太陽光発電システムやデータセンター、EV(電気自動車)など、さまざまなアプリケーションの電源ユニットにおいてより高い電力密度の要求が高まっている。Texas Instruments(TI)が発表した100V GaN統合型パワーステージとトランス内蔵の1.5W絶縁型DC/DCモジュールは、このニーズに応える製品だ。100V GaN統合型パワーステージはシリコンを採用する場合に対してボードサイズを40%削減できる。トランス内蔵の1.5W絶縁型DC/DCモジュールでは外付けの大型トランスが不要なのでソリューションサイズを最大で約80%削減可能だ。
いかに小さなスペースでより大きな電力を供給できるか――。これは、データセンターのような大規模な施設から自動車まで、あらゆる産業用/車載用システムの電源ユニット設計において共通の課題だ。
電源ユニットが「より小さなスペースでより大きな電力を供給できる」ということは、電力密度が上がることを意味する。近年、あらゆる分野でより高い電力密度のニーズが高まっている。その一例がデータセンターだ。生成AI(人工知能)をはじめとするAIアプリケーションの急速な普及によってデータの処理量が増加の一途をたどるデータセンターでは、電力消費量が爆発的に増えている。だがデータセンターの電源設備は、スペースの問題で台数を増やしたり大型のものを導入したりするのは難しい。そのため、同じサイズでより多くの電力を供給することが求められている。同じことはEV(電気自動車)にも言える。自動車はデータセンターよりもさらにスペースが制約されるため、電力密度が高い電源の需要は高い。太陽光発電などの産業用システムでも、機器全体が小型化しても安定した性能や動作を実現するために、高い電力密度が求められている。
Texas Instruments(TI)は、電力密度の向上に貢献するパワーマネジメント製品に注力している。
TIにとって、パワーマネジメントを含めた電源関連の製品はビジネスの中核になる分野だ。同社はパワーマネジメント技術に長年にわたって投資している。電力密度の向上、バッテリ動作時間の延長、電磁干渉(EMI)の低減、パワー・インテグリティとシグナル・インテグリティの強化、システムの安全性の向上という5つのテーマを掲げて技術を開発している。
2024年3月には、電力密度をさらに向上させる2種類の新しい電力変換デバイスを発表した。100V GaN統合型パワーステージ(電力変換段)と、トランスを内蔵した1.5W絶縁型DC/DCモジュールだ。
TIは、パワーMOSFETとゲートドライバICを1パッケージに集積したパワーステージ製品を展開している。新製品の「LMG2100R044」と「LMG3100R017」は、TIとして初めて定格電圧が100Vと中電圧(80〜200V程度)のGaN FETを搭載した。シリコンのMOSFETよりも高いスイッチング周波数で動作できるGaN FETは、より小型の受動部品を使用できるのでボードを小型化できる、スイッチング特性や導通損失特性が本質的に優れているので損失をシリコンよりも低減できる、といった利点がある。ただ、これまでは定格電圧が450Vや600Vと高電圧のGaN FETが多く投入されていて、太陽光発電システムやサーバ用電源、無線機用電源といった中電圧の電力システムに適したGaN FETが少なかった。今回の新製品は、100V GaN FETを搭載したことでこうしたアプリケーションに対応できる。
LMG2100R044は4.4mΩのGaN FETとドライバを内蔵したハーフブリッジ構成で、LMG3100R017は1.7mΩのGaN FETとドライバを内蔵する。両製品は小型の磁気素子を使用できるので、1.5kW/in3という高い電力密度を実現。シリコンMOSFETなどのディスクリートでパワーステージ回路を構成する場合に対してプリント基板(PCB)のサイズを40%以上削減できる他、BOM(部品点数)の低減にもつながる。出力静電容量が60%小さくなり、ゲートドライブ損失も50%低減されるので、パワーステージ回路のシステム効率を98%以上に向上させられる。
太陽光発電システムのマイクロインバータにTIの100V GaN統合型パワーステージを利用するとマイクロインバータを小型化でき、同サイズのパネルでより多くの電力を生成できる。
パッケージには、TI独自の両面冷却パッケージ技術を採用。放熱特性に優れた上面冷却パッケージに加え、底面のグランドパッドを強化することでより効果的に熱を除去できるようになった。
新しい100V GaNパワーステージは、降圧/昇圧コンバータ、昇降圧コンバータ、LLCコンバータをはじめ、PSFB(位相シフトフルブリッジ)、BLDC(ブラシレスDC)モータードライバといった一般的な電源トポロジに適用できる。
LMG2100R044、LMG3100R017は提供を開始していて、それぞれの評価ボードも提供している。
絶縁型DC/DCモジュールは、トランスを内蔵することで絶縁型バイアス電源ソリューションを大幅に小型化できることが特徴だ。
従来の絶縁型バイアス電源はディスクリートで構成されることが多く、この場合は大型の外部トランスを使わなければならない。トランスは大きい上に重く、振動しやすいので振動対策が必須で、どうしても設計が複雑になる。このために電力変換効率が下がったり、EMI(放射電磁干渉)が増加したりする可能性もある。
TIは、こうした課題に応えるべく3kVrmsの絶縁定格を実現するTI独自の次世代トランス内蔵技術を採用し、DC/DCコントローラやパルスレギュレータとともに1パッケージに集積した絶縁型DC/DCモジュールを開発。わずか4×5mmのVSONパッケージで最大1.5Wの絶縁出力電力を供給できる。外部トランスとディスクリートで構成する従来の絶縁型バイアス電源ソリューションよりもサイズを89%以上、高さを約75%低減できる。一例として、10.4×33.6×4.2mmのソリューションを5.2×12.5×1mmに小型化できる。
ノイズに対する堅牢(けんろう)性も高い。同相過渡耐性(CMTI)は200V/ns、トランスの1次側と2次側間の静電容量は3pF未満と小さいことから、極めて大きい過渡電圧にも対応できる。
主なアプリケーションには、EVのバッテリ管理システム(BMS:Battery Management System)や車載充電器(OBC:On-Board Charger)などの車載用途、データセンター用電源やPLC(Programmable Logic Controller)システムなどの産業用途がある。
BMSのような車載用途では、外部トランスを使わないので振動対策が不要なことがとりわけ大きな強みになる。BOMが少ないので設計がシンプルになり、厳格なEMI規格にも適合しやすくなる。3pFという静電容量は、EMIフィルタを使わずにCISPR 32規格に適合できる値でもある。簡単なフィルタを設計すればCISPR 25規格に適合することも可能だ。
今回発表された1.5W絶縁型DC/DCモジュールは、産業用の「UCC33420」と車載用の「UCC33420-Q1」があり、1000個購入時の参考単価は1.30米ドルから。評価基板も提供している。UCC33420-Q1は機能安全に対応していて、車載認定を取得済みだ。さらに、UCC33420-Q1は入力電圧/出力電圧および電力定格が低いバージョンがあり、こちらは2024年第2四半期に入手可能になる見込みだ。
AIアプリケーションやEVの市場は今後も堅調な成長が予測されている。それに伴い、電源ソリューションに対する電力密度の要求もますます高まっていくだろう。独自の統合技術を駆使した高い電力密度や高度な冷却技術による優れた放熱性能、マルチレベルのコンバータトポロジによる高い変換効率など、TIが包括的に提供する電源技術は電力密度の要求に応える電源ソリューション開発に大きく貢献するはずだ。
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アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年5月7日