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トラクション・インバータの効率の「限界」を引き上げる! ゲート駆動能力を瞬時に切り替えるゲート・ドライバEVの航続距離を年間で1600km延長

電気自動車(EV)において、トラクション・インバータの高効率化はEVの航続距離の延長に直結する重要な要素だ。既存のトラクション・インバータにおいてさらなる高効率化が課題となる中、Texas Instrumentsは新たなゲート・ドライバを開発した。ゲート駆動能力をリアルタイムに切り替えることでSiC-MOSFETのスイッチング損失を抑え、システム効率を最大2%向上させる。これにより、EVの航続距離を年間で最大1600km延長できる。

» 2023年06月21日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
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EVの航続距離を左右するトラクション・インバータの効率

 電気自動車(EV)には価格、安全性、加速性能、乗り心地などさまざまな要素が求められるが、最も重要な要素の一つが航続距離だ。車載ケーブルや車体の軽量化、リチウムイオンバッテリーの大型化やエネルギー密度の向上、モーターの高効率化など、EV向けのさまざまな技術開発が進んでいる。それらの目的は、「EVの航続距離をいかに延ばすか」という点が大きい。

 航続距離の延長に大きく関わるのがトラクション・インバータだ。BMS(バッテリーマネジメントシステム)からの直流電圧を交流電圧に変換し、モーターのトルクと速度を制御するシステムだ。高電圧の変換を担うトラクション・インバータは、EVに搭載されているシステムの中で最も消費電力が大きいものの一つだ。このトラクション・インバータの変換効率向上はバッテリーの容量を効率良く使うことにつながり、航続距離の延長に直結する。

 そのため、トラクション・インバータの変換効率の向上を目指し、これまでさまざまな開発が進められてきた。特に、次世代パワー半導体の一つであるSiC-MOSFETの採用はトラクション・インバータの高効率化と小型化に大きく貢献した。従来使われてきたIGBTでは難しかった高速なスイッチングができるので、導通損失とスイッチング損失が改善されると同時に受動部品を小型化できるからだ。そして、IGBTも性能が向上し続けている。こうした半導体の進化やシステム設計の最適化などにより、既存の大半のトラクション・インバータは効率がほぼ90%を超えている。これ以上の効率アップを実現するには、どうすればよいのだろうか。

 トラクション・インバータの課題は効率だけではない。他の課題としては信頼性の向上が挙げられる。これはEVの安全性に欠かせない。次に電力密度の向上だ。トラクション・インバータ内のパワー系部品を高密度化し、部品当たりやシステム当たりの電力密度を高めることが求められている。それによって部品/システムを小型化できるからだ。3つ目として、設計の複雑さの低減がある。今やEVに搭載されるICの数は1000個を超える。1個のICにできるだけ多くの機能を搭載して設計の複雑さを減らすことがますます要求されている。

 こうした課題を解決すべくTexas Instruments(TI)が着目したのが、SiC-MOSFETやIGBTの駆動に欠かせないゲート・ドライバだ。ゲート・ドライバの駆動能力を適切に制御することで、パワー半導体の損失をできる限り低減する。そしてTIは2023年5月、絶縁型ゲート・ドライバの新製品「UCC5880-Q1」を発表した。

ゲート駆動能力をリアルタイムに変える

 UCC5880-Q1の最大の特長は、ゲート駆動能力を20マイクロ秒未満という極めて短い時間、つまりほぼリアルタイムで変更できることだ。これにより、SiC-MOSFETのスイッチング損失を最小限に抑えられる。UCC5880-Q1はSPI(Serial Peripheral Interface)インタフェースを備えているので、SiC-MOSFETだけでなくIGBTも、もちろん駆動できる。だが、UCC5880-Q1が最も能力を発揮するのはSiC-MOSFETと組み合わせたときだ。

 SiC-MOSFETを用いた場合、ゲート・ドライバの駆動電流を上げてスイッチング時間(立ち上がり/立ち下がり時間)を短くするとSiC-MOSFETのゲートの充電/放電が高速になり、電力損失を低減できる。ただし、速ければ速いほどいいというわけではない。立ち上がり/立ち下がりが高速過ぎると、ドレイン−ソース間電圧(VDS)も急速に変化し、電圧オーバーシュートとEMI(電磁干渉)が発生するという“副作用”を招く。そのため、駆動電流を適切に調整・制御して、電力損失の低減、電圧オーバーシュートおよびEMIの発生の妥協点を探すことが重要になる。それを可能にしたのが、駆動電流をリアルタイムで切り替えられるUCC5880-Q1だ。

