IoTとAIの時代が到来し、さまざまな機器で膨大な量のデータが処理され、グローバルなレベルでデータが行き交うことから、増加する電力需要に応えられる拡張機能を備えたパワーエレクトロニクス製品が求められている。Texas Instruments(TI)は、こうした要件を満たす、高い電力密度や変換効率を実現した最新のGaN製品や降圧型DC/DCコンバータを展開している。
Texas Instruments(TI)で降圧DC/DCスイッチング・レギュレータ担当バイスプレジデントを務めるMark Gary氏は、「自動車や家電に接続性という新しい機能を追加したり、工場にスマートセンサーを追加したりする事例が増え、電力需要はかつてないほど増加している。それに伴い、電源設計においては、低EMI、電力密度、低静止電流、低ノイズ、絶縁に対する要求が、これまで以上に高まっている」と強調する。
「低EMIは、クルマの電動化が加速している自動車業界で、特に重要視されている。電力密度に対する要求は、CPUやGPUなどのプロセッサがより大電流を必要とするようになっていることで、高まっている。バッテリーで駆動するIoT機器では、とりわけ低い静止電流が求められる。ノイズについても、外付けのフィルターなど部品を追加することなく低く抑える技術が重要になっている。また、工場などの自動化を進める上では、低電圧設備を高電圧設備から保護する絶縁が、電源設計では欠かせない」(Gary氏)
こうした背景から、次世代の電源ICには、小型化、高性能化、堅ろう性の向上という3つが特に要求されるようになっている。「小型化は電力密度の向上、高性能化は主に変換効率の向上を指す。堅ろう性の向上は、自動車をはじめとしたあらゆる分野で求められている」(Gary氏)
TIは、これらの要件に応えるパワー製品のラインアップ強化を図っている。ここでは特に電力密度を大幅に高めるGaN製品と降圧型DC/DCコンバータに注目した。
電力密度の向上に欠かせないのが次世代パワー半導体の一つであるGaNだ。TIはここ10年、GaNパワーデバイスへの投資を加速し、研究開発を強化している。車載市場や産業市場を注力用途に据え、GaN-FETのみを自社で開発、製造しており、現在は耐圧600V、オン抵抗が150mΩ/70mΩ/50mΩの製品を量産中だ。
TIは、2018年にドイツSiemensとともに、GaNを用いた10kW対応送電網のデモアプリケーションを開発するなど、着実に存在感を増している。2018年には2000万時間、2020年には3000万時間に及ぶ信頼性試験を行うなど、デバイス信頼性の向上にも余念がない。
TIの強みは、集積しやすいGaN-FETを自社で開発、製造することにより、TIが持つゲートドライバーや保護回路とともにシングルパッケージに収められる点だ。Gary氏は「自社の部品を、自社の製造ラインで集積することで、システムとして、より優れたGaN製品を作り出すことができる。パッケージに収められた一つ一つの部品のことを、よく理解しているからだ」と説明する。さらに、GaNの高速スイッチングを生かせる高性能DSP「C2000」があることも、GaNベースの電源システムとして提供する上で強みとなる。
その例として、最近、C2000 DSPを使った対流冷却式の900 V、5 kW双方向AC / DCプラットフォームのデモを実施した(デモ詳細)。5kWレベルまでのアプリケーションに対応し、効率は、冷却ファンなしで最大99.2%を実現している。従来のSi-IGBTを使う場合に比べて、300%高い電力密度を実現することが可能だ。
「現在、TIにとってGaN製品の最大の市場は産業用途だが、今後は車載向けの成長を期待している。クルマでは、1台当たりに搭載されるデバイスの個数が多くなるからだ。例えば1台のOBC(オンボードチャージャー)には8〜32個ものGaN-FETが搭載される可能性がある。車載市場でGaN-FETの採用が本格的に進めば、非常に大きなビジネスチャンスになる」(Gary氏)
Gary氏は「3〜5年前、GaNパワーデバイスに対する懸念点は主に信頼性だった」と述べる。「だがわれわれは、3000万時間という信頼性試験を行うことで、信頼性に対する疑念を払拭できたと確信している。現在は、技術的な課題よりもコスト面での課題が大きい。デバイス単体でコストを考えてしまうと、どうしてもシリコンよりも高くなってしまうからだ。だがシステム全体で考えればGaNを採用することのメリットの方が大きいということを知ってもらえるよう、努めていく」(同氏)
