メディア

アナデジ融合にチップレット活用――「ローム×ラピス」だからこそ生まれたユニークなマイコン統合直後からシナジー全開!

2024年4月に子会社のラピステクノロジーを吸収合併したロームは、両社の強みを併せ持つ製品の開発と展開を加速させている。ロームが「シナジーが最も大きいカテゴリーの一つ」として挙げるのがマイコンだ。アナログ制御とデジタル制御の“いいとこ取り”をした「アナログ・デジタル融合制御」電源用のマイコン、チップレットを活用したマイコン、IC上で機械学習と推論を実行できるマイコンなど、市場投入を控えたユニークな新製品がそろう。

» 2024年07月01日 10時00分 公開
[PR/EDN Japan]
PR

 2024年4月1日、ロームが100%子会社のラピステクノロジーを吸収合併し、新生ロームが誕生した。アナログ/パワー半導体製品に強みを持つロームとロジック/マイコンに強みを持つラピステクノロジーが統合することで、ビジネス環境が大きく変化する半導体業界での競争に打ち勝つ強固な経営体制を構築する。今後、両社の技術を融合させた製品の開発や展開を加速させる。

 そうした製品の一例がマイコンだ。ロームのLSI事業本部 ラピスLSI事業担当 統括部長の福山弘幸氏は「マイコンは統合の成果を最も発揮しやすいカテゴリー」だと強調する。本稿では、2024年内にサンプル出荷を開始する新しいマイコンのうち、ユニークな特徴を持つ3製品を紹介する。

中電力領域にも「デジタル制御」電源を

ロームのLSI事業本部 ラピスLSI事業担当 統括部長の福山弘幸氏 ロームのLSI事業本部 ラピスLSI事業担当 統括部長の福山弘幸氏

 電源制御用「LogiCoA(注1)(ロジコア)マイコン」は、電源制御に必要なアナログ回路とマイコンを含めたデジタル回路を1チップ化した製品だ。このマイコンを使うことで、デジタル制御電源と同等の機能をアナログ制御電源レベルの電力消費とコストで実現できる。

注1 LogiCoAは、アナログ回路の性能を最大限に発揮させるために、デジタル要素を融合する設計思想に対して付与されたブランドです。また、「LogiCoA」はローム株式会社の商標または登録商標です。

 電源制御には、アナログコントローラで制御する「アナログ制御」とマイコン等を使ってデジタルで制御する「フルデジタル制御」がある。フルデジタル制御はきめ細かい制御ができる半面、高速なCPU/DSPが必要なのでコストが高く、消費電力も大きいという課題がある。そのため、太陽光発電システムやEV(電気自動車)チャージャーなど、出力電力の変動が激しくアナログ制御では対応が難しい、大電力(1kW以上)の用途に使われている。

 それらのアプリケーションを除く、PCやロボット、FA(ファクトリーオートメーション)機器、製造装置といった小〜中電力帯(50W〜1kWクラス)では、コストも消費電力も低いアナログ制御電源が主流だ。ただ、アナログ半導体で回路を作り込むことから、一度回路を構築すると変更しにくく、この点が派生製品を開発する際の障壁になる。電源回路をそのまま流用することができないからだ。「アナログ制御電源は一つの用途に最適化して設計するので、電源電圧や出力電力などの要件が少し変わると電源回りの調整をやり直す必要がある。設計者にとっては大きな負担だ」と福山氏は述べる。

 もう一つの課題が、電力変換(AC-DC変換)の効率だ。アナログ制御では、使用する電力に合わせて出力を微調整できない。一例として、ロボットアームの動きが大きいとき(大きな電力が必要なとき)でも、小さいとき(小さな電力で済むとき)でも、基本的には「必要とされる最大電力」時に電力効率が最大になるように設計される。その結果、小さな電力で動作する時には電力効率が悪くなる。

 これらの理由から小〜中電力領域の産業機器でもデジタル制御電源のニーズが高まっているが、上述した通りデジタル制御電源には電力消費とコストの面で課題がある。この課題を解決するために開発されたのがLogiCoAマイコンだ。低コストの低速CPUで3チャンネルのアナログコンパレータやパラメータのデジタル制御ができるD-Aコンバータを搭載している。PCでこのマイコン用プログラムのパラメータを変更すれば、出力電力などを容易に調整できる。ロボットアームの例で言えば、出力電力を必要に応じて動的に変えられるようになるので効率が上がる。

LogiCoAの概要 提供:ローム

 電源の流用も簡単になる。アナログ部品はそのままで、マイコンのパラメータを変えて電圧値や電流値を調整すれば済むからだ。「アナログ電源回路を流用できるので、より多くの派生製品を開発しやすくなる。開発期間の短縮が求められる中、設計者にとってこれは大きなメリットになるのではないか」

リファレンスデザイン Buck-Converter(LogiCoA001-EVK-001) 提供:ローム

 LogiCoA用のソフトウェアはロームが顧客の用途に合わせてベースをある程度作り込み、リファレンスデザインとして提供する。「お客さまの用途に合わせてパラメータを変更してもらえばすぐに使用できる」

 「フルデジタル制御電源には高性能マイコンが必要なのでコストが掛かる。LogiCoAマイコンは、『そこまでのコストはかけられないが、よりきめ細かい電源制御を行いたい』というニーズに応える製品だ。LogiCoAマイコンにより、デジタル制御の恩恵を受けられる小〜中電力領域の機器が増えると期待している」

