EDN Japan主催のオンラインセミナー「次世代デバイスのための電源」での講演「IoTエッジデバイスの小型化と低消費電力化に向けた電源ソリューション」を振り返る。
トレックス・セミコンダクターの製品企画部で拡販・マーケティンググループ技術理事を務める仲剛志氏は、EDN Japan主催のオンラインセミナー「次世代デバイスのための電源」で、「IoTエッジデバイスの小型化と低消費電力化に向けた電源ソリューション」をテーマに講演した。
IoT(モノのインターネット)エッジ・センサーデバイスは、各種産業機器センサーをはじめ、FA機器やセキュリティ機器、OA機器、医療/農業/社会インフラ用モニターなど、身の回りにあるさまざまな分野に広がる。こうした状況から、次世代IoTエッジ・センサーデバイス用電源に対し、高効率で安定した電力供給に加え、低EMIや高密度実装、さらなる消費電力の低減、といった要求が強まる。
こうした中でトレックス・セミコンダクターは、コイル一体型DC/DCコンバーター(micro DC/DC)電源モジュール「XCLシリーズ」や、低消費電力の小型降圧DC/DCコンバーターIC「XC9276シリーズ」、Push Buttonインテリジェントロードスイッチ「XC6193/XC6194シリーズ」などを用意。次世代IoTエッジ・センサーデバイスに向けた電源ソリューションを提供している。
仲氏は講演で、IoTエッジ・センサーデバイスの電源構成として代表的な2つの例を挙げ、その要件や課題、対応策を紹介した。それは、「一次電池で動作するデバイス」と「12V/24Vを供給されて動作するデバイス」における電源回路である。これらの電源回路に共通する主な課題として、「小型化」や「低EMI」「発熱対策」「高効率」「供給電源の安定性」および、「電源停止時のバックアップ機能」などを挙げた。その上で、これらの課題を解決する同社のソリューションを紹介した。
「一次電池で動作するデバイス」の電源構成例では、負荷切断タイプのコイル一体型昇圧DC/DCコンバーター電源モジュール「XCL103」や、2電圧の切り替え機能を持つ降圧DC/DCコンバーターIC「XC9276」、極めて電力消費が小さい電圧検出器「XC6136」および、Push Buttonインテリジェントロードスイッチ「XC6194」といったICが用いられている。
特に、スマートメーターのように10年以上も使われるIoTデバイスにおいて、課題となるのがIoTデバイス出荷時の放電対策である。最近のIoTデバイスは、出荷時に電池が内蔵され、絶縁フィルムやメカニカル電源スイッチがない場合もある。このため、製品出荷時から電池の消耗が始まる。そこで重要な役割を果たすのがXC6194だという。
XC6194は、「Ship mode」と呼ぶ電池放電防止機能を備えたインテリジェントロードスイッチで、出荷前に電源ラインを完全に遮断することができる。製品使用時にプッシュボタンを押すことで、電源をオンにする。フリーズ対策用のバージョンも用意している。
これとは別に、VSET機能付きのXC9276を用いると、MCU動作時の消費電力も削減できるという。MCUの動作状態に応じて、供給電圧を2段階に切り替えられるからだ。例えば、MCUが「Sleep」状態のときは1.8Vを供給し、アナログ動作の場合は2.6Vに切り替えて、必要な電圧を供給することができる。この結果、Sleep状態が長く続くIoTデバイスなどでは、電池消費を30%も削減することが可能になるという。
続いて、「12V/24Vを供給されて動作するデバイス」の電源構成例を紹介した。ここでは、36V動作コイル一体型降圧DC/DCコンバーター電源モジュール「XCL230/XCL231」や、遅延付き電圧検出器「XC6134」などを用いる。
XCLシリーズは、コイル一体型のため、電圧内部固定タイプでは外付け部品はコンデンサー2個で済むという。コイル外付けタイプに比べEMIも大幅に抑えられ、小型パッケージでありながら放熱特性にも優れている。パッケージの構造は、「ポケットタイプ」や「スタックタイプ」「マルチプルタイプ」「クールポストタイプ」と4種類を用意。5.5Vの低耐圧から、12〜24Vの中高耐圧まで対応することができる。