 具体的には、±5Aと±15Aの駆動電流を出力するので最大で±20Aを出力できる。±5A、±15A、±20Aの駆動電流を、バッテリーのSOC(State Of Charge)に合わせて切り替える。SOCが80〜100%のときは、低い駆動電流(低い駆動強度)を使用してEMIと電圧オーバーシュートの発生を最小限に抑える。SOCが80%よりも下がった場合は、より高い駆動電流(高い駆動強度)に切り替えて今度はスイッチング損失を抑える。

EVの航続距離を年間で1600km延長できる

 このようにSOCに合わせてゲート駆動強度を変更することで、SiC-MOSFETを搭載したトラクション・インバータの効率を最大2%向上させることが可能だ。これにより、EVの充電1回当たりの航続距離を最大11.2km延ばせる。1週間に3回充電した場合、年間では最大1600kmも航続距離を延長できる計算になる。

トラクション・インバータの高効率化 バッテリーのSOCに合わせてゲート駆動強度を変えることで、EMI/電圧オーバーシュートとスイッチング損失の両方を低減でき、トラクション・インバータの高効率化を実現する 提供:日本テキサス・インスツルメンツ

 UCC5880-Q1はSiC-MOSFETの高度な監視機能や各種保護機能も内蔵しているので、トラクション・インバータの信頼性向上にもつながる。過電流に対する応答時間は75ナノ秒と、ナノオーダーで反応するほど高速だ。過電圧に対する保護機能として、1次側と2次側にASC(アクティブショートサーキット)を搭載していることも特長だ。パワーデバイス監視用のゲートスレッショルド電圧の測定や内部クロックの監視、保護コンパレータ用のセルフテストなどの診断機能も内蔵する。ISO 26262のASIL-Dに対応するためのドキュメントも提供される。

 さらに、絶縁型バイアス電源モジュールの「UCC14141-Q1」など、TIが提供する他のICと組み合わせることで部品点数を削減し、トラクション・インバータの電力密度を向上させられる。部品点数を30個削減して実装面積を半分にできるケースもあり、設計の複雑さが低減されるだろう。

800V/300kWのレファレンス・デザインも入手可能

 UCC5880-Q1とUCC14141-Q1を2個ずつ搭載した評価基板も249米ドルで発売されている。SiC-MOSFETを搭載した800V/300kWのトラクション・インバータのレファレンス・デザインも用意された。UCC5880-Q1の他、バイアス供給パワーモジュール、リアルタイム制御マイコン、センシング機能が搭載されていて、プロトタイプを迅速に製作できる。

800V/300kWのトラクション・インバータのデモモジュール。 800V/300kWのトラクション・インバータのデモモジュール。日本テキサス・インスツルメンツが「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」(2023年5月24〜26日、パシフィコ横浜)で展示したもの。主要な部品は全てTI製だが、SiCモジュールはWolfspeed製だ。同レファレンス・デザインはテスト済みで、カスタマイズもできる

高効率のトラクション・インバータ構築に必要なICの全てがそろう

 TIはUCC5880-Q1をはじめ、ASIL-Dに準拠したArmベースのマイコン、フライバックコントローラ、統合型トランス・バイアスなど、トラクション・インバータの性能向上に必要なさまざまなICを提供している。

TIには、高効率なトラクション・インバータの設計に必要な製品群がそろっている TIには、高効率なトラクション・インバータの設計に必要な製品群がそろっている 提供:日本テキサス・インスツルメンツ

 さらなる高効率が要求されているトラクション・インバータでは、IGBTからSiC-MOSFETに移行するトレンドが明確になっている。だがSiC-MOSFETの性能を引き出すためには、ゲート・ドライバによる適切なゲート駆動が欠かせない。外形寸法が10.5×7.5mmのSSOPに収められた小型の最新ゲート・ドライバは、トラクション・インバータの効率の向上とEVの航続距離延長の鍵を握っているのだ。

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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2023年7月20日

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