特に医療技術分野では、ウェアラブルデバイスや使用可能なデバイスに挿入できるように、小型で消費電力の小さい低コストのソリューションが求められています。アナログ・デバイセズのADuCM355は、まさにこのような設計課題に対応するために開発された製品です。

ADuCM355 ―― あらゆる用途に対応できる汎用デバイス

 1つであらゆる測定に対応できるソリューションがADuCM355です。高度に集積化されたこのチップは、省電力化されたアナログフロントエンドと、巡回冗長検査(CRC)などのハウスキーピング機能とセキュリティ機能を受け持つマイクロコントローラで構成されています。主要コンポーネントを示したADuCM355のブロック図を図4に示します。

図4:ADuCM355のブロック図

 このデバイスは、非常に小さい消費電力で電気化学式センサーと生物学的センサーを制御します。Arm Cortex-M3プロセッサ技術をベースとしたこのチップは、電流、電圧および、抵抗の測定機能を備えています。また、入力バッファ付きの16ビット400kSPSマルチチャンネルSAR ADCに加えて、アンチエイリアシングフィルタ(AAF)とプログラマブルゲインアンプ(PGA)を内蔵しています。電流入力のトランスインピーダンスアンプ(TIA)はプログラマブルゲイン式で、さまざまなセンサータイプに対応するための負荷抵抗が組み込まれています。AFEも、外部の電気化学式センサーに対してバイアス電圧を一定に保つことができるよう、ポテンショスタット用に特別に開発されたアンプを内蔵しています。それぞれの入力チャンネルは、ADC前段にある入力マルチプレクサを介して選ぶことができます。これらの入力チャンネルには、3つの外部電流入力と、複数の外部電圧入力および内部チャンネルが含まれています。3つある電圧D/Aコンバータ(DAC)のうちの2つは、デュアル出力DACです。デュアル出力DACの1つ目の出力はポテンショスタットアンプの非反転入力を制御し、もう1つの出力はTIAの非反転入力を制御します。3つ目のDAC(高速DACとも呼ばれる)は、インピーダンス測定用の高性能TIAに合わせて設計されています。DACの出力周波数範囲は最大200kHzです。Arm Cortex-M3プロセッサは柔軟なマルチチャンネルのダイレクトメモリアクセス(DMA)コントローラも備えており、このコントローラは2つの独立したシリアルペリフェラルインターフェース(SPI)ポート、1個のユニバーサル非同期レシーバー/トランスミッタ(UART)および、1個のI2C通信ペリフェラルをサポートします。一連の通信ペリフェラルは、必要に応じ特定のアプリケーションに合わせて構成することができます。これらのペリフェラルには、UART、I2C、2つのSPIポートおよび、汎用入出力(GPIO)ポートが含まれています。これらのGPIOをユニバーサルタイマーと組み合わせれば、パルス幅変調(PWM)出力を形成することができます。

その他の測定

 以上に述べた測定用のセンサーのほとんどは、ADuCM355の入力を介して直接操作することができます。これは、例えばグルコース測定などのポテンショスタット測定に使用できます。これに対し、導電率やpHの測定などをより正確に測定するには拡張シグナルチェーンが必要となり、LTC6078などのチップを外付けする必要があります。この場合は、正確な値を読み取ることができるようにセンサーの高い出力インピーダンスに合わせて調整を行うため、入力インピーダンスを大きくします。以上に述べた測定とは別に、センサーの変動を補償できるように温度を測定する必要もあります。拡張された測定原理を図5に示します。より大規模なシグナルチェーンを使用することにより、ADuCM355を使用して電圧と電流の両方を読み出すことができます。図に示す回路を使用すれば、100Ω未満から10MΩまでの範囲のインピーダンスを検出することができます。この広い測定範囲によって、医療分野に必要とされるインピーダンス範囲のすべてに対応することが可能となります。導電率の測定においては、さまざまな濃度を測定できるように、ダイナミックレンジの広いことが特に重要です。

図5:ADuCM355を使用したpH、温度、導電率の測定

まとめ

 さまざまな液体の測定にはインピーダンス測定が基本原理として使われますが、測定方法は液体によってそれぞれ異なります。例えば、異なるパラメータを記録するには異なるセンサーを接続する必要があります。この多様性に対応する一方で、小型の省電力デバイスを求める傾向の高まりにも対処するために、スマートソリューションの導入は喫緊の課題です。ADuCM355はこれらの要求をすべて満たすだけでなく、医療分野のインピーダンス測定においてスイスのアーミーナイフのような役割を果たします。実際にこのICは、液体測定に加え、例えば体内脂肪の分析や皮膚のインピーダンスなど、医療分野における他のインピーダンス測定も可能にします。さらに、その汎用性によって、適切なセンサーを使用することでCOやCO2などのガスを電気化学的に測定することも可能です。このことが、ADuCM355をインピーダンス測定用のオールインワンパッケージとして使用することを可能にしています。

著:Christoph Kämmerer

 Christoph Käemmerer。2015年2月よりドイツのアナログ・デバイセズに勤務。2014年にエアランゲンのフリードリヒ・アレクサンダー大学を卒業。物理学修士。その後、プロセス開発のインターンとしてリムリックのアナログ・デバイセズに勤務。2016年12月にフィールド・アプリケーション・エンジニアとしてのトレイニー・プログラムを終了したのち、アナログ・デバイセズに引き続き勤務、新規アプリケーションを担当。


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提供:アナログ・デバイセズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年6月10日














































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