 LogiCoAマイコンは2024年6月に量産出荷を開始した。

チップレットを使った「LASCA」

 2つ目が、チップレット技術を活用した新たなブランドのマイコン「LASCA(LApis Scalable Chiplet Architecture:ラスカ)」だ。22nmプロセスを適用した高性能マイコンチップと130nm/150nmのレガシープロセスを適用した特定用途の高性能アナログチップを、チップレット技術で1パッケージ化して提供する。

 LASCAは、SoCの開発にかかる時間とコストの削減を目的としたものだ。LASCAに搭載されているマイコンと同じ22nmプロセスのSoCを開発する場合、数年の開発期間と膨大な開発費を要する。先端プロセスを用いる場合、コストメリットを得るにはある程度の量産規模が必要だが、特に産業機器ではそうした用途は限られる。

 LASCAは、アナログチップのみをカスタマイズすることで、開発費と開発期間を大幅に抑えて22nm SoCと同等の機能を持つマイコンを実現できる。「カスタムチップの開発だけで済むので、開発期間を早ければ1年以内に短縮できるのではないか。マイコンを一から開発するよりもリスクも低い」

 単一プロセスで製造する22nm SoCに対する付加価値として、高性能・高耐圧のアナログ回路を搭載できることを強調する。5V動作のA-D/D-Aコンバータや高耐圧なセンサ制御用AFE(アナログフロントエンド)回路、高耐圧プロセスのゲートドライバ回路などを搭載できる。マイコンチップは、動作周波数が300MHzの「Arm Cortex-M33(注2)」コアを搭載し、最大1MバイトのMRAMを集積している。「汎用(はんよう)的に使えるように、マイコンチップにさまざまな機能を搭載した。『開発費を大幅に抑えながら22nmのSoCを開発できる』というイメージだ」

LASCAのイメージ。先端プロセスのマイコンチップの利点と高性能・高耐圧のカスタムアナログチップの利点を両立させている 提供:ローム

 ロームは、LASCAの第1弾として民生機器と産業機器のモータ制御に最適化したアナログチップを搭載した製品を開発。5Vの電源動作をサポートし、高速なフィードバック制御によってシステムの電力を効率化する。「モータ制御用なのでノイズ耐性に優れた5V対応のアナログチップを組み合わせた。今後も、顧客の用途に最適なアナログチップを搭載したLASCAの品種を増やしていく」

 チップレット技術を用いることは、ロームにとっても利点が大きい。マイコンとアナログチップのそれぞれに適したプロセスを使えるのでトータルの製造コストを抑えられる。将来的には、マイコンに22nm以降の先端プロセスを用いる可能性も大いにある。

 LASCAの第1弾は2024年秋に最初のサンプル提供を開始する。量産は2025年春を予定している。

IC上で学習と推論を実行できるAIマイコン

 3つ目の「スタンドアローンAIマイコン」は、ロームが開発した超低消費電力のAIチップと32ビットのArmマイコンを組み合わせて1チップ化した製品だ。“スタンドアローン”という名前の通り、この製品だけで機械学習と推論を実行できる。

 AIチップは、慶應義塾大学 理工学部情報工学科の教授である松谷宏紀氏が考案した「オンデバイス学習アルゴリズム」をベースにロームが開発したハードウェアアクセラレータを搭載したもの。わずか数十mWという超低消費電力で学習と推論が可能だ。ロームはこのAIチップを「Solist-AI(注3)」として2022年9月に発表した。スタンドアローンAIではこのAIチップが機械学習関連の処理を担い、ArmマイコンはFA機器の制御などに必要な処理を担う。

スタンドアローンAIマイコンはクラウドに接続せず、IC上(AIアクセラレータ上)で学習と推論を実行できる 提供:ローム

 スタンドアローンAIマイコンは、まずはFA機器などの産業機器の予知保全用途を狙う。工場のFA機器は設置場所によって温度や振動といった環境が異なる。こうしたFA機器にスタンドアローンAIマイコンを後付けすることで、電流や振動などのデータを収集して機器の状態を学習し、いつもと異なる挙動を検知したらアラートを発信するといった使い方ができる。セキュリティや通信遅延、通信環境などの理由でクラウド接続を控える工場も多い。そうした環境において、推論のみならず学習もオンデバイスで実行できることは大きな利点になると福山氏は強調する。

 スタンドアローンAIマイコンは、2024年秋にサンプル出荷を開始する。

 今回紹介したマイコンはいずれもロームとラピステクノロジーの強みを生かしたユニークな製品だ。福山氏は「両社の統合の成果は既に表れている。ラピステクノロジーは通信用ICをはじめさまざまな製品を持っているが、ロームのアナログ/パワー技術との相乗効果を最も発揮しやすいのはマイコンではないか。今後もこのような製品の開発と市場投入を加速させていく」と語る。

注2 ArmおよびCortexは、Arm Limited(またはその子会社)のEUまたはその他の国における登録商標です。
注3 「LASCA」および「Solist-AI」は、ローム株式会社の商標または登録商標です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:ローム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EDN Japan 編集部/掲載内容有効期限:2024年7月7日

RSSフィード

公式SNS

EDN 海外ネットワーク

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.