12V/24Vの電源ラインの場合、電圧が上下して不安定になりやすいという。XCL230/XCL231は「100% Duty比」が可能であるため、電源電圧の大幅な低下に対応できる。
これに加え一次入力の電圧を監視する必要がある。「MCUが正常動作するのに十分な電圧かどうか」などを確認するためである。この時に用いるのが、電圧検出(VSEN)端子を分離したヒステリシス外部調整のXC6134である。検出/解除に任意の電圧設定が可能で、立ち上がりや立ち下りの遅延時間を設定できる。
また、FA機器やセキュリティ機器では、電源が急にダウンした時でも、データを安全に格納できるようなバックアップ回路が必要となる。この時、SBD(ショットキーバリアダイオード)を用いるのが一般的だが、VF(順電圧)分の電圧ロスによって、バックアップ時間が短くなるなど課題もあった。
そこでトレックス・セミコンダクターは、理想ダイオードロードスイッチ「XC8110/XC8111」を用意し提案する。電圧ドロップがないSBD相当のICで、SBDからの置き換えが可能である。
次世代IoTエッジ・センサーデバイスでは、複雑な処理を高速に行うため、FPGAや高性能MPUを搭載するシステムも増えてきた。FPGAなどには複数の電源電圧を供給しなければならないが、通常のマルチチャネル電源方式だと、電源ラインの引き回しによるインピーダンスの増加などが懸念されるという。こうした課題を解決するのが、POL(Point of Load)に適したDC/DCコンバーター電源モジュールを、FPGAの近くに設けて電源を供給する方式である。
POL用電源ICで必須となるのは、高速過渡応答や小型、低EMIである。高速応答を実現するため、一般的にCOT(Constant on time)制御技術が用いられてきたが、従来のCOT制御では、PWMの周波数変動や軽負荷PFMの電圧変動が課題となっていた。
これに対し、独自に開発したHiSAT-COT制御技術をXCLシリーズに採用し、従来の課題を解決した。PWMやPWM/PFMといった制御方式に比べ、過渡応答時の電圧ドロップ/オーバーシュートの収束時間を10分の1以下に抑えることができるという。
FPGAでは複数電源の立ち上がり/立ち下りシーケンスも重要である。特に立ち下りシーケンスはこれまで、最後にコア電源を立ち下げる方法として、大きなバイパスコンデンサーを用いることが多かった。このため課題もあったという。そこでトレックス・セミコンダクターは、大きなバイパスコンデンサーに頼らず、安全かつシンプルに複数電源の立ち上がり/立ち下りシーケンスを実現する方法を提案している。
FPGA向けPOL用電源として、CL(出力コンデンサー)ディスチャージ機能を備えた「XCL222/220/213」を用意した。CRディレイ回路で立ち上げ/立ち下げのシーケンスを作成。立ち上げ/立ち下げの切り替えはSBDで行い、XCL222/220/213のCE端子にその信号を入力するだけで、電源シーケンスを構成することができるという。一次入力ラインの監視は、VSEN分離タイプ電圧検出器で行い、この出力で各CEを駆動する。
これによって、電源を立ち下げる場合でも一次側DC/DCコンバーターICの出力電圧が5Vを維持している間に、FPGAのI/O端子、I/O電源、メモリ電源、コア電源といった順番に電源をオフすることができるという。
仲氏は最後に、トレックス・セミコンダクターが用意しているいくつかの設計サポートについて、その概要を紹介した。「産機/IoT」や「車載」といった代表的な応用分野の電源設計を支援する「アプリケーションソリューション」がWebページに掲載されている。また、デザインサポートのページからは、DC/DCコンバーターICの選定や動作チェック、周辺部品の選定などに適した「DC/DCシミュレーション」や、希望する電源仕様に適したICを選定できる「実機特性比較ツール」などが利用できる。
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提供:トレックス・セミコンダクター株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2021年8月12日