2020年3月に発表した降圧型DC/DCコンバータIC「TPS546D24A」は、高い電力密度が特長だ。外形寸法は5×7mmのQFNパッケージと小型で、出力電流は40A。さらに、データセンター向けプロセッサや、5G(第5世代移動通信)基地局向けチップといった大電流が必要な用途では、4個を積層して最大160Aを出力できる。Gary氏は「この4〜5年で、われわれは降圧型DC/DCコンバータICの電力密度を約2倍に高めることに成功した」と述べる。
TPS546D24Aでは、内部補償部品を選択できるので、基板設計において外部補償部品を最大6個低減できる。そのため、ディスクリートの多相コントローラーを使用した場合に比べて、電源全体のサイズを約10%以上小型化できる。
さらに、TI独自のパッケージ技術によって、8.1℃/Wと低い熱抵抗を実現した。「競合品に比べると、動作温度が13℃低くなる。ファンのサイズや冷却コストの低減に大きく貢献できるだろう」(Gary氏)。これほど低い熱抵抗を実現できた理由としてGary氏は2つを挙げる。1つ目は、使用しているTIのMOSFETそのもののオン抵抗が低いこと。2つ目はパッケージの工夫だ。PCBのグランド層への熱抵抗を低くするためのソースダウンMOSFETパッケージを採用し、パッケージ内の効果的な放熱と優れた熱性能を実現している。
出力電圧の誤差を1%未満に抑えているので、厳密な電圧精度を求めるFPGA電源の要件にも応えられる。ピンストラッピング設定により、高精度で電流をモニタリングし、アラートを出すことも可能だ。
「TPSM53604」は、2020年2月に発表した降圧型DC/DCパワーモジュールである。DC/DCコンバータコンバータの他、磁性部品とインダクタを統合したものだ。入力電圧は最大36V、出力電流は最大4Aで、24V系の産業機器などに適した製品となっている。24Vから5Vへの変換効率は最大で95%を実現している。パッケージは5×5mmのQFN。実装面積は85mm2に抑えることが可能だ。同モジュールを使用することで、電源のサイズを30%小型化でき、電力損失を50%削減できるというメリットがある
また、TPSM53604は高周波数バイパスコンデンサを搭載していて、ボンドワイヤがないことから、CISPR 11 Class BのEMI規格の準拠に有効だ。「外付けフィルターを追加する必要がないので、コストとサイズの面でメリットがある」(Gary氏)
2020年2月には、出力電力500mWの絶縁型DC/DCバイアス電源「UCC12050/40」も発表した。UCC12050は、強化絶縁が5000Vrms、動作電圧が1200Vrmsで、UCC12040は基本絶縁3000Vrms、動作電圧800Vrmsとなっている。
UCC12050/40は、TI独自の統合トランス技術を用いて開発した絶縁型電源の第1弾となる製品で、極めて低いEMIと高い電力密度が特長だ。パッケージは10.3×10.3×2.65mmと指先に乗るほど小さくて薄い。電源ソリューションの容積を、ディスクリートで構成した場合に比べて最大80%、電源モジュールと比べて60%削減することができる。一方で、競合の類似品に比べて効率は2倍、電力密度も、同等レベルの絶縁電源モジュールの2倍を実現した。
UCC12050/40では、トランスも独自に設計、統合することでEMI性能を最適化した他、低ノイズの制御方式を採用することで、両面基板の設計において、CISPR 32 クラスBのEMI試験に合格できるよう支援している。
今回は、主に高電力密度を実現するGaNと最新のDC/DCコンバータ製品を取り上げたが、TIは他にも多様なお客様の設計ニーズに応じた多種多様なパワー製品群をそろえている。世界各国で展開している工場での製造を通して、産業機器や車載分野で特に重要となる製品の長期供給にもコミットしている。回路設計/シミュレーターツールの「WEBENCH Power Designer」や、オンラインでのサポート、電源設計セミナーなどエンジニア向けのトレーニングといった豊富かつ包括的なリソースで、電源設計を支える。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年6月26日